【木下隆之の試乗スケッチ】クラリティ PHEVの仰天「EV度」 エンジンはおまけ?
ホンダがクラリティに託す思いは熱く激しい。かつては水素燃料電池車として話題を誘った近未来を想像させる印象的な車名なのだが、いまでは、ひとつの車形でEV(電気自動車)とPHEV(プラグインハイブリッド車)をも成立させるモデルとして注目されている。
今回デビューした「クラリティ PHEV」の最大の特徴は、驚くほど長いEV航続距離にある。バッテリー容量は17kWhもある。168個ものセルを14個のモジュールにまとめ、床下に搭載しているのが特徴だ。
プリウスPHVのバッテリー容量は8.8kWhであり、アウトランダーPHEVでさえそれは12kWhにとどまる。クラリティがいかに大容量バッテリーを搭載しているかがわかる。
◆ガソリン要らずで114キロ走破
EV走行距離(JC08モード)はなんと114.6kmに達した。これほどまで長い航続距離を達成したのは、バッテリー容量が桁外れに大きいことが理由なのである。
「EV走行距離114.6km」が意味するところは深い。家庭のガレージなどでコンセントとクラリティをつなぎ、バッテリーを満充電して出かけたのなら、114.6kmまではガソリンを1滴も消費せずに帰宅できるということなのだ。
遠出しないかぎり、1日114.6kmも走ることはないだろうから、もし近所の買い物や子供の送り迎えや、あるいは近隣の通勤程度の使い方なのだったら、数カ月もの長い間、ガソリンスタンドに行くことはないだろうという「EV度」である。
もちろん自宅で満充電してきたバッテリーが空になっても、その場で立ち往生するわけではない。そこからはハイブリッドとして走る。 搭載するガソリンタンク容量はわずか26リッターであるが、エンジンに助けを借りながら走行しても28km/lと高燃費である。およそ800km無給油走行が可能なのだから驚かされる。
◆モーターも強力、高速にもラクラク合流
クラリティのEV度が高いのは、バッテリー容量だけではなく、モーターパワーが強力である点も寄与している。モーターの最大駆動電圧は650Vに達している。モーターだけのEV走行での最高速度はなんと160km/hに達するというのだから腰を抜かしかける。高速道路のランプウエーから強い加速で合流しようとしても、モーターパワーで事足りる。
しかもご丁寧に、クラリティのアクセルペダルには無駄なガソリン消費を抑えるような細工がしてある。これ以上のアクセルの踏み込みではガソリンが消費しますよ、というポイントに差し掛かると、アクセルペダルに反力が発生するのだ。ペダルが何かに引っかかるような違和感があるから、無意識にアクセルの踏みすぎが抑制される。
実際に、横浜みなとみらいをスタートして首都高速を周回し、中華街や元町などの商店街を巡ってみたものの、道中のほとんどがEVモードだったのは驚きだった。
◆毎晩充電すれば一生GSに縁がない?
ガソリンに依存する時間はほんとうに少ない。試乗時間中、オンボードコンピューターに表示されている平均燃費は、ほとんど99.9km/lを差したまま動こうとしなかった。
概算で800km無給油走行するとなると、1日の走行距離が114.6km以内であり、エンジンを始動させないような穏やかな運転パターンという前提で言えば、毎晩充電を繰り返していさえすれば一生ガソリンスタンドに行かなくて済むという計算だ。現実的に考えても、数カ月は無給油の生活を過ごすに違いない。
そう、クラリティは本質的にEV車である。エマージェンシー用にガソリンエンジンを搭載しているにすぎないEV車と考えるのは自然である。
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「木下隆之の試乗スケッチ」は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちらから。
木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム「木下隆之のクルマ三昧」はこちらから。
【プロフィル】木下隆之(きのした・たかゆき)
ブランドアドバイザー ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
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