金正男氏殺害 4容疑者逃亡、捜査に手詰まり感 事件解明へ3つの壁
【クアラルンプール=吉村英輝】北朝鮮の金正男氏殺害事件発生から2週間。マレーシア警察は、神経剤VXによる毒殺と認定したものの、入手経路の特定などは難航している。主犯格とみられる北朝鮮国籍の4容疑者はすでに本国へ逃亡したとみられ、捜査には手詰まり感が漂う。警察は事件解明へ、3つの壁に直面している。
毒殺のメカニズム
マレーシアのスブラマニアム保健相は26日、金正男氏の司法解剖について、大量のVXが眼や口から吸収され、心臓や肺なども影響を受けたと発表した。致死量の10ミリグラムを大きく超える量で「吸収が早く、ほんの2、3分で症状が現れていた」と指摘。警察当局に正式報告するとした。
地元英字紙ニュー・ストレーツ・タイムズは27日、VXが使われた理由について、「即効性がある毒物でありながら、暗殺者に逃走する時間を与えることができるため」とみる政府幹部の見方を伝えた。
ただ、実行犯の女2人は、素手でVXを正男氏の顔に塗りつけたとみられている。大量の猛毒を扱って生き延びられたことに疑問が残る。警察は、女たちが解毒剤などを使っていなかったかを調べる方針だ。
保健相によると、正男氏を手当てした空港スタッフや医療関係者にも症状は出てていない。毒殺のメカニズム解明は難航。警察は、4容疑者が借りていたマンションから押収した化学物質の分析を急ぐ。
不逮捕特権
事件に関与したと警察が特定した北朝鮮国籍の男たちのうち、逮捕に至ったのは後方支援役とみられる1人のみ。マレーシア警察は、北朝鮮大使館内に隠れていると伝えられるヒョン・グァンソン2等書記官らの逮捕状を請求する構えを見せながら、大使館に「協力」を求めているが、「不当捜査」を訴える北朝鮮側に応じるそぶりはない。
外交官には、他国の警察などに拘束されない「外交特権」もある。北朝鮮と国交を断絶すれば強制執行も可能になるとの指摘もあるが、マレーシア政府幹部は「ひとつの事件を持ってして断交を判断するのは性急すぎる」と否定的だ。
遺体の引き渡し
警察にとり、行き詰まる捜査の突破口としたいのが、遺体の「身元確認」だ。「死因は心臓発作」とした北朝鮮側の主張はとりあえず、司法解剖で論破した。ただ、北朝鮮側は遺体をあくまで「外交旅券を持った北朝鮮国籍のキム・チョル」と強弁している。
遺体に関しマレーシア政府は、韓国当局による指紋照合などから正男氏と特定した。ただ、警察は親族によるDNA型鑑定を優先するとする国内手続きを重視。遺体も親族に引き渡すとしており、遺体の「早期返還」を求める北朝鮮側を牽制(けんせい)している。
しかし、正男氏の家族は北京に本妻との息子、マカオに別の女性との息子ハンソル氏と娘が住み、いずれも中国当局の身辺保護を受けているとされる。警察は渡航を求めているが、実現のめどは立っていない。