【試乗インプレ】競合他車にない気持ちよさ…燃費にも優れる仏プレミアム「DS5」(前編)
この連載を始める前からずっと気になっていたクルマにやっと乗ることができた。フランス大統領の公用車にも採用されたDS5。すでに発売から年数が経っていることから試乗を見送ってきたが、先日ディーゼル仕様車が日本にも導入されたのを機に取り上げることにした。今回、前編ではフランスのVIPも納得させるその乗り味に迫る。(文と写真:産経新聞Web編集室 小島純一)
先祖は「宇宙船」
DS5はもともとフランスの自動車メーカー、シトロエンの高級車「DS」シリーズの最上級車種であり、2011年のデビュー時には「シトロエン・DS5」という名称だった。2015年にDSがシトロエンから独立した一ブランドとなり(レクサスとトヨタのような関係)車名から「シトロエン」が外れた。だから、現在はブランド名が「DS」で車名が「5」ということになる。えらくあっさりした名前のようにも感じるが、BMWも車名は基本的に数字だし、マツダにも海外では「3(=アクセラ)」とか「6(=アテンザ)」など数字だけの車名にしている車種があって、欧州ではよくある名付けパターンの一つとも言える。
DSの名前の由来は「宇宙船」の異名をとる往年の名車DSから。DSは車高調整機能をも備える先進的な油圧サスペンション「ハイドロニューマチック」と、未来的な流線型フォルムで今も語り継がれる、フランス自動車史を代表する高級車である。
残念ながらDS5は普通のバネサスペンションだが、造形の未来感は受け継がれており、止まっていても走っていても他のどの車にも似ていない独特のオーラを放つ。
車格は欧州基準で言うところのDセグメント。ベンツ・Cクラス、BMW・3シリーズ、アウディ・A4、ジャガー・XE、国産車ではレクサス・ISあたりが競合クラスとなる。超ポピュラーな、良くも悪くもコンサバティブなセダンが揃うこのクラスの中にあって、写真を見ていただければわかるとおり、DS5は明らかに異色の存在であり、もっともアグレッシブなコンセプトを持っていると言っていい。スタイルに関しては次週の後編に譲るとして、そろそろ本題に入ろう。
プレミアムの名に恥じない上質な乗り味
まず、乗り込んでドアを閉めた時の音が重厚。ボディー剛性の高さを予感させるとともに、高級感も伝わってくる。
オドメーターはまだ2ケタ、つまりまだ下したての新品ながら、適度に体が沈み込んで座り心地のいいレザーシートの位置を合わせ、エンジンをかける。下手なガソリン車よりもその振動は小さく、アイドリングストップからの再始動も非常に静か。ディーゼルエンジンであるデメリットを感じない。
キャビンの遮音性もすこぶる高く、よく耳を澄まさないとディーゼル特有のガラガラ音はわからないくらいだ。
アクセルをゆっくり踏み込んで走り出すと、最初に感じるのはその重厚感。実際に重めの車重と、低回転から大きなトルクを発生させるエンジンの特性が相まって、すごく大きなクルマを動かしているような感触がある。接地感、安定感も非常に高く、市街地走行ではドイツプレミアム勢に全く引けをとらない上質な乗り味だ。
大トルクで追い越しも楽々
トルクはわずか2000回転で40キロと3.5リッタークラスの余裕の数値で、1.7トン近い車体を軽々と走らせる。アクセルの踏み込みに対し遅れなく加速が始まり、特に低回転での高速巡航態勢からの追い越し加速では思いのままに速度が乗っていく。レブリミットは4500回転あたりと高回転域での伸び感はないが、そもそも穏やかにゆったり走らせるほうが気持ちよく、速く走ろうという気にさせない。高速道路に入っても市街地での好印象は変わらず。エンジン音、車外の騒音はほとんど聞こえず、風切り音も少ない。ロードノイズもまずまず抑えられている。
足回りはやや固めの設定ながら、突き上げがあってもすぐに収束し、不快感はない。最近のクルマとしては重めのハンドル(個人的にはちょうどいい重さに感じた)には路面状況もよく伝わってきて、スピードが上がっても安心感が損なわれず、直進安定性もドイツ車レベル。どこまでも走っていけるような気になる。
リッター17キロ 無給油で1000キロいけるかも
100キロ巡航時、エンジン回転数は1500をちょっと切るあたり。変速時も早めにシフトアップされるので、通常は2000回転を超える場面がほとんどない。したがってエンジンノイズが少ないのに加え、燃費がすこぶるいい。メーター内のマルチインフォーメーションディスプレイには残燃料での走行可能距離が表示されるのだが、60リッタータンクに軽油を満タンにしてしばらく高速道路を走っていると、700キロメートル台でスタートしたその距離表示がどんどん伸びていって、ついには980キロメートルに!
