【木下隆之の試乗スケッチ】待望の新型スープラをテストドライブ 限界領域で遊べる仕上がり
待望のトヨタ新型スープラをドライブする機会を得た。開発プロジェクトが始まったのが2012年だというから、開発期間はおよそ6年。じっくりと時間をかけて開発されたのだろうと思うと期待が高まる。
試乗会の冒頭、開発責任者の多田哲哉氏はこう言って、スープラへの想いを告げた。
「直列6気筒であり、FR駆動であることがスープラのヘリテージです。開発は基本に忠実に作りこみました。数値ではなく感性性能を高めることに注力しました」
力強くそう語ったのだ。かつてはトヨタ86の陣頭指揮を担ったのが多田氏である。スポーツカーに関しては特に造詣が深い。
BMWと共同開発
そんなスープラでもっとも期待を煽るのは、BMWとの共同開発であることだ。関係の濃淡はアナウンスされていないが、巷の噂や開発陣からの声を聞く限り、かなり密接に開発が進められたことに疑いはない。
クルマの骨格であるプラットフォームと、心臓部であるエンジンとミッションはBMW開発だという。ということはZF製であろう。ミッションがZF製ならば電子制御デファレンシャルもZF製に違いない。走りに関する部分はBMWの影響力が強いと想像できる。おなじパーツを共有するのはBMW・Z4だ。
搭載する直列6気筒は、トヨタでは最新のユニットがないからつまり、BMWの伝家の宝刀、シルキー6が採用されているはずだ。そもそも振動に有利な完全バランスの直列6気筒であるうえに、絹のように滑らかなことで命名されたのだから、これ以上の魅力的なパワーユニットは見当たらないだろう。
前後重量配分にBMWの拘り
前後重量配分は50対50だという。これもBMWが特に拘っているところである。FR駆動にとって理想的な前後重量配分がどの点にあるのかは議論白熱するところだが、BMWが頑固一徹に死守する前後均等バランスは、特に旋回性能にメリットを見いだせる。
専門用語では、「Z軸まわりのヨー慣性モーメントが優れている」となる。重心点を貫くように上から車を串刺しにしたとする。その串を中心にひねった時の動きのことを、Z軸まわりのモーメントとする。それが旋回性の源だ。旋回性能を重量物が串に近ければ近いほど、コーナリングがシャープになる。そう、新型スープラは、前後重量配分を50対50としている。旋回性能に拘ったのである。
ワイドなフェンダーから想像できるように、トレッドは十分に幅広なのに、前後車輪間のホイールベースもとっても短い。これが意味するところもまた、旋回性能へのあくなき追求である。
バスより一輪車の方がクルクルと曲がりやすい…というのでイメージしやすいように、ホイールベースが短ければ、旋回性能がシャープになる。その代償に安定モーメントが犠牲になるものの、スポーツカーとしてはメリットが多い。
実際にドライブ
重心高もスポーツカーである86より低い。レーシングカーがこぞって重心を下げようとするのは、低重心化がクルマを安定させるからである。バスがどことなく上体をグラグラさせるのに対してF1マシンはその数十倍の速度でコーナリングするのと無関係ではない。
そう、新型スープラは、その数字を耳にしただけで旋回性能に優れたマシンであることがわかる。実際にドライブしてもそれはあきらかで、コーナーに飛び込んだ瞬間に旋回挙動が始まる。ステアリング操作は穏やかでいい。だというのに、ノーズがグイグイとコーナーに引き込まれる。テールスライドに持ち込むことも容易い。これそこまさに、優れた前後重量配分ならではの技だ。
電子制御デフとの相性が悪いのか、ニュートラル領域では神経質な動きを見せるのはご愛嬌。限界領域でマシンを回して楽しむことのできるマシンに仕上がっている。
直列6気筒エンジンもパワフルである。だが、高回転で唐突に弾けることはなく、低回転域からフラットにトルクが溢れる。1600rpm回転からトルクが最高値に達するというからつまり、ほとんど走り初めからパワーゾーンだということだ。
サウンドも心地いい。ミッションは8速オートマチックだが、ロックアップが確実だから、マニュアルミッションのように素早く確実に決まる。オートマ的なダルさはほとんどない。
新型スープラは、基本に忠実に仕上げることで、ともすれば懐かしさを感じるフレンドリーなスポーツカーになったのだと思う。
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【木下隆之の試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちらから。
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【プロフィール】木下隆之(きのした・たかゆき)
ブランドアドバイザー ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。
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