【木下隆之の試乗スケッチ】メルセデスベンツ CLS 3代目は一層オシャレに

 
メルセデスベンツ CLS

 新型メルセデスベンツ CLSが、ますますスタイリッシュになって誕生した。初代CLSが発表されたのが2003年のフランクフルト国際自動車ショーだったから、今年で15年になる。その間に2度のモデルチェンジが行われた。新型モデルは3代目となる。

 CLSの最大の特徴は、デザインコンシャスであるという点だ。平たい言葉で言えば、「かっこいい」である。

 ボディの骨格となるシャシーやエンジンや、そこで得られたパワーを伝達するトランスミッションやサスペンションといった機械的な基本構成はメルセデスEクラスと共通なのにもかかわらず、クーペ風のスタイリッシュなフォルムとしていることだ。「スポーティなルックスの4ドアセダン」であることがCLSの存在意義。

◆ブランド巧者らしい潔さ

 そのための割り切りは大胆で、新型になってようやく5人乗りになったものの、それまでは後席の定員は4名に限定していたほどだ。ルーフラインをアーチ型に曲線化させたことで、後席の乗員が快適に過ごすための空間が犠牲になってしまったからだ。

 3リッターものエンジンを搭載し、4枚のドアを備えるミドルセダンは、言ってみれば高級セダンの部類に属するだろう。だというのに、乗員を4名に限定してまでもスタイリングにこだわった。市場規模を狭めてまでも「かっこいいセダン」でありたかったことがCLSの個性の源なのである。 

 そのあたりの意気込みはさすがにブランド巧者らしく潔い。

 「室内が狭くてイヤですか。ならばEクラスを買ってください」

 開発担当者の言葉は明快だ。Eクラスという大ヒット作をラインナップしているからできる挑戦だったともいえるが、その潔さが成功に導いたのだと思う。

 2003年のCLSデビューは、世界を驚かせた。同時にあらたな市場を切り開くことになった。その後、アウディは4ドアクーペたるA7を送り出し、BMWは4シリーズと6シリーズに、やはりスタイルを優先したグランクーペを加えた。

◆4ドアクーペのトレンドセッターに

 性能だけでなくオシャレでありたいという流れはSUVにまで波及し、BMWはX系の偶数車に、つまり、X4やX6といった、クーペスタイルのSUVを送り込むまでに市場を開拓したのである。まさに、CLSは、4ドアクーペのセグメントを創出したトレンドセッターといっていい。

 そんな成功を収めたCLSは、新型になってもスタイルに対しての妥協がない。デザインの基本思想を「Sensual Purity(官能的純粋)」としている。フロントエンジンは、人が顎を引き、前方に鋭い視線を送るかのような攻撃的なフォルムとした。サイドビューがCLSのアイデンティティーでもあるアーチ形状のラインを描くのは当然のことだ。

 フロントウインドーの付け根からフロントタイヤまでの距離が長いのも特徴だ。これによって、いわゆるスポーツーカーの基本形であるロングノーズ感覚を強調させているのだ。ウエストラインが高いのも伝統的なデザインである。一方ルーフは低いから、重心が低く見える。まさにスポーティーカーらしさを盛り込んでいるのである。

◆フットワークも軽快だ

 さて、そんなCLSの走りは、スタイルだけが生命線ではないことを感じさせる。着座点が低く、フットワークも軽快だ。路面に吸い付く感覚が強い。スポーツカーフィールが備わっているのである。

 CLSは、「4ドアセダンでもオシャレでいたい」ではなく、「4ドアでもスポーティな走りが欲しい」とするユーザーに受け入れられそうな気がする。

 エンジンバリエーションは2種類。ディーゼルエンジンの直列4気筒の1.9リッターターボと、ガソリンを燃料とする直列6気筒3リッターターボである。

 ディーゼルを搭載する「220dスポーツ」は、さすがにガラガラとしたディーゼル特有の異音と振動が強い。だが、ガソリン仕様の「450 4マチックスポーツ」は、しっとりと上質なフィーリングに終始する。やはりスタイリッシュなCLSには、上質な走り味のガソリンが似合う。

 「木下隆之の試乗スケッチ」は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちらから。

 木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム「木下隆之のクルマ三昧」はこちらから。

【プロフィール】木下隆之(きのした・たかゆき)

レーシングドライバー 自動車評論家
ブランドアドバイザー ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。