【木下隆之の試乗スケッチ】ジムニー スズキが誇る唯一無二の軽4WDが進化 オンも快適
スズキが軽自動車唯一の本格的4WD「ジムニー」の生産を開始したのは1970年。当時のプレスリリースに気持ちが揺さぶられる。
◆半世紀でフルモデルチェンジはわずか3回
「現在、四輪駆動車の生産は全社で約5000台程度である。これらは2000~3000ccの排気量であり価格も90万円~100万円とかなり高価だ。しかも需要は産業用、法人用に限られている。(中略)これからは山岳、積雪地帯の商店、製造業、狩猟、つりなどから遊びの車としてのレジャーカーに至るまでの個人需要も含めて開拓できるものと期待されている」
価格を抑えることで、本格的4WDが市民の足となり、日本人の生活を豊かにすると期待した。そんな熱い志でジムニーは開発されたのである。その志はいまでも貫かれている。
それが証拠に、ジムニーが誕生してからもう48年が経つ。驚かされるのは、48年という月日の長さではなく、48年も支持されてきたというのに、今回の新型がようやく4代目だということ。初代が11年間、2代目が17年間、3代目に至っては20年間もの長い期間、フルモデルチェンジされてこなかったのである。
1955年に誕生したトヨタクラウンは今年のモデルで15代目になる。単純に割り算をすれば4.2年になる。一般的なモデルサイクルは約4年である。4年でユーザーの嗜好は変わり飽きられる。
◆奇を衒わず、時代に迎合せず
だというのに、ジムニーは平均して16年も同じモデルを販売してきた。改良を続けてきたことで時代に遅れずにきた結果ではあるものの、驚異的なロングライフである。
それでもずっと、売れ続けてきた。3代目のデビューでは10万台を超えたものの、今でも世界194カ国で5万台を売るというから化け物である。累計では285万台を達成しているというのだ。
驚くほどのロングライフなのは、奇を衒わず、時代に迎合せず、自らの信念を貫いてきたからに他ならない。そしてジムニーは、唯一無二の存在だからであろう。
基本は軽自動車である。本格的なラダーフレームを採用している。660ccターボのエンジンを縦置きに搭載。システムはパートタイム4WD。あえて独立懸架サスペンションを否定し、3リンクリジットとしているのだ。それはロードクリアランスを稼ぐためである。
◆ジムニーがないと困る人たち
というように、無骨なまでに本格的オフロード性能にこだわってきたことが、長い間支持されてきた証なのだ。法人需要はもちろんのこと、小規模商店などに愛用されているという。林業を始め、降雪地帯の郵便配達に重宝がられているという。
四輪駆動のモデルはジムニーだけではないが、本格的なオフロード性能を持ち、コンパクトなサイズであることはまさに同じもののない存在であり、ジムニーでしかこなせない仕事があるのだ。ちょっと大袈裟に言えば、ジムニーがなかったら生活に困る人がたくさんいるのである。だからこれまで長く支持されてきたのである。
とはいうものの、新型になって進化したことも忘れてはならない。坂道でも発進が容易な「ヒルホールド」や下り坂で有効な「ヒルディセント」、あるいは瓦礫の踏破性が高まる「ブレーキLSDトラクションコントロール」、ステアリング剛性に影響する「ステアリングダンパー」など、オフロード性能が格段に向上している。
◆オンフィールも洗練された
それでいて驚きは、オンロードフィールが洗練されていることだ。もともとラダーフレームはオフロードでは有効でも、オンロードでの乗り味が悪い。
だが、新型はフレーム剛性が引き上げられたことや、ステアリングダンパーの効果もあって、しなやかな走り味になったのである。本格的オフローダーの踏破性は魅力だけれど、乗り味が無骨だからという理由で敬遠していていたユーザーにも受け入れられると思う。
さらにいえば、安全性能も高まっている。緊急ブレーキシステムも装備している。車線逸脱を検知する予防安全システムも充実している。ふらふらっとした時に、警告音が鳴った。まさかジムニーに警告されるなんて、時代も進化したものである。
SUVが幅を利かせている昨今、硬派のクロスカントリーを標榜するジムニーは異色の存在かもしれない。だが、セーフティ機能は当然のように装備しているし、そもそもオンロードフィールも格段に向上しているのだ。これからもまたジムニーは売れ続けるに違いない。
◇
「木下隆之の試乗スケッチ」は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちらから。
木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム「木下隆之のクルマ三昧」はこちらから。
【プロフィル】木下隆之(きのした・たかゆき)
ブランドアドバイザー ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
関連記事