カンボジアの教育に日本の力を 幼小中一貫校を計画、母国を支えるリーダーを育成

 
「先生さようなら」。カンボジア式で土居清美校長(右)にあいさつをするシーセフリーダーズアカデミーの園児。日本式の「しつけ」をカンボジア社会に定着させることもアカデミーの重要な教育方針だ=プノンペン市内(木村文撮影)

 おそろいの黄色いシャツを着た3~4歳の子供たちが、壁に向かって一斉に逆立ちをする。カンボジアの首都プノンペンにある「シーセフリーダーズアカデミー」の授業の一場面だ。「最初はまったくできなかったけれど、1年弱でほとんどの子ができるようになった。幼児期の体力づくりも大切な教育の一環」と、アカデミー校長の土居清美さんは言う。

 2016年9月、日本の公益財団法人「シーセフ」が開校した同アカデミーは、現在、幼稚部3クラスに合計76人のカンボジア人園児が通っている。同アカデミーが目指すのは、カンボジアで初となる幼稚園から中学校までの一貫校で、19年には小学部を開校する計画だ。

 母国を支える人材に

 シーセフは、日本のフォーバルの大久保秀夫会長が設立した。約10年前、初めてカンボジアを訪れた大久保会長が、カンボジアの子供たちの現状を目の当たりにして衝撃を受け、以降、さまざまな形で教育環境の向上を支援してきた。一貫校の設立は、その活動の集大成ともいえる事業だという。

 アカデミーの授業料は全員が無料。制服など、家族が負担する実費は月35ドル(約3900円)程度に抑えた。とはいえ、家庭の経済状況が選考基準ではなく、土居校長らが全員の家庭訪問をして、保護者の教育への熱意や、アカデミーの教育方針への理解を確かめて入学を判断する。幼児のころから日本語が必修科目で、将来は中学を卒業した生徒たち全員が日本の高校や大学に留学することを目指す。ただし、日本に送り込む人材を育てることが目的ではない。卒業後はカンボジアに戻り、母国を支えるリーダー的人材として活躍してほしいというのがアカデミーの教育目標だ。

 1991年の内戦終結後、復興の時代を経てカンボジアは今、毎年7%前後の経済成長を続けている。10年ごろからは日系企業の進出も急増し、16年には1人当たりの国民総所得が1000ドルを超えて、世界銀行の分類で「低所得国」から「低中所得国」に移行した。

 JICAが協力

 しかし、ここ数年、どの産業セクターでも直面しているのが人材不足だ。なかでも、技術者や熟練労働者、あるいは中間管理職を担う労働力の不足が指摘されており、その要因の一つとして基礎教育の不足が挙げられている。

 カンボジア教育省の統計によると、カンボジアでは小学校の入学率は100%近くになった。ほとんどの子供が小学校に通うようになった計算だが、退学する子供も多く、中学への進学率は約56%、その上の高校となると25%に下がる。貧困だけが問題ではなく、学校そのものに魅力がないことも一因とされる。暗記するだけの授業が多く、体育や美術など情操教育は後回しにされ、主要科目だけが重要視される。理科の実験道具、絵の具や楽器など備品をそろえている学校はほとんどない。

 学校教育の質を向上させるために、「教師の育成」から手をつける取り組みも始まった。日本の国際協力機構(JICA)は、現在2年制の教員養成校を、4年制の「教育大学」へと格上げするカンボジア教育省の事業に協力している。

 モデルケースとしてプノンペンと西部バタンバンの教員養成校が18年から4年制大学へと移行される。基礎教育を担う学校の改善を、質の高い教員を輩出することから始めようという取り組みだ。

 JICAによると、新しい教員養成課程は東南アジアの中でも最高水準とされるシンガポールのカリキュラムを参考とし、そこに日本の経験や知識も織り込まれる。また、日本から8人の教育教科やマネジメントの専門家をカンボジアに招き、指導にあたってもらうという。

 日本では今年から、外国人技能実習生の介護現場への受け入れが始まる。この動きを受け、カンボジアでも即戦力となる介護人材の育成が急速に進んでいる。一方で日本の教育関係者は、幼児教育や教員養成といった基礎教育の拡充にも深くかかわっている。どちらの分野でも、カンボジア社会の発展を目的とした、息の長い取り組みが求められている。(カンボジア月刊邦字誌「プノン」編集長 木村文)