【試乗インプレ】時速300キロ出しちゃいます? 世界も憧れる日産「GT-R」(前編)

2016.12.4 13:30

 日本が世界に誇る高性能スポーツカーとして、海外でも熱狂的なファンを持つ日産自動車の「GT-R」。今回の試乗インプレでは、発売9年目にして内外装に過去最大規模の改良を施した新型の2017年モデルを取り上げる。前編ではロードインプレッションを中心に走りの魅力を探る。でも、我慢できないから先に言っちゃいますが、こんなモンスターマシンを2日間も運転してベタ惚れしないわけがないでしょ…!(文・写真 大竹信生)

 止まない進化、最高出力は570馬力

 「それでは、GT-Rを2日間の日程で押さえておきます」。声の主は日産自動車広報部の担当者。受話器を置いた筆者のテンションが一気に上がる。「ついに来ました、GT-R!」。これまで乗ってきたクルマたちには大変申し訳ないが、仕事とはいえ、試乗する車種によって気分の盛り上がり方は当然変わってくる。今回はちょっとレベルが違うのだ。

 2007年に車名から「スカイライン」の冠名を外して生まれ変わった現行型GT-R(R35)は、毎年のように改良を重ねながら進化する「イヤーモデル制」を採用しているのが特徴だ。2017年モデルのパワートレインは、これまでと同じく3.8リッターV6ツインターボエンジンに6速DCTと4WDを組み合わせているが、エンジン出力を20馬力アップさせて最大570PSにまで引き上げるなど動力性能を高め、空力性能や冷却能力も向上させている。インテリアも高級感たっぷりに演出するなど、これまで以上に内外装に磨きをかけている。

 数日後、広報車を受け取りに日産本社に行くと、筆者の予想通り、オレンジ色に輝くGT-Rが地下駐車場で待っていた。「そうそう、この色に乗りたかったんだよね」。今回試乗するのは、内装を一段と豪華に仕上げた「プレミアム・エディション」という上位モデルで、車両価格は1170万5040円。ちなみにオレンジの塗装は「アルティメイトシャイニーオレンジ」という特別色で、32万4000円高となる。

 GT-Rに乗るのはちょうど1年ぶり。前回はイベントでサーキットを2周したが、性能の異なる車種との混走でさほどスピードが出せなかったため、それほど印象には残っていない。今回は新型ということもあり、走るのがとても楽しみだ。

 猛々しい迫力のエンジンサウンド

 運転席に収まりエンジンを始動させる。ボタンを押すと、車内にいても十分にわかるほど「ブウォーン」という猛々しい迫力サウンドが駐車場のコンクリート壁に鳴り響いた。エンジン音だけで気分が高揚するクルマはレクサスの「RC F」以来だ。モータージャーナリストは普段から高級車やスーパーカーに試乗する機会が多いと思うが、我々のような新聞社系ニュースメディアではGT-Rのような車格のマシンに乗ることはそうそうないし、自動車ばかり取材するわけにもいかない。だから、たまにこうして憧れのクルマに乗ると、恥ずかしながらも無邪気な子供のようにはしゃいでしまう。

 ギヤを入れてアクセルを踏むと、走り出した瞬間から力強いトルクを発揮する。急勾配の駐車場をぐいぐいと駆け上がって地上に出る。ここからしばらくは、アクセルやハンドルの感触を確かめながら慎重に運転する。初日は夕方に車両を受け取ったこともあり、基本的には日産本社のある神奈川県横浜市から筆者が住む東京都までの約45キロの道のりを走るのみとなる。

 高速道に入りちょっとスピードを上げてみる。トラフィックが多いので中速走行がメインとなったが、車体は非常に安定した印象で、パワーにはたっぷりと余裕が感じられる。4輪でアスファルトをがっちりつかんで力強くボディを押し出しているのが手に取るようにわかる。これで思いっきり踏み込んだらどうなるのだろうか。楽しみは明日にとっておこう。

 がちがちのスーパースポーツカー

 翌日は都内の自宅から山梨県の山中湖を目指す。まずは一般道を走った印象だが、がちがちのスーパースポーツカーに前輪255/40、後輪285/35の低扁平20インチタイヤを履いていることもあり、乗り心地は硬い。道路の段差や継ぎ目を越えた瞬間にちょっとした衝撃がくるが、これはむしろ乗り手が高性能スポーツカーに期待するような心地よいソリッド感だ。サーキット走行が出来るほどの高い性能を持つGT-Rに、誰も高級セダンのような乗り心地は求めないだろう。そもそもクルマの特性や使用目的、そして根本的な作りが違うのだ。同様に、静粛性も特に高いわけではないが、文句を言う人はいないだろう。

 タイヤはダンロップ製のランフラットタイヤ(パンクで空気圧がゼロになっても、一定距離を安全に走行できるタイヤ)を履いており、足回りの硬さも相まってロードインフォメーション(ハンドルを通して運転手に伝わる、路面とタイヤの接地状況)を把握しやすい。断わっておくが、路面からくる衝撃を一発で吸収するダンピングの効き具合は秀逸だ。これにはビルシュタイン製のショックアブゾーバーが大きく貢献している。

