【木下隆之の試乗スケッチ】BMW X2 スポーティな「末弟」は都会が似合うSUV
BMWの豊富な車種構成には驚くばかりだ。それだけに、「車種が多すぎて区別がつかないのだ」という声も聞く。
基本的なフロントマスクは例外なくキドニーグリルが印象を強く残しているうえに、フォルムにはBMWフィロソフィーが注がれている。ビックサイズからコンパクトまで緻密にラインナップしているから、どれを買ったらいいのか迷うという声も少なくない。それほどBMWのモデル構成は豊富なのである。
◆「家族構成」はちょっと複雑?です
しかも、モデル名は1から8まで順番に続いており愛称がない。その無機質な数字の羅列がBMWらしくもあり、ブランドを成立させる秘訣でもあるのだが、理解するまでは複雑であろう。
この夏また、新たに「BMW X2」が加わった。試乗を前に、わかりやすくBMWの家族構成を紹介しようと思う。
BMWのモデル名である数字は、数が多くなるにしたがってボディサイズが大きくなることを意味している。
さらには、1、3、5、7と奇数列が4ドアセダン系。セダン系といっても、ワゴン系のツーリングがあったり、グランドツーリングと呼ぶ5ドアハッチバックセダンがあったりと複雑である。
2、4、6、8の偶数列はクーペ系を意味する。レジャー系といってもいい。奇数列が使い勝手や乗り味など、万能性を求めているのに対して、偶数系は遊びココロが求められている。
◆スタイリッシュで遊びゴコロのあるSAV/futoji>
さらにBMWには「X」系がある。いわゆるSUVだ。これも同様に、1から5までの奇数列(まもなくX7もラインナップされる)は、素直なSUV系であり、2から6までの偶数列は遊びゴコロのあるクーペ系なのである。
BMWはX系奇数をSAV(スポーツアクティヴィティヴィークル)と呼び、X系偶数をSAC(スポーツアクティヴィティクーペ)と称することでキャラクターを分けている。数字の大きさは同様にボディサイズを表している(といってもなかなか理解しづらいだろうから、軽く流してください)。
今回新たに加わったX2は、BMWラインナップの中ではセダン系ではなくSUV系であることを意味し、偶数であることから、謹厳実直ではなく遊びゴコロを備えたスタイリッシュ系のSAC、車格的には小さいことをその英数字が伝えているのである。
◆オシャレ度を得ようとする努力も
そう、そんな家系図のように整然としていた系譜にポッカリ欠けていたパズルのピースを、今回投入された新型X2が埋めてくれたのだ。空白だったX系の2がどうもこそばゆくて気になっていただけに、これで大いにスッキリしたというわけだ。
と思って写真をご覧いただきたいのだが、SACとはいうものの、それほどクーペ風なボディ形式ではない。X4やX6があからさまになだらかなルーフラインをもつクーペスタイルであるのに対してX2は、スクエアなボディである。
X1やX3と比較すれば、オシャレ感は強いのだが、クーペと呼ばれるとちょっと首を傾げたくなる。
さすがにコンパクトなX2となるとX4やX6のようにルーフを下げると居住性を確保できなくなるという事情もあったのだろう。それでもオシャレ度を得ようと、Cピラーをホフマイスター・キンク(Cピラーの蹴り上げたライン)風にしており、そこにはBMWエンブレムを組み込んでいる。
◆ターボチャージャーで力強い走り味
ともあれ、走り味はXの名に恥じない。クーペらしく、スポーティフィールにあふれている。
試乗したのは「Xドライブ20i」つまり、直列4気筒2リッターターボエンジンを搭載する4WDである。エンジンは最高出力192psを発揮。低回転域からあからさまにターボチャージャーの過給が加わるから、排気量から想像するよりも大幅に力強い。
車高が低いことは重心が低いことを意味しているようで、フットワークも洗練されている。クロスカントリー風の無骨な走り味はまったくなく、都会を闊歩するのが相応しい乗り味だと思えた。
BMW家に新しく加わったX2は、いわば偶数系Xにもっとも遅れて生まれてきた三男である。でもやっぱり、ボディはコンパクトであってもBMW流SACの思想は色濃く残されていると思えた。
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「木下隆之の試乗スケッチ」は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちらから。
木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム「木下隆之のクルマ三昧」はこちらから。
【プロフィル】木下隆之(きのした・たかゆき)
ブランドアドバイザー ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
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