【木下隆之の試乗スケッチ】アメ車の魅力を再発見 IT&軍事技術を注入した絶品SUV キャデラックXT5
もしアメリカ車に好意的なイメージを抱いていない方がおられるのなら、この記事はキャデラックの、いやキャデラックXT5クロスオーバーの、あるいはGM社の意外な一面を紹介することで、凝り固まった悪しき誤解や先入観を解きほどくものとなることを期待して筆を進めることになると思う。
技術的な先見性
トランプ米大統領が短絡的な理由で日本の市場開放を迫る理由も、納得こそできないが、理解できなくはない。というのも、アメリカを代表する自動車メーカーであるGM車の日本での販売はけして芳しいものではないからだ。2017年の新車登録台数は580台。2011年が1392台だったから、確実に徐々に販売を下げているのだ。
だからといって、GM車が悪いとは思えない。右ハンドルの設定がなく、販売拠点も少なく、どこか無骨さが残るから、メジャーになるとは思えない。だが、一方で強烈な個性がある。かつて3車種のアメ車を乗り継いだ経験のある僕は、心のどこかで擁護したくなるのである。
GMには技術的な先見性がある。10数年前にシボレーに招かれてアメリカのテストコースを走った時、晩餐の席で見せられたのが開発途上のEV仕様のシボレー・ボルトだった。まだ原油が安かった頃なのに、環境性能への取り組みが本格化していることに感心したものだ。まだ三菱自動車i-MiEV(アイ・ミーブ)がデビューする前のことだ。それは大排気量シボレーコルベットZ28のドライブが目的の渡米だったから、それとの落差に腰を抜かしかけたのである。というように、GMはガソリン垂れ流しなどではなく、環境にも敏感なのである。
コネクティビティへの取り組みも一歩早い。車載のテレマチックサービス「オンスター」をはるか昔から様々なモデルに展開してきた。いまではタッチパネルでコーヒーが注文できるし、アマゾンとの連携で、キャデラックのトランクに商品が届くといったサービスも本国では展開されている。アップルやアマゾンといったシリコンバレーを抱える米国なのだからそれも納得する。
安全技術に関しても進んでいる。暗闇の歩行者を認識する「ナイトビジョン」などは、軍事技術がベースにある。物騒な話をすれば、湾岸戦争でアメリカ軍の武器として活躍したナイトスコープ(深夜の襲撃で活用した)の転用でもある。
乗り味も絶品
そう、キャデラックは、いやキャデラックXT5クロスオーバーは、あるいはGMは、安全性や環境性能で魅力を抱えているのだ。そう思ってみると、その堂々たる体躯も威風堂々と輝いて見えるし、キャデラックのある生活にワクワクしてこようというものだ。
実は乗り味も絶品である。今回試乗したキャデラックXT5クロスオーバーは、全長4825mm×全幅1915mm×全高1700mmである。ディメンションはレクサスRXに近似している。それでいて、搭載するエンジンはピュアなフィーリングを信条とするV型6気筒3.6リッター自然吸気エンジンである。8速ATとの組み合わせもあり、314psも発揮するから、低回転はハイレスポンスでいながら高回転域までシュンと吹け上がる。ダウンサイジングターボという美名にすがった小排気量ターボでは得られないレスポンスとトルクが気持ちいい。左脳が世間への体裁や流行を追い求めようとするあざとさを気にするからダウンサイジングターボこそ善となるのだろうが、欲求に素直な右脳は「やっぱり大排気量NAがいいよね」と叫ぶ。
そもそもボディは、ライバルよりも100kg単位で軽いのである。「アメ車=重い」なんて思っていると笑われるのである。
スイッチ操作一つで、FFも全輪駆動も選択可能。どちらも公道をクルージングしているかぎり違和感はまったくない。V型6気筒は気筒休止をするのに、その気配は世界のどの車よりも少ない。ともすればドタバタしがちな大径20インチタイヤも履きこなしている。リアルタイムダンピングシステムが無骨な印象を消し去っている。
やはり最後まで興奮を抑えられなかった。キャデラックでもっとも販売上で成功したXT5クロスオーバーに乗って、キャデラックの魅力を再認識した次第である。
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「木下隆之の試乗スケッチ」は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちらから。
木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム「木下隆之のクルマ三昧」はこちらから。
【プロフィール】木下隆之(きのした・たかゆき)
ブランドアドバイザー ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
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