【CAのここだけの話♪】〈知識で勝負!〉目は鷹のごとく…七変化しても驚かないで?!

 
平松真依さん

 SankeiBizの読者の皆さんにだけ客室乗務員(CA)がこっそり教える「ここだけ」の話。第37回は中東系航空会社の日本人CAとして乗務2年目の平松真依がお送りいたします。

 私の会社は100カ国以上の国籍の乗務員を抱え、150カ国以上に路線を広げています。そして私たちCAは国籍問わず、全路線に毎便異なるクルーセットで乗務します。今回「知識量・情報量」が私たちCAにとって大切かについて書きたいと思います。

◆CAの“the most important goal(最重要目標)”

 大半のお客様の目から映るCAは、お客様のお出迎え、ドリンク・ミール等をご提供する、空のウエイトレスのような姿ではないでしょうか。しかしこの姿は私たちにとってごく微々たる姿なのです。まるで七変化のように私たちは必要に応じて変化できるように訓練されているのです。

 CAはいわゆるスカイデビューをするまで数カ月の地上での訓練を行います。お客様の想像するCAの姿とは裏腹に、訓練はサービス2割・保安8割で行われます。私たちCAにとって最も大切な仕事は保安業務であり、お客様を安全に目的地まで届ける事が一番のゴールであることが分かりますね。

 そのために私たちは、トレーニング中、まるで百科事典のような数百ページにも続くテキストを何冊も受け取り、全てを頭の中に「知識」として記憶するのです。

◆ブリーフィングルームが凍り付く瞬間

 私たちは毎便フライト前に、その日共に勤務するCAたちとブリーフィング(短い会議)を行います。1万人以上の乗務員を抱える私の会社では、毎便全員が互いに初対面であることばかりでその雰囲気は毎度異なります。

 しかし総じて、このブリーフィングの中で空気が凍りつくのがいわゆる知識チェックの時間です。もちろんCAとして1番大切な“保安員”としての知識です。答えられなかった日にはもう…「忘れちゃった」では許されない、継続的に勉強する事が求められるお仕事なのです。

 また他にも、お客様の情報やプロファイリング(個人の特性の記録・分析)等の情報も共有されます。そこではフライト中に医療的にアシスタントが必要なお客様から、何かしらのサービスリカバリーが必要なお客様、そしてエスコートのつくお客様など私たちが知るべき情報が共有されます。この情報なくしてはフライトは円滑に進みません。

 そしてもう一つ、私たちにとって大切なのはお客様のプロファイリングです。例えば日本の方々は丁寧で繊細な接客を好まれる方々が多い一方で、欧州の方々はフレンドリーで素早い接客をお求めになる場合が多いです。

◆ギャレーとキャビンは別世界…

 ほかにも「言語バリア」や一般的なキャラクターなどの情報が共有されます。路線ごとにお客様を“deal with(扱う)”する方法を知っておくことが不可欠であり、私たちはお客様にとってより良いCAであるために、路線ごとにまるで別人のように変身するのです。

 お客様を過度にお待たせすることなく適温で適したメニューをご提供するために、ギャレー(キッチン)はまるで戦場のように慌しくなっているのをご存じでしょうか。

 お客様とカーテン1枚を隔てたその先では、ギャレーマネジャーを中心に乗務員が狭いギャレーでバタバタと働いているのです。1度離陸してしまったら、機内にあるもので何とかお客様の要望に応えなければならないのも私たちの仕事の一つ。ミールが足らない、スペシャルミール(アレルギーやベジタリアン用等特別メニュー)が足らない、などは断じて許されません。

 そのためにも、地上でケータリングスタッフとしっかりとした情報確認が行われます。「かしこまりました。」と落着き払い、微笑みながらゆっくりと進むカーテンの向こうでは、別人のように俊敏に駆け回っているのです。

◆安全のためなら目の色も変わります

 先ほど私たちCAにとって最も大切なことはお客様の安全と申し上げましたが、実際に私たちの目の色が一番変わるのはこの“安全”に関わることです。お客様をお出迎えする際、CAはお客様の目を見てお一方お一方ご挨拶を致します。

