【高論卓説】ヤマ場迎える「働き方改革」 時間管理とは違う基準の制度も急務

 

 安倍晋三首相が掲げてきた「働き方改革」がヤマ場を迎える。厚生労働省の労働政策審議会は今月15日、残業時間の上限規制などを盛り込んだ働き方改革関連法案の要綱に関し「おおむね妥当」として加藤勝信厚労相に答申した。政府は法案を閣議決定し国会に提出、2019年4月からの施行を目指す。

 残業時間の上限を法律で定めることは働く側の長年の悲願だった。今でも労働基準法では月45時間、年間360時間と決められてはいるが、労使で合意し、いわゆる「三六協定」を結べば特例が認められる。そこに上限をかぶせ、違反した経営者に罰則を科すというのが今回の法案だ。

 上限を年720時間とし、原則の45時間を超えることができる月を6回までに制限。2カ月ないし6カ月の平均残業時間を80時間以内とする。その上で繁忙期だけ例外的に認める単月の上限を「100時間未満」とする。「100時間」は過労死すれば労災認定される水準で、「死ぬギリギリまで働けということか」といった批判も上がるが、法律で絶対守るべき上限を定めることには意味があるだろう。

 だが、そうなると「時間」で仕事を管理するのがふさわしくない職種にまで上限を厳しく定めることになる。そうした人たちを時間規制から除外しようというのが「高度プロフェッショナル(高プロ)制度」の導入だ。国会提出後2年以上にわたり審議すらされてこなかったが、今回の労働基準法改正では、これを「セット」で審議することになった。

 高プロ制度については、共産党や民進党、労働組合などは「残業代ゼロ法案」「過労死促進法案」などと批判している。

 しかし、対象になるのは専門職などで年収が1075万円以上の社員だけ。管理職はもともと残業代支払いの対象外なので、これによって新たに残業代や労働時間規制から除外されるのは、社員全体の1%未満だ。

 労働組合側は、いったん制度が導入されれば、「1075万円以上」という条件がどんどん引き下げられ、対象が拡大していく危険性があると主張している。

 だが、人手不足が深刻化する中で、時間管理にそぐわない優秀な専門職社員の給与を1075万円以上に引き上げる動きが広がる可能性もあるだろう。

 労政審では、労働組合代表の委員から、高プロについて「長時間労働を助長する恐れが払拭されておらず、実施すべきではない」とする反対意見が出され、答申にも反対意見として付記された。法案には連合の主張を取り入れ、健康維持規定として、「年104日以上の休日の義務化」などが盛り込まれた。

 高プロについては、これまで反対姿勢を貫いていた連合の執行部が7月にいったん受け入れを表明したが、傘下の労働組合や民進党の猛烈な反発にあって「撤回」する異例の事態になった。それだけに、国会に提出されても簡単には通過しない可能性もある。

 しかも、臨時国会冒頭での解散となれば、法案成立が18年の通常国会にずれ込むことになり、法律成立から施行まで1年未満となる事態もあり得る。

 人手不足が一段と深刻さを増す中で、残業時間の上限法案も高プロも一刻も早く実施に移すべき施策だ。残業時間の上限管理が厳しくなり、働き方改革を進めなければ企業は対応できなくなる。より自律的な働き方を可能にするには「時間管理」とは違う基準で働こうとする人たちのための制度整備を急がなければならない。残業規制と高プロはワンセットで早急に実現すべきだろう。

【プロフィル】磯山友幸

 いそやま・ともゆき ジャーナリスト。早大政経卒。日本経済新聞社で24年間記者を務め2011年に独立。55歳。