【CAのここだけの話♪】〈オランダ流働き方〉社員の幸せが仕事の充実につながる

 
木村友香さん

 SankeiBizの読者の皆さんにだけこっそり教える「ここだけ」の話。第35回はオランダ系航空会社に乗務8年目の木村友香が、勤務しながら驚いたオランダ人の働き方をテーマにお話ししたいと思います。

 皆さんにとって、欧州の航空会社を利用されるときに日本の航空会社と違うと感じられることの1つが、男性CAの数が多いということだと思います。男性CAだけでなく、女性のパイロットもたくさん在籍しています。ジェンダーバイアスが全くないとは言いませんが、より適性ベースで雇用されているのですね。

 そもそもオランダ人と働いていると「性別って一体なんなのだろう?」と考えさせられます。

 まず、私の同僚の男性の半分以上はゲイです(私の知る限り)。ゲイと言っても心は男性で男性が好きな人もいれば、心が女性な人もいて、一言で括ってしまうには実に多様。ついこの間まで男性パイロットとして乗務していたのに、自分は女性だったということに気づいて性転換をし、今は女性パイロットとして乗務している同僚もいます。彼女の子供たちは、「ママが2人になった!」と言っているようです。

▽LGBTへの理解が当たり前の社会

 会社は性的少数者(LGBT)を当たり前のこととして捉えています。首都アムステルダムで年に一回催されるゲイの世界的な祭典「ゲイプライド」では、ゲイたちがボートで運河をパレードするのですが、「K◯M」という私の会社の名前をもじって「GAY◯M」と書かれたボートを会社が出し、そのボートの上で金ピカに着飾った同僚たちがサタデーナイトフィーバーさながら踊りまくるのです。

 ユーモアたっぷりに会社が参加しているのを見ると、理解があるというより、会社や社会にそもそも多様な人がいることを認識すること自体、当たり前のことだよなあと思います。

 同性婚の認められているオランダ。ゲイの夫婦が同じギャレー(機内食を温めたりカートを用意する台所のような場所)で働いていたことがありました。東京に2人で来たくて一緒の便をリクエストしたとのこと。

 仲睦まじく楽しそうに働いているのを見ると、こちらまで嬉しくなってしまいますね。お客様にまでハッピーが伝染していたと感じたのは身内贔屓でしょうか?

 この夫婦に限らず、家族やカップル、友人で同じフライトをリクエストし、ギャレーやコックピットで一緒に働くというのは普通にあることです。

▽まず社員がハッピーじゃなくちゃ

 「彼は僕の息子なんだ、パイロットになったばかりで、今日初めて一緒に飛ぶんだ!」ととっても嬉しそうにしていた機長のお父さんと、パパやめてよ、と恥ずかしそうなセカンドオフィサーの息子。親子でコックピットで一緒に働く姿はそれは微笑ましかったです。

 「娘が先にCAになって、なんだか楽しそうだったから私もCAになっちゃったの! 次のサンフランシスコ便は娘と一緒に飛ぶのよ。まるでバカンスよね」という50代半ばのお母さん。

 「公私混同でしょ!」と日本ではなかなか許されなさそうですが、さすがは合理的なオランダ。「社員がハッピーであればあるほど、お客様にもハッピーなサービスができる!」というごくシンプルな考え方なのです。ですから、お客様にサービスするためキャビンに出るとき、同僚間でお互いに「Veel plezier!(楽しんで!)」と声を掛け合います。

 私も友人や家族を自分の乗務便に連れて行ったことがありますが、自分が楽しいと単純にやる気がでるのですね。

 逆に言うと、失恋が理由だとしても心が元気でないときは、安全なフライト業務を遂行できないと見なされ、病欠をするように言われているくらいです。

▽ワークライフバランスと柔軟な働き方

 会社はマンパワーの余裕のあるときはできる限りリクエストを叶えてくれようとします。社員の幸せが仕事の充実にもつながることを、オランダ人は体験的に知っているのです。その証拠に、この会社が嫌で辞めたい、という日本人の同僚に今まで会ったことがありません。

 私の以前のマネジャーは月火木の週3日勤務でした。メールを出すと返ってくるのは大体「Out of office(オフィスにいません)」の自動返信(笑)。彼女のいない日はアシスタントが対応します。

 私たちのスケジュールを管理するスケジューラーも、午後2時半以降に電話すると既に帰宅しておりオフィスにいません。朝早く出勤して午後はさっさと帰り、家族やプライベートの時間を充実させています。

 皆がバカンスをしっかり取るし、同じ社員がいつもオフィスにいるわけではないということを分かっているので、お互いに対応も慣れている。社会的に合意があるため問題にならないのです。

▽オランダ国王も「同僚」なんです!

 ワークシェアリングの国オランダでは、地上社員もCAも、パートタイム制を活用して家庭や他の仕事とバランスをとっている人が多いです。

 家庭とCAを両立するだけでなく、副業とCAを両立している人もたくさんいます。医師、俳優、弁護士、モデル、実業家、心理カウンセラーなどと職種は実に様々。子育てや副業から得た多様なスキルや経験は機内で当然生かすことができますし、その逆も言わずもがなですよね。

 余談ですが、オランダ国王もわが社のパイロットとして、パートタイムで働いているのです! 民間の会社で一般人と働くことは国王として非常に大事な経験なのでしょうね。国の有事にすぐにオランダに戻れるように、日帰りができるヨーロッパ線のみ乗務しています。仕事中は同僚とはお互いにファーストネームで呼び合うそうですよ。

【プロフィール】木村友香

 きむら・ゆか 慶応義塾大学卒業後、日本企業を経てオランダの航空会社に入社。日本人CAとして8年。中国・北京に5年半在住経験があり英語と中国語を話す。趣味は旅と食べ歩き。

 このコーナーはエアソルに登録している外資系客室乗務員(CA)が持ち回りで担当します。現役CAだからこそ知る、本当は教えたくない「ここだけ」の話を毎回お届けしますので、お楽しみに。内容は随時更新します。エアソルはPR、商品開発、通訳、現地リサーチ、ライター業務等、現役CAの特性を活かせるお仕事を副業としてご紹介しています。

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