 接客業の一つの仕事として笑顔でご挨拶をするのはもちろんですが、その笑顔の裏では保安員としてチェックしています。泥酔しているお客様はいないか、不審な動きをするお客様はいないか、体調不良に見えるお客様はいないか等、鷹のように鋭く目を光らせて見極める瞬間でもあるのです。

 筆者は特に日本線では体調不良のお客様がいないかに気を付けております。特に日本に向けたフライトでは、どのお客様も日本から遠く離れた地でで数日間観光された方ばかりです。慣れない地での滞在・食事・気遣いで心身ともにお疲れの中で飛行機に乗るわけなので気を使います。

 まして私の会社は日本人乗務員が極めて少ないので日本人乗務員が接客させて頂く可能性は非常に低いです。お客様によっては、前のフライトでは「言語バリア」から誰にも言えなかったというケースもしばしばなようです。

◆ジムにも行きます、そのワケは…

 さて先ほど申し上げたように鷹のように鋭い目も持つ私たちCAですが、一番に垣間見えるのはメディカルシチュエーションでしょう。筆者も3年目とはいえ数えきれないくらいにメディカルシチュエーションを目の当たりにしてきました。飛行機という非日常的な環境は、自身の想像以上にお客様を心身共に疲れさせます。

 それまでにこやかに華やかな声色で接客している私たちCAも、いざ何か起こると、野太く鋭い(!)通りやすい大きな声と素早いとっさのファーストエイドが行えるように訓練されています。正しい知識を持って、すぐにお客様の情報を集めて適した対応することが必然の仕事なのです。

 筆者がエコノミークラスで働いていた際、ご搭乗中の皆様をにこやかにご挨拶してお迎えしていたなか、体調不良に見えたお客様の腕を急にパシッと掴んでお止めして、お客様方に大変驚かれた(怖がられた?)こともございます。

 筆者はいざというときのため(CPR=心肺蘇生法=は案外体力も筋力も必要なのです…)ジムにも通っています。周りを見てもジムに通う乗務員は大変多いです。

◆一言目はこちらから…

 接客業として「情報量」がいかに大切かは、もちろん安全に限りません。

 「私、日本とても好きなんだ」「私、お寿司がとても好きで、日本に旅行に行きたいと思っているんだ」「この間日本で地震があったけど貴方の家族は大丈夫だった? とても悲しいよ」。

 こういった言葉を皆さんが外国人から掛けられたらどのように感じますか。嬉しいですか? それとも不快ですか? 大抵の方は前者かと思います。筆者も、同僚の乗務員やお客様からこういったお言葉を頂くとついつい日本の良さについて熱弁しちゃったりも…。

 お客様と“初対面のコミュニケーション”を乗務員は毎便強いられます。そこで必要なのは、「情報力」です。

 簡単にいえば国ごとの観光地や名産物に食べ物、最近の情勢など些細なことで充分なのです。そこからいかに話を広げてより良い関係、絆を築けるかこれは接客業ではとても大切なことだと筆者は思いますし、もし些細なことでも何かしらの情報があれば一言目が出やすいのではないでしょうか。

 読者の皆様、乱文ではありましたが私のここだけ話、少しでも楽しくお伝えできたでしょうか。ご覧くださり、ありがとうございました。皆様と空の上でお会いできることを楽しみに待ちわびております。でもその際は、笑顔のうらに鷹のような鋭い目があることには気付かないでください(笑)。

【プロフィール】平松真依

 ひらまつまい ドイツ、韓国での留学ののち、大学在学中に中東の航空会社へ入社。現在も現役女子大学生の傍ら、CAとしてファーストクラス、ビジネスクラスの業務に従事する。

 このコーナーはエアソルに登録している外資系客室乗務員(CA)が持ち回りで担当します。現役CAだからこそ知る、本当は教えたくない「ここだけ」の話を毎回お届けしますので、お楽しみに。内容は随時更新します。エアソルはPR、商品開発、通訳、現地リサーチ、ライター業務等、現役CAの特性を活かせるお仕事を副業としてご紹介しています。

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