中国では「ネット監視」も人海戦術 1件「9円」の書き込み部隊が世論誘導

 
中国当局による言論弾圧の可能性が指摘される書店関係者らの失踪問題を受けてデモ行進する市民ら=1月10日、香港(ロイター)

 やはり世界最大の人口と労働力を擁する国家である。中国ではインターネット上の世論誘導でさえ、人海戦術で行われている一端が明らかになった。米国大学の研究チームの調査では、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などで年間5億件近くもの「書き込み」が政府が関与する人物の手によって行われているという。書き込み1件ごとにわずかな報酬を得る「歩合制」のような賃金で働く学生もいるとされ、中国・電脳インテリジェンスの最前線は、地道なカキコで成り立っているのか!?

 謎の情報工作集団「五毛党」

 米ハーバード大のデータ分析研究チームの報告が話題を呼んでいる。中国政府が報道や情報の統制をするため、SNS上で年間、約4億8800万件もの「カキコ」をしていたことが分かったからだ。米CNNが伝えた。

 中国当局はグーグルやフェイスブック、ツイッターのようなソーシャルメディアを日常的にチェック。当局にとって、都合の悪いキーワードが拡散していないか厳しい監視の目にさらされている。

 ネット監視の担い手として「五毛党」と呼ばれるネット情報工作集団の存在がよく知られている。

 韓国・中央日報(日本語電子版)が昨年4月に伝えた米自由アジア放送の報道によれば、五毛党は2006年に中国・安徽省の宣伝部に約600元(約1万円)の月給で雇われた担当者が、コメント1件あたり「5毛」(0・5元=9円に相当)を受けとり、始まったとされる。五毛党の数は約1千万人にのぼり、約4割が学生。中国のネットユーザーが約6億5千万人と仮定すれば、65人に1人程度が政府の息がかかった人物になるという。

 話題をすり替え、不満をガス抜き

 五毛党は、中国政府への批判などのネット情報にどう対処していたのか。

 ハーバード大のチームは、漏洩した中国江西省の地区当局をめぐるネット宣伝活動のメール内容を分析。この五毛党とみられるネット上の動向を報告書にまとめた。

 従来は、ネット上の論争に対して、中国政府を擁護する立場で積極的に発言し、強引な批判を誘導などを展開していると思われていた。

 しかし、報告書によると、実際には穏やかに論争をかわすという絡めての手法をとっていたという。

 CNNは「むしろ論争などを引き起こすような意見は控え、一般ユーザーの注意をそらし、焦点をずらすような書き込みが多い」と報告書は指摘したと報じた。

 つまり、SNSの流れとは関係のない話題を書き込み、議論が白熱しないように水を差していくというわけだ。

 また報告書は実行部隊の実像について、これまでの少額報酬を得てカキコする一般人というイメージを疑問視。官庁職員が掛け持ちしている可能性も指摘した。報酬を得ているかは不明だが、「勤務評価」で有利に働く可能性はあると分析している。

 中国「中間層」はストレス増

 ネット上に批判的な意見があらわれるのは、現実に起きている問題に強い不満があるからだ。しかし、習近平政権は「反腐敗」運動を掲げて、汚職の取り締まりに力を注ぐ方針を掲げる一方で、言論統制は厳しさを増している。

 米国務省は、人権報告書(2015年版)で、中国共産党体制を批判する書籍を出版・販売する香港の書店関係者5人が連続失踪した事件について、中国当局の関与を指摘。超法規的手段を用いてでも批判的意見を封じ込めていると非難した。

 情報統制への強硬姿勢は変わらず、6月4日には、天安門事件から27年を迎えたことを伝えるNHK海外放送のニュースが数分間にわたり、中断された。

 米ウォールストリート・ジャーナルによると、最近、中国のインテリ中間層の不安の高まりがSNS上で目立つという。経済成長の鈍化に伴う家計や社会情勢の先行きに不透明感が広がっているためとみられる。

 同紙が紹介したギャラップの世論調査では、世帯所得に満足していると答えた中国人の割合は2014年の66%から15年は58%に低下。中国人の40%が大きなストレスを経験したとし、過去10年の調査でもっとも高い数字だったという。

 ネットに現れた世論の真摯な訴えが、わずかな報酬や役人の評価のために閉ざされているとすれば、怒りや不安がますます、たまるに違いない。