【試乗インプレ】実直の権化がプレミアムブランドの牙城に挑む VW・アルテオン
昨年10月の東京モーターショー、フォルクスワーゲン(VW)のブースで、電動ミニバンのコンセプトモデルや、今夏に日本に上陸する予定の新型ポロなどと並び、来場者の熱い視線を受けていたのが今回試乗した5ドアクーペ、アルテオンだ。実直なクルマを作るイメージが強いVWが、この流麗なデザインの新型車の投入でプレミアムブランドの牙城を崩そうとしている。言わば、VWからの挑戦状、その実力やいかに。(文・小島純一/産経ニュース 写真・瀧誠四郎)
長く、広く、低い
アルテオンはVWの4ドアセダン・パサートをベースに、一回り大きな5ドアクーペボディにしつらえた同社のフラッグシップモデルだ。
パサートと比較して全長で6センチ長く、全幅で4センチ広く、全高で3.5センチ低い。ワイド&ローのスタイルに加え、20インチの大径ホイールがスポーティーな雰囲気を醸し出す。
ゴルフやパサートの上位モデルで長く定評を得ている4気筒2リッターターボエンジンが出力特性をアルテオンに最適化して搭載されている。本国ではガソリンの1.5リッターや2リッターディーゼルエンジンのFF仕様も選べるが、日本では同社独自の四輪駆動システム「4MOTION」を採用した最上位グレード「R-Line」のみ導入となる。
ライバルはずばり、アウディ・A5、BMW・4シリーズである。
今回は市街地走行のみで短時間の試乗だったため、限定的な評価しかできないが、主にパサートと比較しながら旗艦車種としての実力をみていく。
ステータスシンボルになり得る外観
アルテオンのシルエットは、大柄なボディーサイズを生かしたなだらかな曲線で描かれている。
ここ数年のVWのデザインと言えば、2019年に日本での販売が終了するザ・ビートルを除けば、ゴルフ、パサートなどに見られる「実直」を形にしたような直線基調だが、アルテオンはフロントマスク、フェンダー周り、ドアパネル、テールランプ周辺など、カーブが多く用いられており、エンブレムを隠したらVWのクルマと判別がつかないほどに既存の車種と趣を異にする。
その造形やサイズからは「余裕」あるいは「自信」という言葉が想起され、このクルマに乗ることでドライバーが自らを鼓舞し、周囲に存在感を示すことができる予感に溢れている。つまり、ステータスシンボルになり得るクルマということであり、プレミアムカーとして十分な資質を持った外観デザインだと思う。
ライバルと比べた場合、BMWやアウディが3シリーズやA4などの既存車種のイメージに縛られる部分があるなかで、アルテオンはより自由にデザインされているとも感じる。
VWらしからぬ外観デザインで注目を集めた3ドアクーペのシロッコが、日本での販売を終了してから久しいこともあって、「攻めてるVW車」の再来は一人のクルマ好きとして大いに歓迎したい。
ドアがサッシレスなのも、いかにもクーペという感じで気分が上がる。
高級車として差別化が課題
そのドアを開けて運転席に座りぐるりと見まわしてみると、内装デザインはほぼパサートと同じだ。個人的にはパサートの内装は国産、輸入車を含めた現行全車種の中で一番気に入っているのだが、パサートより上位に位置付けられ、グレードによっては100万円以上高額なアルテオンの内装が、ほぼ同じなのはいかがなものか。
価格なりの質感向上は当然として、そもそも既存デザインの流用ではなく外観イメージにマッチしたクラス感のある新規デザインを盛り込んでほしいところだ。
目新しさがないことに目をつぶれば、出来自体はあまり文句をつけるところがない。ホールド性のいい本革シート、全面液晶で高精細な表示のメーターパネル、9インチのタッチパネルディスプレイ、直線基調で統一感のある飽きの来ないデザインと操作性のいい適切なレイアウト。
強いて粗探しすれば、ドア内側のハンドルの触感が無塗装樹脂で味気なかったことくらいか。乗り込む時には必ず手に触れる場所だけに、ここを改善するだけで、満足感はグッと上がるのではないだろうか。
しかし繰り返しになるが、これらはすべてもともとクオリティーの高いパサートのインテリアから引き継いでいる特徴だ。絶対的な評価としては高い点数をあげられるけれども、「高級車として差別化されている」とユーザーが実感できるアルテオンならではの持ち味がないのは、やはり残念と言わざるを得ない。
リクライニング不要 絶妙な背もたれの角度
身長172センチの私がシートポジションを合わせた運転席の真後ろに座って、後席には足を組める空間が広がる。
パサートよりも4センチ長いホイールベースが奏功し、後席ではリムジン的なもてなし感を味わうことができる。
クーペスタイルでルーフ後端が下がっているため、さすがに頭上はこぶし1つ分しか余裕がないが、全高を3.5センチ下げていることを考えると十分な後席室内高が確保されていると言っていいだろう。
