日産自動車のワークスチームがレース現場で磨いた技術や経験、そして情熱をフィードバックして開発されたのが、『NISMO』のバッジが付くロードカーだ。今回は電気自動車(EV)で世界一の販売台数を誇るリーフをチューニングしたNISMOバージョンに試乗。スポーツ性能を引き上げたEVは一体どんな走りを見せてくれるのか、2日間のドライブでチェックしてきた。(文・写真 大竹信生/SankeiBiz編集部)
昨年7月、リーフにもNISMO仕様が投入され、ラインアップは7車種まで拡大された(他にGT-R、フェアレディZ、ジューク、ノート、マーチ、セレナ)。NISMOといえば、内外装に施された赤のアクセントラインが特徴の一つ。リーフも「NISMOレッド」を全身にあしらっており、スポーティーなロー&ワイドのエアロフォルムが存在感を際立たせている。
加速度マックスの「Bレンジ」
車両価格を見ると、リーフの最上位グレード「G」が400万円、リーフNISMOは403万円だ(※試乗後に追加設定された「リーフe+」のGグレードは約473万円)。搭載するモーターやバッテリー容量(40kWh)はベース車両のリーフとスペックを共有しており、室内寸法などのサイズ感もほとんど変わらないが、外寸についてはNISMO仕様の方が全長+22ミリ、全高+10ミリ、最低地上高+15ミリとなっている。これはパンバー形状の変更や、1インチ大きい18インチタイヤを履いているためだ。
では、何が大きく違うのか。まずNISMOバージョンは、スポーツ性能に特化したモータードライブを実現するために、走りを制御するコンピューター(VCM)に専用チューニングを施していることだ。これにより、ノーマル仕様のリーフより優れた加速レスポンスを実現している。
実際に乗り込んでアクセルを踏み込むと、もともとリーフが武器としていたモーターならではの鋭い加速力を遥かにしのぐダイナミックな立ち上がりに驚かされる。先述のように、動力源となるモーターはノーマル仕様のリーフと同一のものだ。よって最高出力も最大トルクも全く同じなのだが、VCMを専用チューニングすることで、アクセルを踏んだ時の瞬間的なレスポンスと伸びやかな加速力を大幅に向上させているのだ。とくに、最大のレスポンスと加速度を発揮する「Bレンジ」を選択したときの走りは、体に電気がビリッと走るように刺激的。高性能スポーツカーのように体が背もたれにピタッと吸い付き、頭もGの影響で一瞬クラっときてしまうほどだ。VCMのプログラミングを調節するだけで、レスポンスの鋭さが現行型リーフの2倍にもなるというから驚きだ。
便利なeペダルも搭載
「Bレンジ」を選択中は減速力も強力に増す。NISMOにもアクセルペダル一本で加速・減速を操作できる「eペダル」を搭載しているのだが、ペダルを踏む力を緩めた途端にグーっと強い制動力を発揮する。減速GもNISMO用に強めているのだ。加速も減速もペダル操作に対する反応がすこぶる速いので、ドライバーの要求を瞬時に実行する気持ちよさと、メリハリの効いた俊敏な走りを楽しむことができる。バッテリー残量が少ないときなど航続距離を伸ばしたいときは、エコモードを使えば加速がマイルドになり、ブレーキング時の回生エネルギーも増強する。「スポーティーだけど電費も激しいBレンジで走りすぎてしまった…」なんてときは、エコモードでパワーセーブすれば電欠の心配も減るだろう。
NISMOは専用の車速感応式ステアリングとショックアブソーバー(=ダンパー)も搭載している。車速が上がると軽めだったハンドルが引き締まり、より手応えのある操舵感が得られると同時に、狙ったラインを外さない高い応答性も披露する。とはいえ、ガチガチに作り込んでいるわけではないので、誰にでも扱いやすい。18インチの大径ホイールを履かせた足回りに関しては、専用サスペンションで減衰力を強めている影響もあり、路面の様子が足や腕にダイレクトに伝わってくる。これだけロードインフォメーションの入力があるとサーフェスを把握しやすいので、スポーツ走行をしていて安心感がある。逆に言えば乗り心地や静粛性がやや犠牲となっているのだが、所詮そこまで気にならないレベルだし、スポーツマインドを刺激するNISMO仕様なら、むしろこういった味付けのほうがドライバーの感覚やニーズとマッチしそうだ。
内外装にもNISMOらしさ満載
鮮やかなレッドのラインが目を引く専用の空力パーツは、ひと目でNISMOだと分かるアイデンティティーとしての役割だけでなく、ダウンフォースの発生や整流効果による直進安定性やコーナリング性能の向上など、しっかりとエアロダイナミクスにも貢献している。実際に高速でカーブを駆け抜けても、車体が路面に吸い付きピタリと安定していた。
インテリアにも専用デザインを取り込んでいる。ステアリングは本革と高級素材のアルカンターラを巻いており、赤いセンターマークがドライバーの気分をぐっと高める。赤いステッチの入った専用のシート地も飾りすぎておらず受け入れやすい。それにしてもこのハンドルに巻かれたアルカンターラ、汗臭くなってきたら交換できるのだろうかと何度も考えてしまった。ジュークNISMOに乗ったときも同じことが頭に浮かんできた記憶がある。日常での使用を考えると、ユーザーによっては大事なポイントかもしれない。ちなみにNISMOパフォーマンスセンターに問い合わせたところ、「張り替えはできますが、純正パーツが手に入らない場合は、なるべく近い素材と縫い方で対応することになります。自分好みの太さにカスタマイズされるお客様もいらっしゃいます」とのこと。もちろん、ハンドルを操るときの握りやすさは言うに及ばず、手のひらがステアリングに張り付いているかのようなグリップ感がある。
EVスタンドは口数の増加を!
