【試乗スケッチ】クロスオーバー市場に激辛ハイパワーで乱入 BMWのX4

 
BMWのクロスオーバー「X4」

 「レクサスRX、注文したよ。凄い人気だから納車待ちだってさ」。これまでずっとワゴン至上主義者を貫いてきた友人からそんなメールが届いたのは先週のことだ。

 時代はクロスオーバー花盛り

 結婚10年。アウディA6アバントを購入する動機付けになった双子の女の子は、もう中学生になる。BMW5ツーリングに乗り換えたのが5年前、直近ではメルセデスEステーションワゴンをピカピカに磨いでご機嫌だったのに、リースアップを機会にクロスオーバーに宗旨替えだというのだ。

 「家族4人での生活と、一人でのドライブを両立させるのはワゴンしかない」

 そう啖呵を切っていた男が寝返った。時代はクロスオーバー花盛りなのである。

 自動車メーカーは猫も杓子も、SUVから派生したクロスオーバーの開発を急ぐ。ホンダやトヨタといった大量産メーカーは言うに及ばず、メルセデスやジャガーといったプレミアムメーカーも品揃えを急ぐ。その流れはベントレーやロールスロイスにも波及した。ついにはランボルギーニやアストンマーチンといったピュアスポーツブランドにも及んだ。流行の意味するところが“一時的なひろがり”だとするのなら、これはもう流行などではなく、新しい文化の創造だといえる。

 ワゴンの魅力をクロスオーバーに代用

 レクサスの戦略がそれを象徴している。ボディサイズの小さい順に、UX、NX、RX、GX(日本未導入)、LXへと、5種々のクロスオーバーをラインナップさせているのに、ステーションワゴンは一台もない。ISやESをベースにルーフを延長させ、積載性と走りを両立させたステーションワゴンを開発することは、一からクロスオーバーを開発するよりは容易に違いない。だというのに、気持ちはワゴンよりクロスオーバーに向かう。ワゴン人気が残る欧州よりも、クーペとクロスオーバー全盛の米国がメインマーケットだというレクサス固有の事情もあるのだろうが、それにしてもワゴンを揃える気配さえない。時代はワゴンの魅力をクロスオーバーに代用していることを物語るのだ。

 ともあれ、雨後の筍のごとくクロスオーバーが誕生すると、個性を主張しなければ淘汰が進むのは道理だ。クロスオーバーだというだけで個性だった時代はすぐに過ぎ去っていく。ゆえに各メーカーは21世紀に訪れたドル箱市場を握って離すまいと、個性のドーピングに躍起なのである。

 まさかのパワーオリエンテッドで乱入

 春にドライブしたアルファロメオ・ステルヴィオは、いかにもアルファらしくキレッキレのハンドリングで個性を主張した。実はステルヴィオをドライブしながら想いをはせたのがコレ、駆け抜ける歓びを主張するBMWが沈黙を貫くはずもない。走りの性能で個性を求めてくることは想像に難くなかった。だが、こんなハイパワーエンジンを搭載し狼煙をあげるとは夢にも思わなかった。

 そう、新型BMWX4は、2種類のエンジンで誕生。直列4気筒2リッターツインターボ仕様の「xDrive30i」と直列6気筒3リッターツインターボ仕様の「M40i」をラインナップさせたのだ。

 僕が驚いたのはもちん後者、直列6気筒ツインターボは、最高出力360ps最大トルク100Nmという激辛なパワーを炸裂させる。ランボルギーニやポルシェがハイパワー路線で勝負するのは容易に想像できるのだが、X4がまさかここまでパワーオリエンテッドで乱入してくるとは驚きである。

 重量級哺乳類がサバンナを突進

 実際に走りはダイナミックである。基本的には上質な味わいなのだが、ひとたびアクセルを床踏みすれば、怒涛のトルクが襲ってくる。ウエイトは2.2トンに達しようというから、象の突進とは言わないまでも、重量級哺乳類がサバンナを突進する感覚に似ている。

 21インチタイヤもけして軽くないから、まさにズドズドドと突き進む感覚が強い。

 実は僕は、冒頭の友人にX4デビューの前情報を授けておいた。だが彼は、僕より先回りしてレクサスRXに決めてしまった。

 「X4が激しくくるのは想像していたからね。だけどそれは、娘たちが大人になってからって決めたんだよ。しばらくはひとりでワインディングには行けそうもないからね」

 彼はそう言って笑った。

 X4はソロドライブでもしたくなるようなクロスオーバーなのだ。

 【木下隆之の試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちらから。

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【プロフィール】木下隆之(きのした・たかゆき)

レーシングドライバー 自動車評論家
ブランドアドバイザー ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。