個人的には後席背もたれの角度が絶妙と感じた。高級セダンでは背もたれのリクライニング機能が装備されているものも多いが、アルテオンはリクライニング機能が要らないと思えるちょうどいい角度で作られている。移動の距離にかかわらず、乗り降りしやすく、リラックスでき、かつ疲れにくい角度と言える。
後席足元のセンタートンネルは四輪駆動ということもあって高めであり、真ん中に大人が座ると足元は窮屈に感じるだろう。
大人4人なら、長距離ツーリングでどこに座ったとしても疲れは少なそうだ。
前方、後方の視界はまずまず良好だが、全高を下げたことで、サイドウインドーの面積は狭くなっている。
全体にガラス面積が広く、スクエアなボディーで見切りもいいパサートと比べると運転しやすさや開放感では劣る。しかしクルマの性格を考えると、むしろ包まれ感や安心感が高い、と評価するのが適当のように思う。
荷室容量は563リットルと、パサートセダンの586リットルよりも少し劣るが、リアハッチが大きく開く分積み込みしやすい点ではノッチバックセダンのパサートより使い勝手がいい。
開閉は電動で、両手が荷物でふさがっていても、バンパー下のセンサーが足先のジェスチャーを感知して自動でハッチが開く。荷室後端の横幅が広いことと併せて、日々の買い物に便利なのはもちろん、ゴルフ愛好家にとってもうれしい装備と言える。
VWらしい高水準の乗り味だが…
市街地を走って体感できる走行性能は、2リッター版ゴルフやパサートの延長線上であり、想定の範囲内で正直驚きはない。
無論、恐ろしく高いボディー剛性と直進安定性、減衰力を自在にアレンジできるダンパー、ATの滑らかさとMTのダイレクト感を両立する熟成のデュアルクラッチ変速DSG…と快適かつ運転が楽しくなるVWらしさは健在だ。
1.7トンを超える車重を感じさせない軽快な加速と高級車らしい重厚感が同居する乗り味もいかにもVWと言える。しかも四輪駆動だから、走る場所を選ばない柔軟性も備わる。
ただ1点、路面状況が悪くなるとロードノイズが多めに入ってくるのは残念だ。
5ドアという構造上キャビンと荷室間に隔壁がないこと、サッシレスドアで遮音性を高めにくいこと、35扁平の幅広タイヤを装着していることなど、ロードノイズに関して不利な条件が重なっているからと思われる。
外観からの期待が大きかったせいもあるが、やはりここにもゴルフ、パサートと比較したときのもう2段くらい上のクラス感が欲しい。
そもそも走りの質感は、すでに2つ格下のゴルフの水準でほぼ高級車レベルなので合格ラインはクリアしているわけだが、価格差分ほどの違いは感じられず、走りを楽しむという点ではゴルフやパサートで十分かなとも思えてしまう。
松・竹・梅で竹を選ぶ日本人の心理を突いた?
ここまで、ベースとなったパサートとの比較で見てきたが、価格差を考えると私ならパサートを選ぶことになると思う。
色気は少ないが、パサートのスクエアなデザインも別の意味でクールだし、内外装のデザインコンセプトに筋が通っていて、乗っていても降りて眺めても納得がいく。
動力性能的にもFFで十分、なんなら1.4リッター仕様でもいい。と言うか気筒休止システムの付いた1.4リッターエンジンの先進性のほうがむしろVWらしい気がする。燃費はいいし、何と言ってもベースグレード(気筒休止機構はつかない)は300万円台前半の値付けだ。
パサートばかり持ち上げてしまったけれど、四輪駆動が必要ならアルテオン一択となる。FFしかないパサートの2リッター版最上位モデルとの40万の価格差を許容できるなら悪くない選択かもしれない。
他社ライバルの価格設定は、BMWの4シリーズグランクーペの四駆仕様が633万円から、アウディ・A5スポーツバックのクワトロ(四駆)は686万円からとやはりお高い。それぞれアルテオンとの価格差は約90万円と140万円で、お得感では圧倒的にアルテオンに分があるし、BMWもアウディもVWに比べてオプションの単価が高めに設定されているので、最終的な支払額ではもっと差が開く。
しかしライバルにはブランド力の強さに加え、BMWはミッションが8速、アウディは内装の質感が数段上と高いなりの理由もあって、なかなか悩ましい。
また、既存VW車とプレミアムブランドの隙間を狙う絶妙な価格設定、と見ることもできる。松・竹・梅と並べられると竹を選びがちな日本人の心理を狙っているのかもしれない。
お得感と外観デザインの魅力で、どこまでライバルの牙城を崩せるか、要注目である。▼【試乗インプレ】のアーカイブはこちらから
■基本スペック
フォルクスワーゲン・アルテオンR-Line4MOTION Advance 7DSG
全長/全幅/全高(m) 4.865/1.875/1.435
ホイールベース 2.835m
車両重量 1,720kg
乗車定員 5名
エンジン 直列4気筒DOHCインタークーラー付きターボ
総排気量 1.984L
駆動方式 四輪駆動
燃料タンク容量 66L
最高出力 206kW(280馬力)/5600rpm~6500rpm
最大トルク 350N・m(35.7kgf・m)/1700rpm~5600rpm
JC08モード燃費 13.3km/L
車両本体価格 599万円