足かけ3日間走り終え車両返却直前の給油時、満タン計測法でリッター17キロ台と2リッタークラスのエンジンとしては驚異的な数値になった。しかも燃料はリッター100円前後の軽油だから、このクルマを買ったら毎週末遠出せずにはいられなくなるだろう。
乗り始めの小一時間は違和感
阪和道を撮影ポイントの白浜町・円月島に向け「いいクルマ感」を満喫しつつ走らせながら、ふと我に返る。冷静に考えるとこのクルマ、スペック的には競合車種に対して何ら突出している部分はない。燃費は間違いなくトップクラスだが、動力性能的にも、乗り味的にも、代わりが務まる競合車はいくつもある。だが、運転していてどうにも気分がいい。他社Dセグのセダンやステーションワゴンでは味わえないタイプの気持ちよさが確かにあるのだ。それはなぜか。
おそらく答えは、このクルマ特有のフォルムにある。
実は乗り始めの小一時間は違和感があった。全高はさほど高くなく、着座位置もセダン的であるにもかかわらず、ダッシュボードが異様に長く、ボンネットはほぼ見えない。しかも前席ドアとフロンドウインドーの間に大きく長い三角窓が展開しており、視界の広がり方がミニバン的なのだ。この印象に最も近かったのはトヨタ・初代エスティマ(公私含め私が今までに乗ったクルマの中で)、と言えばDセグのクルマとしてどれだけ異色かおわかりいただけるだろうか。
試乗する前から「セダン的なDセグ」という先入観を持ち、実際に姿勢も高さもセダン的な位置で運転しているのに、目から入る情報だけがミニバン的なので、頭が混乱したのだと思う。
しかし、この視界に慣れてくると開放感がとても高く、実に快適になってくる。視点はそれほど高くないのに視界の開け方が変わるだけで、こんなにも気分が変わってくるものなのかと驚いた。と同時に、外観重視で造形が決まったとばかり思っていたこのフロントウインドー周りのデザインが、走行時の乗員の気分にも大きく影響していることにも気付かされた。ただカッコだけ追求したわけではなかったのだ。やだ、DS5さん素敵。こういうのグッと来てしまう。
独創と標準を併せ持つ
ボディーの設計に関しては競合他社と全く違う独自のアプローチでドライバーにホスピタリティーを提示し、走りの性能では欧州プレミアムの水準をきっちりクリアするという二面性は、DS5の大きな魅力かもしれない。
さて、次回後編ではその独特のスタイルに着目。外観にも内装にも充満するそのオリジナリティーにあなたはついて来られるか? いつもどおり画像増し増しでお届けする。乞うご期待。(産経ニュース/SankeiBiz共同取材)
■基本スペック
DS5 シック BlueHDi レザーパッケージ 6AT
全長/全幅/全高(m) 4.535/1.87/1.53
ホイールベース 2.725m
車両重量 1,690kg
乗車定員 5名
エンジン 直列4気筒ディーゼル ターボチャージャー付
総排気量 1.997L
駆動方式 前輪駆動
燃料タンク容量 60L
最高出力 133kW(180馬力)/3,750rpm
最大トルク 400N・m(40.8kgf・m)/2,000rpm
JC08モード燃費 17.3km/L
車両本体価格 497万円
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