《外貨の活用》(1)〈今後の為替相場見通し〉大局をとらえて相場観の確立を

マネー講座

 国内景気は緩やかな回復基調を維持し、物価にも上昇の兆しが表れています。一方、賃金の伸びは鈍く、円の低金利は長期にわたって続く見込みです。こうしたなかで、日本にいながらにして外貨投資を行う個人投資家が増えています。預金や投資信託、保険、債券など金融商品は様々ありますが、それらを円建てだけではなく外貨建てで運用することによって、資産保全と資産運用の双方のメリットを享受することが出来ます。この投資講座「外貨の活用」を通じて、外貨の特徴や活用法に注目し、関心を深めてみるのはいかがでしょうか。2019年秋の消費税率引き上げや20年夏の東京オリンピックを視野に入れ、資産運用を見直す良い機会かもしれません。(SMBC信託銀行 二宮圭子)

為替相場を見通すポイント

 個人投資家の外貨投資は定着しつつありますが、08年の金融危機以降は既往の原油安もあいまって、ドルやユーロなど先進国通貨の金利も低下傾向をたどりました。金利妙味が薄れるなかで為替差益を狙った運用や比較的金利の高い資源国通貨や新興国通貨にも関心が広がっています。相場の主導がドル、円、ユーロなのか、資産運用を始めるタイミングを知る手掛かりとなりますので、市場環境の変化に応じた情報の速報性と正確性を求めることも大切です。

 たとえば、米国では労働省が毎月第1金曜日に発表する雇用統計は金融政策、また商務省が毎月5日前後に発表する貿易収支統計はトランプ米政権の通商交渉にも影響を及ぼします。市場参加者が注目している経済指標に目を配るのも良いと思います。これらを用いて皆様ご自身の為替相場感を醸成していくことが外貨と付き合う上で、ひとつ重要と思います。

17年、これからの為替見通し

 それでは、ここからは今後の為替相場の見通しについてお話しましょう。

 16年の為替相場を振り返れば、英国が6月の国民投票で欧州連合(EU)離脱を選択し、11月の米国大統領選挙では共和党のトランプ氏が勝利する、といった市場の大方の予想を裏切る結果となりました。市場のリスク回避姿勢が強まるなかで円高が加速し、ポンド円は4年ぶりの安値となる121円台、ドル円も節目の100円を割り込む展開となりました。それに遡ること1月、日銀が金融政策決定会合でマイナス金利を導入し、市場に驚きをもって受け止められましたが、15年6月に195円台のポンド高、125円台のドル高のピークを付けて下落基調をたどっていましたので、日銀の政策決定は円相場の流れを変えるには至らず。ドル円の反発は121円台後半にとどまりました。

 17年を俯瞰すれば引き続き、政局と政策が相場を揺り動かすと判断されます。昨秋以降、トランプ米大統領の不用意な発言がマーケットのボラティリティーを高めていますが、今後は日米や米独といった2国間での実務レベルの協議に焦点が移り、米国ではムニューシン財務長官やロス商務長官、貿易政策を担当する国家通商会議のナバロ委員長の発言も市場参加者の耳目を集めるでしょう。

 米政権が打ち出す財政出動とインフラ投資が同国経済の成長を押し上げるとの期待は根強いですが、保護主義色を強めるなどして貿易不均衡の是正を図れば、ドル安の動きを強める可能性もあります。中日独といった対米貿易黒字国への強硬な通商政策を要求するかどうか、米財務省が4月に公表する予定の「為替報告書」が待たれます。

相場のカギを握るのはドル、それともユーロかポンド?

 欧州では4、5月にフランス、9月にはドイツで国政選挙が実施されますが、与党が辛勝するとの見方が市場の大勢を占めています。英国ではメイ首相が3月29日、正式にEU離脱を通知しましたが、スコットランド行政府が2度目の住民投票を行い独立の是非を問う権限を求めるなど懸念材料もあり、ドイツが新政権を樹立する今秋まではEUと英国との交渉が進展しないとの見方もあり、ポンドの下落リスクは払しょくされていません。

 一方、日本では18年9月に安倍総裁、12月には衆議院議員が任期満了となりますが、日銀は黒田総裁が退任する同4月まで現行の緩和策を粛々と継続する公算が大きく、本邦の政局が及ぼす円相場への影響は12~15年頃と比べて小さく、円が相場のメインドライバーとなる可能性は低いとみています。ドル円が上昇基調に回帰するのか、下落基調をたどるのか、米国の金融政策はもちろんのこと、ユーロやポンドが不確定要素となって相場のカギを握る局面が度々訪れることになると思います。

金利差拡大に伴うドル高とリスク選好の円高が共存

 米連邦準備制度理事会(FRB)は3月15日の連邦公開市場委員会(FOMC)でフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を0.25%引き上げました。声明文やイエレンFRB議長の会見からは、今後も緩やかな利上げが続く可能性が示唆されましたが、6月と9月の会合でも利上げが決定されると当行は予想しています。

 こうしたなか、欧州の政局が落ち着く秋頃まではドル買いと円買いが綱引きする形となって、ドル円は110~115円のレンジを中心に一進一退の攻防が続くかもしれません。しかし、米国経済が堅調で過度なドル高が進行せず、トランプ大統領による税制改革など経済政策の内容が明らかになれば12月の利上げもあり得るとみています。

 さらに、FRBが保有する証券の再投資を減額し、12月にはバランスシートの縮小開始を公表すると見込んでいます。こうしたなか、日米金利差は名目ベース(10年国債利回り差)で2.6%前後まで拡大し、ドル高・円安のトレンドが顕著になるでしょう。ドル円は年末に向けて120円に向かうと予想しています。

相場展開を大局的にとらえる

 外貨投資の鉄則は相場展開を大局的にとらえることです。自分自身の相場感が明確であれば、日々の円高や円安の勢いに気後れすることなく、相場に時流に乗ることも可能になります。市場環境に応じて相場感を見直すことも大切ですが、運用期間や期待するリターンをあらかじめ設定しておくことも重要です。運用を始める前に、メインシナリオとサブシナリオの双方を組み立てておけば、想定外の状況が起きても冷静な判断と対応が次の投資に繋がっていくと思います。

(※マネー講座は随時更新。次回も「外貨の活用」をテーマに掲載します)

【プロフィル】二宮圭子(にのみや・けいこ)

SMBC信託銀行 投資調査部シニアFXマーケットアナリスト
シティバンク銀行入行後、法人金融部門・外国為替部にてインターバンク・ディーラー業務に従事。現在はSMBC信託銀行のシニアFXマーケットアナリストとして、為替市場の調査・分析および個人投資家向け情報提供を担当。主にテクニカル分析を得意とする。日経CNBCなどで為替情報を発信中。