【木下隆之の試乗スケッチ】BMW「M4 GT4」 駆け抜ける歓びと優しいドライブを両立

 
BMW「M4 GT4」

 今年僕は、「ブランパンGTアジア」シリーズへのフル参戦を実行している。チームは、スーパーGTでもチャンピオン獲得経験のある、名門「BMW Team Studie」だ。今年からデリバリーが開始された最新のBMW「M4 GT4」マシンを駆り、アジアを転戦しているのだ。

 というわけで始まった「木下隆之の試乗スケッチ」では、いきなりのレーシングカー、BMW「M4 GT4」を紹介しようと思う。

◆世界の主要メーカーが参戦する「GT4」

 まず、その車名にある「GT4」を説明する必要があるだろう。BMW「M4 GT4」のBMWはもちろんドイツのメーカーであり、M4はDセグメント、つまりミドルサイズのスポーツクーペ。そして最後の「GT4」がミソ。いま世界で盛り上がり始めている新しいレースカテゴリーの名なのである。

 GT4の特徴は、市販車の形を残したまま、戦闘力を高めたレーシングカーであることだ。僕が駆るBMW「M4 GT4」は、市販車と共通の4リッターツインターボエンジンを搭載し、7速シーケンシャルミッションを組み合わせている。極端に張り出したオーバーフェンダーや神棚のようなウイングの装着は認められていない。パワーも500ps前後に留められているのだ。

 それでいて、タイヤはピレリのスリックタイヤを履く。写真をご覧いただければ想像できるように、速く走るために不必要なものは一切省略されているから、ドアの内張はカーボン素材であり、シートもドライバー用一脚しかない。パワーは500ps前後であっても軽量化によって車重は1250kg前後までダイエットされている。

 一方でコンペティションに不可欠な装備は充実している。デジタルメーターやエアジャッキといったレース用パーツが組み込まれているのである。

 世界の主要なスポーツカーメーカーの多くがこのカテゴリーに参加し始めた。今年は我々のBMWを筆頭に、AMGやポルシェ・ケイマンの他、マクラーレンやアウディR8、そしてジャガーが新型を発表。すべてが出揃ったら10数メーカーが参戦するという今注目のカテゴリーなのである。

◆電子制御システムも充実

 そんなGT4なのだが、レーシングカーといってもとても乗りやすくできている。というのも、GT4はいわば世界の腕っこきドライバーが安心して戦えることを目指して企画されたカテゴリーだからだ。

 数々の実績を残したプロドライバーだけでなく、趣味の延長として(というには本格的すぎるが…)参戦するドライバーですら扱えるように開発されているのが特徴だ。

 だから、スーパーGT500のように、一部の一流ドライバーでさえコントロールに手を焼くような激辛な操縦性ではなく、比較的優しくドライブできる。

 しかもBMWは「駆け抜ける歓び」をスローガンとしているように、ドライブすることで爽快な感覚を得ようとしているから尚更だ。それはBMWの哲学とも一致するのである。

 たとえば発進は、そもそも2ペダルだからエンストの心配はない。ABSとやトラクションコントロールも装備されている。電子制御システムも充実しているのである。

 実際に僕がドライブするときには、ABS以外の電子制御システムはほぼカットして、自らの技量に頼って走るから、気を緩めればスピンもするしコースアウトもする。だが、基本的にはイージードライブが目標だから、ドライビングは困難ではないのだ。ギリギリのタイムに挑めばそれなりに牙を剥くけれどね。

◆レースでは速過ぎるがゆえの足枷も

 最高速度は270km/h前後だ。ビギナーには刺激十分だろうが、プロドライバーであればコントロールしやすい、というあたりの絶妙なバランスなのである。

 ちなみに、4戦を消化した時点での成績は、最高位が2位。すべてのレースでAMGGT4に負け越しているのが気になるところだ。

 実はそれには言い訳がある。実はGT4カテゴリーは、FIAが定めたBOP(バランス・オブ・パフォーマンス)という性能調整が課せられているのだ。

 我々のBMW「M4 GT4」は、昨年チャンピオンのポルシェ・ケイマンGT4に比較して約80kgのウエイトが積まされ、さらに15mmの車高アップが課せられている。ターボブースト圧も低めに抑えられている。M4が速すぎるがゆえの足枷なのだが、これが我々を苦しめている。

 ともあれ、ドライビングのしやすさという点では秀でており、それがBMW「M4 GT4」の最大の特徴だと思う。

 このコラムをご覧になった腕っこきの方、一度BMW「M4 GT4」でレースに参戦してみませんか?(笑)

 「木下隆之の試乗スケッチ」は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。掲載は不定期。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム「木下隆之のクルマ三昧」はこちらから。

【プロフィル】木下隆之(きのした・たかゆき)

レーシングドライバー 自動車評論家
ブランドアドバイザー ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。