ノーマルのリーフに比べて電費が劣ることは容易に想像がつくだろう。Bレンジで走行を続ければ、バッテリー残量を示すゲージが1%、また1%と結構な早さで減っていくのが分かる。今回、2日間計345キロの行程で2回ほど充電した。ともに電池残量20%ぐらいの時にサービスエリアで30分間の急速充電を行い、70%くらいまで回復させた。その間に食事を取ったのだが、30分間の充電を終えた後ものんびりと休憩すれば、それだけ充電待ちで並んでいる後ろのクルマを待たせることになる。今後のさらなるEV普及を考えると、この辺のマナーも呼び掛ける必要が出てきそうだ。また、充電器の設置数は全国で約3万基(2019年1月時点)と着実に増えてはいるが、ガソリンと違い1回の充電に30分もかかるのが現状。EVが本格普及する前に充電器の口数を増やさないと、充電渋滞が起きるかもしれない。わずか数分で満充電になるとされる超急速充電器の開発にも期待したいところだ。
メーカーオプションで運転操作を自動制御する「プロパイロット」や自動駐車をアシストする「プロパイロットパーキング」を装着できるのは、現行型リーフと一緒だ。プロパイロットパーキングについては以前、ノーマルのリーフで4度試して2度だけ成功。今回も海辺の駐車場で試してみたのだが、私との相性はあまりよくないようだ…(苦笑)。駐車可能なスペースはしっかりと自動検知するのだが、本来ならその次のステップであるはずの「駐車開始」ボタンがモニター上に表示されないため、途中で断念せざるを得なかった。この機能を使いこなすには、ちょっとした慣れが必要なのかもしれない。
普段乗りも楽しいスポーツEV
体に響くようなエンジン音こそないが、EVでも十分にエキサイティングな走りを楽しむことができた。「EVをスポーティーに仕上げたところで面白みに欠けるのでは?」といった疑念を、NISMOのエンジニアによる絶妙な味付けによって見事に裏切ってくれた。絶妙と言ったのは、普段使いからスポーツドライブまで、あらゆるシーンで運転の楽しさを味わえるクルマだと感じたからだ。先にも述べたが、けっしてガチガチに作り込んだわけではなく、あくまで日常生活での使い勝手に配慮した適度な改造具合なのだ。
実はリーフNISMOを借りた日の朝、新開発のパワートレーンを採用した高性能モデル「リーフe+」が発表された。私も記者発表会に出席して詳細を聞いたのだが、バッテリー容量が従来型の40kWhから62kWhに変更され、航続距離が約40%増の570キロ(JC08モード)まで延長された。最高出力と最大トルクもグッと引き上げられた。ぜひ「リーフe+」のNISMO仕様にも期待したいところだ。
《ヒトコト言わせて!》
リーフNISMOチーフ・ビークル・エンジニアの中澤慎介さん「リニアな応答性と低速からの高トルクにより、静かなのに気持ち良く加速するリーフに、モータースポーツで培ったNISMOのDNAを組合わせたエクステリア、インテリア、サスペンション、VCMチューンを施すことにより、リーフの良さを更に引き出して、より走って気持ちの良い車になっています。ぜひ一度体験していただければと思います」
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【乗るログ】(※旧「試乗インプレ」)は、編集部のクルマ好き記者たちが国内外の注目車種を試乗する連載コラムです。更新は原則隔週土曜日。▼アーカイブはこちらから
■主なスペック(試乗車)
全長×全幅×全高:4510×1790×1550ミリ
ホイールベース:2700ミリ
車両重量:1520キロ
駆動用バッテリー種類:リチウムイオン電池
総電圧:350V
総電力量:40kWh
モーター型式:EM57
最高出力:110kW(150ps)/3283-9795rpm
最大トルク:320Nm(32.6kgm)/0-3283rpm
駆動方式:前輪駆動
タイヤサイズ:225/45R18
定員:5名
一充電走行距離(JC08モード):350キロ
ステアリング:右
車両本体価格:403万2720円