【試乗インプレ】窓に無数の傷…知られざるボンドカーの真実 トヨタ・2000GT

 
フロントウインドーに無数の細かい傷が。そのワケは…映画「007は二度死ぬ」の撮影に使われた2000GT。トヨタ博物館2000GT特別展

 今回から4回にわたって、愛知県にあるトヨタ博物館と、トヨタ産業技術記念館の見学記をお送りする。今回はトヨタ博物館の2000GT特別展にフォーカス。と言っても、展示期間はすでに終わっており、今から行っても見ることはできない。すみません。せめてWeb上で行った気分だけでも味わっていただければと思う。また、行きたかったけどスケジュールが合わなかったり、遠方で行きそびれたという方にもお楽しみいただければ幸いである。(文・写真:産経新聞大阪本社Web編集室 小島純一)

 純国産のスーパーカー

 2000GTのデビューは今からちょうど50年前の1967年で、トヨタとヤマハとの共同開発。DOHC化された直列6気筒エンジン、日本初の4輪ディスクブレーキなどの先進的装備に国産車離れした流麗なスタイルをまとって鮮烈に登場した。

 最高時速は220キロと性能も当時としては世界トップレベルであり、スピードトライアルでは世界記録と国際記録を樹立している。

 販売価格は238万円で当時のカローラ約6台分。現在の価値に換算すると1千万円を軽く超える価格も含め、純国産のスーパーカーと言える存在である。

 今回の特別展で展示されていたのは4タイプ。前期型。後期型。米国でのレース仕様車をベースに作り直されたスピードトライアル仕様車のレプリカ。日本を主な舞台にした映画「007」シリーズの第5作目「007は二度死ぬ」の撮影で使われたボンドカーの4台だ。

 今年1月のオートメッセでも2000GTの展示を見たが、久しぶりに実車を前にすると改めて感動する。

 3ナンバー(横幅170センチ超え)の高性能車が当たり前となった現代の感覚で見ると、全幅はたったの160センチ、全高も120センチ弱と小さく引き締まったボディ。そして、どの角度から見ても伸びやかなボディーラインがほれぼれするほど美しく、思わず目尻が下がって言葉を失う。

 2週間で改造したと思えぬ完成度

 4タイプあるなかで、一番面白かったのはやはりボンドカー。

 案内してくださった博物館の広報の方によると、撮影用車両の制作にはたった2週間の猶予しかなかったのだという。なんでも、プロデューサーは当初別のクルマを候補にしていたのだが、トヨタからの強いアプローチもあり2000GTが採用されることになったのだそうだ。

 ご存じの通りベースとなる市販車の2000GTはハードトップのクーペ1タイプしかない。これをたった2週間でオープン(コンバーチブル)ボディーに作り変えてしまったわけだが、市販モデルとはまったく形状が異なるサイドウインドーから後ろのボディーを、上から下から横から斜めからじっくり眺めてみても、とても2週間で仕上げたとは信じられない。オープン仕様の市販車も予め用意されていたとしか思えないほど完成度が高い。ここまででも十分一見の価値ありなのだが、面白いのはここから先である。

 映画のための割り切りとこだわり

 オープンにすべく畳んだ幌を収納したように見える座席後部の黒い部分をよく見てみると固い樹脂製。つまり幌の開閉はできず、というかそもそも幌屋根自体装備されていない。映画の中でも幌を開閉する場面はないのでダミーで十分だったわけだ。

 割り切ったところばかりでなく、強いこだわりが感じられる部分も。フロントウインドーの形状は、実は市販車と同じではなく、屋根がない状態で最も美しく見えるように窓枠の形状を作り直したのだという。その結果、中にはめるガラスの形や大きさも変わってしまったため市販車用パーツの流用が利かず、かといって湾曲した特殊な形状なので、ガラスの製造も間に合わないということと、撮影で役者の顔がよく見えるように脱着式の透明樹脂製ウインドーが用意された。

 そう言われて目を近づけると、確かにフロントウインドーの表面は、ガラスではつかないような(使い古したタッパーウエアについているような)細かいひっかき傷が無数についていた。1枚目の添付写真はまさにこの箇所のアップである。

 細かい話はこれくらいにして、あとは写真をご堪能いただこう。

 さて次回はいよいよ博物館本館へ。2000GTが前座に思えるほどディープな内容に写真満載でお送りする。乞うご期待!