AIIB開業 気前よく支援、まるで朝貢… 中国と途上国の思惑一致

 

【AIIB開業】(上)

 北京市内の金融街に近い釣魚台迎賓館。約500人の代表団がどよめき、拍手が起きた。16日午前、アジアインフラ投資銀行(AIIB)開業式典の冒頭であいさつした習近平国家主席が、中国がAIIBへの297億ドル(約3兆4700億円)の資本金拠出とは別に、途上国向け特別基金として5000万ドルを追加すると表明したときのことだ。

 インフラ整備で今後、数兆ドルの資金需要がある途上国が、ポンポンと気前よく支援を打ち出す中国に吸い寄せられるのは自然な流れだ。その光景は、まるで中国の皇帝を敬う異民族に皇帝が恩賞を与えた「朝貢貿易」を連想させる。

 中国主導のAIIB創設にはせ参じ、“皇帝”の自尊心をくすぐった56の国々。習氏は高揚した表情で「21世紀の国際金融機関に仕上げる」と世界銀行など国際金融秩序に挑戦する構えまでみせ、会場を見下ろした。

 急ごしらえの組織

 世銀などは融資基準が厳しい上、審査や実行に時間がかかる。途上国の間では小回りの利く手軽な資金を求める声が強かった。資本金1000億ドルのAIIBはそのニーズに合致し、国際金融で主導権を握りたかった中国と思惑が一致した。

 とはいえ習指導部が2年前に発案した急ごしらえの組織。体裁は整っても、すぐに立派な国際金融機関が動き出すと考えるのは早計だ。インフラ案件で「原資をいかに安く調達し、採算性や返済計画をどう詰めるかという国際金融機関の融資ノウハウがAIIBにはまだ何ひとつない」(国際金融筋)と指摘される。

 しかも開業したてのAIIBは、原資調達へ発行する債券の「格付け」がまだない。当面は資本金だけで融資がまかなえるが、年内に承認されるとみられる初の融資案件を含め、20億ドルと見込む初年度案件がいずれも成功しなければ「習指導部がメンツをかけて関係部門に命じた最上級の『トリプルA』の格付け早期取得は難しい」(北京の経済学者)との見方がある。

 情報から遠のく日本

 日米は運営上の透明性への懸念からAIIB参加を見送ったが、「日本だけは認識が甘い」(中国の金融当局者)との厳しい指摘がある。

 米国は世銀の元北京事務所長デビッド・ダラー氏をAIIB事務局に送り込み、内部情報にアクセスできる態勢を作ったが、日本は蚊帳の外だからだ。

 現状では、加盟国以外でも自由に応札して受注が可能なアンタイド方式をとるAIIBの案件に、日本企業が参加する機会もキャッチしにくい。

 AIIBが検討するインフラ建設が将来的に軍事転用される恐れはないか、人権侵害や環境破壊を引き起こさないかといった、リスク情報も日本は得るのが非常に難しい。

 アジア開発銀行(ADB)や政府開発援助(ODA)などで長年の実績と経験をもつ日本がAIIB参加を急ぐ理由はどこにもない。

 だが、「オバマ政権は水面下でAIIBをめぐる米中協力関係の構築にも着手し始めたようだ」(アナリスト)との気になる未確認情報も流れている。

 ただ、AIIB初代総裁に選出された中国の元財政次官で、ADB副総裁を歴任した金立群氏は、AIIB成功の難易度を最もよく理解している人物。ADB総裁だった黒田東彦(はるひこ)日銀総裁とも懇意な金氏は、3月までに訪日し、協力の道を模索すると伝えられる。

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 北京で開業式典を行い、船出したAIIB。中国が主導する史上初めての国際金融機関はどこに向かうのか。行方を検証する。

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【用語解説】インフラ投資

 道路、鉄道、水道、電気といった社会基盤(インフラストラクチャー)の整備に必要な投資。発展途上国は経済力が弱いため資金を十分に調達できず、先進国のほか世界銀行をはじめとする国際金融機関の支援を必要としている。中国は自らを途上国としながらもアジアやアフリカへの支援を続け、高速鉄道や原発の輸出を強化している。(共同)