昨年7月に実施法成立のIR…それは「単なるカジノ」なのか ラスベガスで実際に取材した

 
ウィン・リゾーツが手がける「ウィン・ラスベガス」(手前)と「アンコール」(奧)。美しい曲線を描く建物が特徴的だ=米ラスベガス

 2025年国際博覧会(万博)の大阪開催が決まり、会場として注目が集まるが大阪湾の人工島、夢洲(ゆめしま)。もう1つ、大阪府・市がこの場所に誘致しようとしているのがカジノを含む統合型リゾート施設(IR)だ。昨年7月にIR実施法が成立し、水面下では本格的な誘致レースが始まっているが、「カジノ=賭博」のイメージが先行している。IRの真の姿とは、どんなものか。本場の米ラスベガスで、最高級とされるIR「ウィン・ラスベガス」と「アンコール・アット・ウィン」を取材した。(藤谷茂樹)

 きらびやかなカジノ

 ウィン・ラスベガスとアンコールは、IRが並ぶ大通り「ストリップ」北端に位置する。相互に接続し、一体の施設として機能する。「ラスベガスの父」と呼ばれ、数々のIRを手がけてきたスティーブ・ウィン氏が2002年に設立した「ウィン・リゾーツ」が運営している。

 「会話を楽しむコミュニケーションがテクニックより大事です」

 こう語るのは、ディーラー歴25年以上のロクサン・ロッドマンさん。アンコールのカジノに08年の開業時から勤め、ブラックジャックを担当する。

 カジノには、パーティーのような正装のイメージも強かったが、ウィンのカジノではカジュアルな普段着姿の客も多く、欧米人や南米人、アジアと多種多様の人種が行き交う。ロッドマンさんが「スペイン語や中国語で数字をどう数えるのかなど、お客さんを通じ、いろいろ学んでいます」と語るなど、世界の社交場という雰囲気だ。

 ただ、ウィン・リゾーツによると、カジノ以外からの収入がカジノを上回り、2016年は62%を占めたという。カジノは施設の顔だが、それ以外の要素あることに“統合型”とされる理由がある。

 客室、レストランに…

 統合型リゾートでは、カジノ以外の機能が多岐にわたる。まずはホテルだ。ウィンでは2施設合わせて客室は計4750室にのぼる。ハイローラーと呼ばれるカジノで高額を投じる上客向けの部屋も備え、家具など調度品は自社のデザインチームが手がけている。

 商業施設も併設。高級ブランドの店が並ぶショッピングモールに、新たなエリア「ウィン・プラザ」が昨年11月9日に加わり、両施設内で40以上もの店が利用できる。そのうち飲食店は、バイキング形式で多様な料理を堪能できる「バフェ」、空輸したハワイからの海産物を使った料理を提供するレストラン、豪勢なステーキハウスなどが人気だ。

 エンターテインメントショーも目玉だ。取材時、歌手のダイアナ・ロスの公演が組まれ、別の劇場ではダンスとアーティスティックスイミングをかけ合わせたショーが披露されていた。円形劇場の中央には、プールの中に舞台があり、せり上がったり、沈んだりする仕掛けで、そこに人間離れしたアクションが加わり、魅了された。

 ビジネス発信地にも

 一方、昼間はロビーにスーツ姿の人も多く、ソファとテーブルで商談も行われていた。レジャーだけでなく、ビジネス機能を併せ持つのもIRだ。

 大会議や展示会などを開催できるコンベンションセンター計2.3ヘクタールを備え、さらに約2.8ヘクタールの拡張工事を進め、2020年3月の開業を目指している。

 担当者は「街が非常に急速に発展している」と説明する。毎年1月開催の世界最大の家電見本市「CES(セス)」ではメイン会場となる「ラスベガスコンベンションセンター」も拡張を進め、周辺で新たなIRも建設が続く。

 このほか、年1億ドル(約110億円)を売り上げるナイトクラブ、日光浴を楽しむ人であふれるプール、リラックス空間のスパ(温浴施設)と魅力は多彩に含まれ、多岐にわたる機能を持つのがIRだと実感した。

 ストリップ沿いのほかのIRものぞいたが、それぞれ世界観を作り出してきた。だが、スロットマシンの派手な当たり演出などを見て、没頭してしまう気持ちも理解できた分、そこにギャンブル依存症の懸念も感じた。

 「依存症も、きれいな身なりの人が問題なく、ラフな格好の人がそうだということはない。見分けることは難しい」(IR関係者)。日本に合ったIRを実現できれば大きな魅力発信になるが、負の面を払拭する努力は欠かせないだろう。