 運転しているとすぐに気づくのだが、走行中に「ウィーン、ガチャン」といった、例えるならターミネーターが動くときのような機械的な音がトランスミッションなどから聞こえてくる。GT-Rが参戦している「スーパーGT」というレースシリーズを見たことがある人ならわかるかもしれないが、まるで車内から映したオンボード映像(車載カメラ)を見ているかのような、レーシングカーのような機械音だ。モータースポーツ好きの筆者はこの音を聞くとレーサー気分になってしまう。

 ちなみにこのクルマ、エンジンフードのエアインテーク周辺が盛り上がっているので、運転しながら美しいボディカラーが見えるのも高ポイントだ。ボディサイズは全長4710×全幅1895×全高1370ミリなのだが、車両感覚も非常につかみやすい。車高(最低地上高)は110ミリと相当低いが、運転席に座った時のアイポイントは「めちゃくちゃ低い!」と感じるほどでもなかった。実際、クルマに乗り込むときも苦にならない高さだ。運転席からの視界は良好で一切不安は感じない。

 私、かなりハイスペックなんです…

 高速道は前日よりもかなり空いている。ちょっとハイスピード走行を試してみよう。GT-Rはセットアップスイッチを操作することでVDC-R(エンジン出力制御)、サスペンション、トランスミッションの味付けを「R」「ノーマル」「セーブ」の3モードに変えることができる。ここは迷わず、走行性能を最大限に引き出す「R」を選択。追い越し車線でアクセルを踏み込むと5000回転付近まで回り、あっという間に法定速度(100キロ)に達する。「うぉ、GT-R速えぇー!なんなんじゃこりゃ…(絶句)」。エンジンの伸びがどうのこうの、とか言っている場合じゃない。一瞬でほかのクルマを置き去りにしてしまうのだ。GT-R、恐るべし。

 パワーの解放とともに「ブウォーン」と盛り上がるエンジンの音色は、入念に作り込まれていて品のある心地よいサウンドだ。ついつい聞き惚れてしまうが、このまま踏み続ければそのうち嫌なサイレン音が聞こえてくるかもしれないので、泣く泣くアクセルペダルを戻した。時速80キロ前後でクルーズする分には、2000回転を保ちながら走行する。このときのエンジン音は「ヒーン」とやや高めだ。

 抜群の安定性とピタリと張り付く接地感

 高速走行中に感心したのは、GT-Rの直進安定性だ。スピードが増してもブレずに真っ直ぐ進む。挙動は非常に安定していて、細かいハンドル修正は全くいらない。風切り音も全く聞こえてこない。かなりエアロダイナミクスが優秀だと感じた。この感覚はワインディングを走行しても変わらない。ハンドリングはレクサスのスーパーカー「LFA」のように滑らかで、車体が路面に吸い付きながらカーブを気持ちよく駆け抜ける感覚は素晴らしいの一言。サスペンション性能やボディ剛性もこの上ないレベルに仕上がっている。コーナーで踏ん張りがきかずにロールが出る、なんてことは皆無だ。この接地感とコーナリング性能は高性能スポーツカー以外ではまず味わえない。

 GT-Rは山坂道の走行も楽しめる。パドルシフトはハンドル固定タイプで、常に指をかけた状態で操作が可能。早めに変速すると、きびきびとしたスポーティーなドライビングを楽しむことができる。GT-Rのエンジンパワーは山坂道でもまさに規格外で、山中湖に近い明神峠の急勾配を5速でスイスイと駆け上がったのはかなり衝撃的だった。

 今も昔も「GT-R」は特別な存在

 筆者は3代目の「R32」以降しか知らない世代だが、一応、雑誌で読んだり映像で観てきた「ハコスカ」や「ケンメリ」といったスカイライン時代から続くGT-Rの“栄光の歴史”を噛みしめながら280キロの行程を走り抜けた。

 「GT-Rはいつの時代もクルマ好きの憧れであり、驚異的な走行性能と迫力のあるルックスで、実際にハンドルを握ったドライバーたちを夢中にさせてきたんだろうなぁ」

 まさにいま、自分が魅了されているように…。

 本気でGT-Rの走行性能を引き出そうと思ったら、こればかりはサーキットに行くしかない。公道で発揮される能力はほんの一部で、相当チカラを持て余しているはずだ。車両をサーキットの敷地内に持ち込めば、それをGPSで認識し、モニター上でスピードリミッターを解除することができる。ちなみに最高速度は300キロオーバーだ。そのスピードを普段の生活で生かすことは到底無理だが、GT-Rがもたらすドライビング・プレジャーは何キロで走っていても格別だ。ああ、でも本当は時速300キロで思いっきり走ってみたいなあ。

 後編では内外装のチェックや道中で実感したGT-Rの注目度の高さ、そして総評をお届けする。お楽しみに。(産経ニュース/SankeiBiz共同取材)

■主なスペック 日産GT-R プレミアム・エディション(試乗車)

全長×全幅×全高:4710×1895×1370ミリ

ホイールベース:2780ミリ

最低地上高:110ミリ

車両重量:1770キロ

エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ

総排気量:3.8リットル

最高出力:419kW(570ps)/6800rpm

最大トルク:637Nm(65.0kgm)/3300~5800rpm

トランスミッション:6速DCT

駆動方式:4輪駆動

タイヤサイズ:(前)255/40ZRF20 (後)285/35ZRF20

定員:4(2+2)名

燃料タンク容量:74リットル

燃料消費率(JC08モード):8.6キロ/リットル

ステアリング:右

車両本体価格:1170万5040円

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