【CAのここだけの話♪】〈CAのルーツ?〉機内の看護と体調ピンチの対処法教えます!

 
大洲友里絵さん

 SankeiBiz読者の皆さんだけに客室乗務員(CA)がこっそり教える「ここだけ」の話。第36回は、元看護師で現在東南アジア系航空会社に日本人CAとして乗務3年目の大洲友里絵がお送りします。

 皆さんは、世界初の女性客室乗務員のはじまりは看護師であったことをご存知ですか? ユナイテッド航空の前身ボーイング・エア・トランスポートの定期便に搭乗したのが始まりで、機内で気分が悪くなった乗客の世話をすることを目的として看護師が乗務し、女性によるサービスが乗客の人気を集め集客に貢献したといわれています。

 飛行機内というのは大変特殊な環境です。限りある密室空間と物品、飛行中の揺れ、気圧の違いなど…。そんな環境下で、体調を崩されるお客様もしばしばです。

 そこで今回は、機内での体調不良の対処法・予防法についてご紹介します。

▽地上と上空の違い

(1)気圧

 機内では、気圧を調整する装置とエアコンにより地上に近い環境を作り出していますが、地上と同じ環境ではありません。袋菓子がパンパンに膨らんでいるのを見たことはありませんか? これは、機内が地上に比べて気圧が低いことを表しています。

 この気圧の変化は私たちの体内でも起こっています。体内のガスが膨張し、溜まりやすくなったりします。体外へ排出できないガスが内部を圧迫し、人によってはお腹の張り、耳の異変や痛み、息苦しさ、幹部の痛みなどが生じる場合があります。

(2)酸素量

 気圧の低下に伴い、機内の空気中の酸素の圧力(機内酸素分圧)も地上の70~80%ほどになります。体内が酸欠状態になりやすく、血液やリンパ液の循環も悪くなりやすいです。これにより、肩こり、むくみ、だるさ、めまい、頭痛、吐き気などを感じる人もいます。

(3)湿度

 機内の湿度は一般的に10~20%ほどに保たれています。なぜ機内を乾燥させているのかというと、それは機体やエアコンを結露から守るためです。機体内外の温度差はかなり大きく結露が生じますが、結露は機体の金属やシステム類の錆び、腐食、配管を塞ぐなどの悪影響を起こします。

(4)揺れ

 天候不良や気流の不安定な場所を飛行する際などに機体は揺れます。揺れるタイミングは、事前に分かることもあれば突然の場合もあります。揺れによってお客様と私たちCA両方が怪我などせず安全に過ごせるよう、私たちは常に突然の揺れを想定しながら行動しています。

▽ファーストエイドの訓練

 CAには保安要員という、お客様の安全を守る重要な責務があります。機内では体調不良を訴えられるお客様も時々おり、使用できる物品もスペースも限られています。すぐに地上に降りて医療処置を受けることもできません。

 そのため、CAはあらゆる状況に対応できるよう、訓練中にファーストエイド(応急処置)についても学習し、手技も練習します。また、飛行機内には医療処置物品が設置されています。私が勤務する会社では、心臓に電気ショックを与える自動体外式除細動器(AED)、ファーストエイドキット、メディカルキット、酸素ボンベ・マスクなどがあります。

 メディカルキットは医師・看護師など医療職のライセンスを持った人しか開けて使用することができません。他の物品は、キャプテンやチーフパーサーの許可を得たあと乗務員で使用することができます。

 また、飛行中も医療処置・管理が必要なお客様が搭乗されることもあります。その場合は、座席を丸ごと取り外してストレッチャーを設置して飛行することもあり、医師と看護師が同乗しています。

▽機内で多い症状

 機内でお客様からよく訴えのある症状としては、悪心・嘔気、めまい・失神、腹痛・下痢、発熱などがあります。体調不良を訴えるお客様の数は、日本に帰る便の方が断然多いです。旅やお仕事でのお疲れが溜まっていたり、現地で楽しんだ食べ物や飲み物が関係して…ということなのでしょう。

 脳貧血によるめまいや失神は一番多いです。トイレに向かう道中やトイレの前や中で、めまいでしゃがみこんでしまったり、意識を失って突然倒れられる方も。このような場合、倒れた時にどこかに身体を打ち付けて、怪我も引き起こすこともあるので注意が必要です。飛行機がよく揺れて乗り物酔いを起こす方、お腹の調子が優れない方もよくいらっしゃいます。

 お客様の状態やその程度によっては、医師や看護師をはじめ医療従事者のお客様からお力を貸していただけるよう、ドクターコールのアナウンスをします。私も今までに何度かアナウンスをしましたが、幸いなことに必ず1人はお客様の中に看護師の方がいらっしゃり、声をかけていただきました。時には10人近くいらっしゃったことも(笑)。

 医師のお客様がいらっしゃらなかった場合は、看護師だけで状態や緊急度をアセスメントし、近くの空港に着陸すべきか否か判断を委ねられることもあります。私もそのような判断を求められたことが一度ありましたが、その時は私以外にお二人ベテランの看護師さんがいらっしゃったので、意見交換しながら最終判断ができ心強かったです。

