驚きの加速力、優れた操縦安定性 レクサス初のターボ車「NX200t」

2014.11.9 08:00

 【試乗レポート】トヨタ自動車の高級ブランド「レクサス」が投入した小型SUV「NX」。7月29日の発売から販売目標を大幅に上回るなど、デビューから依然として高い人気を維持している。モデルは大きく分けて2種類。2リットル直噴ターボエンジンを積んだ「200t」と、2.5リットルエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド車「300h」だ。今回は、よりスポーティなチューニングを施した「NX200t “F SPORT”」を試乗した。(文・カメラ 大竹信生)

 「NX」のハンドルを握るのはこれが2回目だが、本格的に長距離を走るのは今回が初めて。ダウンサイジングターボを搭載した「200t」の性能と魅力を探るべく、クルマを発進させた。

 車道に出てまず感じたのが、見た目以上にワイドな車幅だ。「NX」の全幅は1、845mm。トヨタのSUV「ハリアー」より1センチ広く、兄貴分のレクサス「RX」より4センチ小さい。少し道幅が狭い道路になると、隣を走るクルマや対向車がかなり近く感じる。クルマの車高が高いため、運転席からの視界はいい。スピードメーターは大きくて見やすく、手前に張り出したインパネのスイッチ類は分かりやすくシンプルに配置。ボタンを押したときの節度感は指にしっかりと伝わる。インテリアは高級車らしく、全体的に質感が高い印象だ。

 スムーズなターボエンジン、静かで快適な車内空間

 直列4気筒のターボエンジンは、最高出力238ps/最大トルク35.7kgmを発揮する。走行モードは「エコ」「ノーマル」「スポーツS」「スポーツS+」の4種類で、街乗りなら燃費性能が高いエコモードで十分。中低速走行時のエンジン音は極めて静かだ。ロードノイズもあまり拾わないので、車内の静粛性はかなり高い。

 街乗りの次に高速走行を試した。高速道路に乗って「スポーツS+」に切り替え、ペダルを一気に踏み込むと、突然スイッチが入ったかのようにエンジンが唸りを上げてグングン加速した。ただ、伸び方は非常にスムーズ。ターボラグは小さく、瞬時にピークトルクまで盛り上がる。2000回転に達する前に自分の体が背もたれに吸い付く感覚は気持ちいい。高速走行時でも車体は安定していて、レーン変更や追い越しをするときでも安心できる。

 しばらくすると大渋滞に巻き込まれたが、このときに感心したのがシートの快適性だ。“F SPORT”専用シートは優れたフィット感と高いホールド性で体を包み込む設計だが、座り心地も抜群だった。渋滞の中、約3時間半の“超ノロノロ運転”を強いられたが、同じ姿勢を続けていたにもかかわらず、運転後の疲れは全くといっていいほど感じなかった。

 確かな操縦安定性

 「NX」を神奈川県の川原や険しい山道にも連れて行った。斜面から崩れ落ちた岩や木々が散乱するような悪路でも、タイヤがしっかりとグリップして力強く傾斜を上がる。さらにクルマを走らせて富士スピードウェイに近い明神峠に向かった。ここは傾斜がきつく急カーブが連続する“チャレンジング”な道だ。“F SPORT”の足回りはかなり硬め。コーナリング時のロールは少なく、操縦安定性は高い。走行モードを「スポーツS」から「ノーマル」に切り替えると、やや踏ん張りが甘くなる感じがした。ただし、ボディ剛性は高いので、横Gがかかっても安定感を失うことはない。ここは急傾斜なので上りは少々苦しそうだが、それでもアクセルを踏み込んだ分だけ前に進む。上りと下りを何度か往復したが、しっかりとスポーティな走りを体感することができた。

 ドライバーの運転を快適にする装備にも触れておきたい。試乗前は「ステアリングヒーターなんて別に必要ないだろう」と思っていたが、10月下旬の外の寒さはなかなかで、手がかじかんでしまった。クルマに戻りスイッチを押すとすぐにハンドルが温かくなり、思わず「ありがたい」と口にしてしまった。ドアハンドルの輪郭をなぞる光のラインは、暗がりのドアの開閉時にとても役立つ。もちろん「必要ない」と言えばそれまでだが、こういった気配りが嬉しかったりする。

 フロントガラスには走行速度が浮かび上がる。これは「ヘッドアップディスプレイ」という装置。時速のほか、交差点の右折・直進レーン情報などをあらかじめ表示し、急な車線変更を回避できる親切なシステムだ。

 中国人観光客の視線を釘付けにするデザイン

 「NX」は後方ピラー(柱)が太く窓が小さいため、背後の視界があまりよくない。「ブラインドスポットモニター」は、後方から接近する車両の存在を、ミラー内のインジケーターで知らせてくれる装置だ。車線変更するときには重宝する。縦列駐車や車庫入れ時にバックするときは、複数の車載カメラで後方状況をナビ画面に映し出す「パノラミックビューモニター」が便利だ。これら以外にも、クルマの安全をサポートする機能が随所にちりばめられている。

 「NX」の外観はシャープな印象。こちらをキッと睨むような三眼フルLEDヘッドランプと、メッシュタイプの“F SPORT”専用スピンドルグリルが特徴だ。忍野八海でクルマを駐車したときは、観光バスで次々とやって来る中国人観光客の視線を釘付けにしていた。

 ボディは後方に向けて丸みを帯びているので、身長171センチの筆者でも後部座席に座ったときは、ヘッドルームにあまり余裕がない印象だった。横幅やレッグスペースは十分だが、長身の人は頭が窮屈に感じるだろう。

 今回の試乗で東京、神奈川、静岡、山梨の4都県を走破した。いろんな走行モードを試したが、平均燃費は8~9km/Lぐらいだ。

 強力なライバルがひしめく世界のSUV市場

 試乗車の価格はメーカーオプション込みで583万円。ライバルはBMW「X3」、アウディ「Q3」、メルセデス・ベンツ「GLA」などが挙げられる。「NX200t」は高い走行性能を持つSUVだ。ターボラグを小さく抑えたパワフルかつ静粛性の高いダウンサイジングエンジンはとても快適。ドライバーの安全をアシストする機能も満載で、「NX」に乗っていると自然と安心感に包まれる。パッセンジャーをもてなす空間作りには目を見張るものがあり、全体的な完成度はかなり高い。ただ、もう少しドライバーの心に響く「プラスα」が欲しかったのも事実。並み居るライバル車より“あえて”レクサスを選びたくなる尖った特徴が見つからなかったのが今後の改善点か。

■「NX200t」のスペック

全長×全幅×全高: 4、630mm×1、845mm×1、645mm

ホイールベース: 2、660mm

車両総重量: 2、015kg(2WD)、2、075kg(AWD)

エンジン: 直列4気筒DOHCインタークーラー付ターボ

総排気量: 1、998L

最高出力: 175kw(238ps)/4、800~5、600rpm

最大トルク: 350Nm(35.7kgm)/1、650~4、000rpm

トランスミッション: 6SuperECT(スーパーインテリジェント6速オートマチック)

メーカー希望車両本体価格: 4、920、000円(税込み、オプション含まず)

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