【木下隆之のクルマ三昧】実は自動車開発の王道? ジムニーが「サイ」にこだわるわけ

 
ジムニー

 小さいことは、実は大きいことでもある。新型ジムニーをドライブしていて、あらためてそう思った。

 ジムニーは軽自動車だから、ボディサイズの規制がある。全長は3400mm以下、全幅は1480mm以下、全高は2000mm以下に留めなければ軽自動車としての認可は得られない。エンジンにも規制があって、排気量は660ccを超えてはならない。だが、いざ走らせると、様子は一転してダイナミックになる。大地と対峙しても、一歩も怯まないのだから驚くばかりだ。

 そして同時に、ジムニーからは、変わらないことが新しいことだと気付かされる。1970年にデビューした初代は11年間もの長い間フルモデルチェンジされずに売れ続けた。2代目は17年間、3代目にいたってはなんと、20年間ものあいだ姿形を変えずに人気を得てきた。デビューから48年も経つのに、コンセプトは1mmもブレていないというのだから、これは日本の宝である。

◆鎧のような皮膚で泥沼もなんのその

 一般的な乗用車は、およそ4年がモデルサイクルである。長くても7年周期でフルモデルチェンジされる。それを思えば、ジムニーのフルモデルチェンジが48年の歴史の中でたったの三度だというから、その息の長さには脱帽する。

 なぜこれまでブレることがなく開発が行われてきたのか。そのカラクリは、ジムニーが掲げる「サイ」のトレードマークにその秘密が隠されていると僕は思う。

 ジムニーのイメージキャラクターは「サイ」だ。温暖な地域に生息する、あの動物園で人気のサイである。1981年に2代目(SJ30系)がデビューした当時、ジムニーをイメージしやすいキャラクターとして採用したのである。

 鎧のような皮膚は肉食獣の牙や爪を通さず、ノシノシと歩む姿がイメージとしてかぶる。泥浴を好むというから、まさに泥濘地を突き進むジムニーの“生息地”と一致する。

◆フォードやフェラーリも

 いやはや、実はこういった動物をキャラクターに据えては開発する手法は、けして少なくない。クルマのコンセプトを乱さないための開発手法として活用されているのだ。数百人の開発メンバーの意識を束ねるには、誰もが共感する象徴が必要だ。それが動物になる例が多い。

 フィアット・アバルトは「サソリ」をイメージキャラクターに据えている。クライスラー・バイパーは「毒ヘビ」。フォードは「馬」。フェラーリが「跳ね馬」なのはあまりにも有名である。これがたんなる販売戦略上のテクニックではなく、筋の通ったシステムとして有効なのだと開発陣は口にする。

 かつてホンダが、特異な低重心ミニバンである「オデッセイ」を開発したとき、エンジニアが共有する極秘資料の片隅に、「黒豹」がプリントされていたのを盗み見たことがある。黒豹はあのサバンナを駆け回る黒豹のことである。「ファミリーカーのオデッセイとは違和感のある組み合わせだなぁ~」と首を傾げていたそこに、開発担当者が歩み寄ってきて僕にこう言った。

 「クロヒョウなんてイメージじゃないですよね。でも、開発スタッフがこれを見ながら作業することでコンセプトが乱れないのです」

 なるほど、完成したオデッセイは、低重心ゆえに入りが際立っており、ミニバンとしては異例に入りが優れていたのだ。

◆開発担当者のデスクの上にも…

 ちなみに、オデッセイのイメージカラーはダークパープルだった。技術者だけでなくデザイナーもテストドライバーも、そして広告宣伝部のメンバーも、それこそカタログを製作する部署の面々にも、黒豹という統一意識が植え付けられる。というように、動物を象徴的に掲げることで、コンセプトが乱れないのである。

 ジムニーはもう48年も生きてきた。最新の技術が投入されてきた。だが、生き様にはまったくブレがない。

 「ジムニーの開発事務所にもサイがたくさん貼っているんじゃないですか?」

 開発担当者にそう聞くと、嬉しそうな笑みを浮かべてこう答えてくれた。

 「ポスターはもちろん貼ってありますけど、デスクの上はサイのぬいぐるみが散乱しています」

 サイが一層愛おしくなってきた。

【プロフィル】木下隆之(きのした・たかゆき)

レーシングドライバー 自動車評論家
ブランドアドバイザー ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

【木下隆之のクルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。

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