新作PRはSNS駆使 劇場映画「ドラえもん」が狙う客層は誰か
「ドラえもん」の劇場用映画39作目となる新作「のび太の月面探査機」(八鍬(やくわ)新之介監督、藤子・F・不二雄原作)が来年3月1日に全国公開されることが決まったが、宣伝戦略が例年とはひと味違うと話題を集めている。配給元の映画会社東宝の狙いは何か。
カウントダウン仕様のホームページ
「製作委員会で検討を重ねた結果、例年と違う形で発表しました」と東宝の担当者は力を込めた。
まず、10月15日、東京都内で製作発表会見を行った。26作目「ドラえもん のび太の恐竜2006」(平成18年)以来だ。
「のび太の月面探査機」の物語の季節は秋。実は、シリーズ史上初の設定であることや、「藤子さんの大ファン」という直木賞作家の辻村深月(みづき)さん(38)が映画脚本を初めて手がけること-など、作品自体が新しい試みに満ちていることが理由だという。
会見を開いたこと以上に目を引いたのが、会見を盛り上げるための仕掛けだった。
カウントダウン
会見4日前の10月11日、製作委員会は「のび太の月面探査機」の公式サイトを公開し、トップページいっぱいに、ドラえもんら各キャラクターを日替わりで1人ずつ登場させた。
ただし、胸の部分のみ。いずれも左胸にはドラえもんのひみつ道具と思われる、光るバッジを付けている。画面左下には、小さめの文字で残り時間を刻々とカウントダウンしていた。
宣伝担当者は「製作発表会見前にひとつ盛り上がりを作る目的で、今回の物語の鍵を握る、ドラえもんのひみつの道具『異説クラブメンバーズバッジ』と、各キャラクターたちによるカウントダウン用のビジュアルを作成しました」と解説する。閲覧者は「何かが始まるんだな」と気をもむことになる。
藤子プロ公式LINEやツイッターアカウントなどのSNS(会員制交流サイト)を駆使、テレビ朝日局舎入り口に設置された電子掲示板でもこのビジュアルを表示するなど、公式サイトへの誘導には力を入れた。
「どんな情報が発表されるのかは一切明かされていない。ひみつ道具やキャラクターを印象的に見せ、サイトをごらんになった人の想像力をかき立てるような設計にしました」と宣伝担当者。
見る人をじらす「ティザー広告」の手法だが、ドラえもんの映画としては初の試みだという。
効果は?
「何が始まったんだ」「何のカウントダウン?」-。カウントダウンPRはネットニュースなどでも取り上げられ、ファンのから大きな反響があった。
今回の映画のテーマが「想像力の大切さ」。説明抜きのPRは、まさに見た人の想像力をかき立てた。しかし、SNSを駆使したティザー広告は、どの年齢層を観客と想定したPRだったのか。
東宝によると、映画の公式サイトは今年に限らず、子ども、大人の区別なく、全てのドラえもんファン向けに製作しているというが、今回のカウントダウンに関しては、対象は明確だった。
「少し大人っぽい雰囲気のサイトにすることで、子どもの頃に映画ドラえもんを見た、“ドラえもん卒業生”の方にも興味を持ってほしかった」
さらに公開の3月まで、新しい手法を繰り出すつもりのようだ。
「今年の映画のテーマが『想像力の大切さ』なので、映画宣伝としても想像力をかき立てられるようなドキドキ、ワクワクする施策が展開できればと考えています」
今度のドラえもんは、映画が始まる前からドキドキ、ワクワクさせてくれそうだ。
■「映画ドラえもん のび太の月面探査機」 シリーズ39作目。脚本は、漫画版でのび太らが地底世界を作り上げる「異説クラブメンバーズバッジ」(昭和55年)に着想を得て直木賞作家、辻村深月さんが執筆。のび太がドラえもんのひみつ道具を使って月の裏側にウサギ王国を築く大冒険を描いた。来年3月1日、全国公開。
■藤子・F・不二雄 1933~96年。富山県生まれ。漫画家。昭和26年に「天使の玉ちゃん」(安孫子素雄氏との合作)でデビュー。多くの傑作を発表し児童漫画の新時代を築く。代表作は「ドラえもん」のほか、「オバケのQ太郎」「パーマン」「キテレツ大百科」「エスパー魔美」「SF・異色短編集」など。
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