▽機内で快適に過ごすために

 まず、「体調が少し変だな、悪いかも」と思ったら早めに乗務員に声をかけてください。乗務員は応急処置ができるように訓練されていますので、お客様が少しでも楽になれるようなお手伝いをすることができます。症状を悪化させないことは大切です。

 空席が多い便で、座席が3席並びで空いているような場合は、体調不良のお客様が横になってお休みになれるようにそのまま空けておくようにしています。また、嘔気や下痢などの症状をお持ちのお客様には、トイレが近く行き来しやすい通路側の座席に移っていただくご提案もします。

 お客様の体調の状態によっては、飛行中に地上職員と連絡を取って、車椅子や救急車、検疫官を手配したりもします。

 日本のお薬を少し持っていくこともおすすめです。解熱鎮痛剤、下痢止め、風邪薬、酔い止めなど持っていると安心でしょう。

 機内でも内服薬は準備してありますが、特に外資系の航空会社の場合、搭載されているお薬も海外のものになります。日本のもので、できれば内服したことのあるものを服用するのが安心だと私は思います。

▽予防法としては…

 快適な旅と機内でのひと時を過ごすためには、体調が悪くならないに越したことがありませんよね。いくつか気を付けたいチェックポイントを挙げてみます。

・食べ物や飲み物に気をつける

 東南アジアの国々は暖かい気候に加え、衛生環境が良くないレストランや屋台も多くあります。道端の屋台で販売しているものや、ローカルなレストランで特に生物を食べる際は要注意です。お腹の弱い方は特に気をつけましょう。手や指を消毒できるジェルやウエットティッシュを持ち歩くこともお腹を壊さないための予防法の1つです。

・通路側の席や機体の重心あたりの席をリクエスト

 通路側の座席は出入りがしやすく、乗務員に直接声もかけやすいです。また、機体の中心のやや前側の重心あたりの座席(主翼近くの座席)は後方の席よりもやや揺れが少ないといわれています。

・十分な休養

 これは、帰りの便の前は難しいかもしれませんね(笑)。ただ、睡眠不足や疲れが溜まっていると体調を崩しやすくなりますので気を付けてください。

・楽な服装

 身体を締め付けないゆったりとした服装は、ゆっくり機内で休むためにも、また胃腸への圧迫を避け、体調不良予防・緩和にも良いです。ベルトや首回りのボタンを緩めるだけでも効果的です。

・内服

 乗り物酔いしやすい方、下痢症状がある方はお薬を飲んでおくと良いでしょう。食あたりなど細菌やウイルスによる下痢の場合は、下痢止めの服用は好ましくないので、日本に着いたら速やかに受診しましょう。

 頭痛など痛みがある場合も、痛みを感じた時点で予防的に内服しておくと良いと思います。痛みが酷くなってからの内服だと、効き目があまり感じられない可能性があるからです。

・空港クリニック受診

 空港内には併設のクリニックがあるところが多いので、フライト中がとても心配な場合は受診すると良いでしょう。

・アルコール摂取の速さと量に気をつける

 飛行中の機内は地上と比べて、気圧の影響でアルコールの分解速度が遅くなり、また代謝されにくくなります。地上より酔いがまわるのが3倍早いともいわれています。

 乗務員はお客様のアルコール摂取量やスピードに留意しながらサーブしていますが、思わぬ体調不良を起こさないためにも、量や飲むスピードを自分で注意していくことは大切です。

・読書やゲームに注意する

 乗り物酔いしやすい方は避けましょう。

・小まめな水分摂取

 機内は乾燥しており、脱水状態になりやすい環境にあります。人によっては目がとても乾燥したり、喉に痛みを感じる方も。脳貧血の予防のためにも、水分は小まめにとりましょう。

・ストレッチなど

 機内では自分の席という狭い空間で同じ姿勢で過ごす時間がどうしても長くなってしまいます。すると、血液の巡りも悪くなり、むくみや脳貧血などの原因になり得ます。

 立ち上がる前にはかかとの上げ下げ運動などをして、ふくらはぎや太ももの筋肉を動かしてからゆっくりと立ち上がると、めまいや失神の予防に効果的です。排便・排尿後も血圧低下が起こりやすいので注意が必要です。座りながら時々手足を動かしたり、トイレに行ったタイミングで少しストレッチするなどして全身に酸素を送りましょう。

 飛行機内で体調が悪いことほど辛いことはありません。体調に気を配りながら過ごしていきたいですね。そして、もしもの際は遠慮なく乗務員にお声がけください。お客様が安心安全快適に機内で過ごしていただけるよう、全力を尽くします!

【プロフィール】大洲友里絵

 おおす・ゆりえ 岐阜大学医学部看護学科卒業後、東京都内の大学病院にて6年間勤務。新生児から高齢者まで幅広い患者の看護を経験。仕事にやりがいを感じていたが、CAになる夢が諦められず、東南アジア系の航空会社へ転職。趣味は、旅行、料理、読書、図画工作。

 このコーナーはエアソルに登録している外資系客室乗務員(CA)が持ち回りで担当します。現役CAだからこそ知る、本当は教えたくない「ここだけ」の話を毎回お届けしますので、お楽しみに。内容は随時更新します。エアソルはPR、商品開発、通訳、現地リサーチ、ライター業務等、現役CAの特性を活かせるお仕事を副業としてご紹介しています。

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