【高論卓説】日本のソフトパワー戦略 東京五輪に向け新たな文化芸術創造

 

 衆院選の方向性が報道された9月中旬、国立劇場の文楽公演の千秋楽だった。東京・永田町の自民党本部から坂道を下ると、入り口は開場を待つ観客であふれていた。

 「生写朝顔話(しょううつしあさがおばなし)」の演目は、大名の大内家のお家騒動を背景とした、悲恋の物語である。悪だくみをする、医師の人形を遣う桐竹勘十郎(64)は、公演前のインタビューに「2020年の東京オリンピックで、人形遣いとして聖火ランナーを務めるのが大きな目標です。人形と一緒に走りたい。世界中の注目を集めることは間違いなしです」と語っている。

 20年東京五輪の開会式まで3年となって、ほんの2カ月前には都庁前広場で都主催のイベントがあり、議会議事堂の壁面に東京の街並みやスポーツのシーンが映し出された。大会組織委員会も1964年大会の当時ヒットした「東京五輪音頭」の20年バージョンを披露した。東京都知事の小池百合子氏が「希望の党」を立ち上げて、総選挙に臨むことになり五輪ムードに水が差された。

 オリンピック憲章は、スポーツと並んで「文化的ないくつかのイベントを計画し、プログラムを作成しなければならない」としている。また、「文化プログラム」は「人類の文化の普遍性と多様性を象徴するもの」と規定されている。

 桐竹勘十郎はもちろん、聖火ランナーとしてばかりではなく、20年の文化プログラムで文楽を演じることを熱望しているのは間違いない。64年大会では「古美術展」「近代美術展」「芸能部門」「現代美術展」などの分野で繰り広げられた。歌舞伎、雅楽、能楽、古典舞踊・邦楽に加えて、文楽も名を連ね、その演目に「朝顔話」もある。

 64年大会の組織委員会は、文化プログラムについて「日本固有のものだけを展示すること」という基本方針で臨んだ。第二次世界大戦の焦土から復興を果たし、大会の約半年前には経済協力開発機構(OECD)のメンバーとして加盟が認められた。こうした背景から、日本文化の存在を世界に示そうとしたのだろう。

 20年大会はどうなるのだろうか。組織委員会の文化・教育委員会が7月初旬、「東京2020フェスティバル(仮称)」という案をまとめた。「文化オリンピアード」と、はっきりと位置付けをして4本の柱を掲げている。「日本文化の再認識と継承・発展」「次世代の育成と新たな文化芸術の創造」「世界への発信と国際交流」「地域の活性化」である。

 世界を動かす「ソフトパワー」を日本で作り出そうという試みと言い換えてもいいだろう。プログラムのテーマとして、日本を象徴する場所で古今東西のテクノロジーを融合することや、国内外のアーティストの交流によって新しい文化芸術表現を創造することなどが考えられている。

 中国の経済の膨張に伴う領土や利権の拡張に対して、世界はいまどう対応したらよいのか模索している。北朝鮮による核危機はいうまでもない。この先にある20年に向かって、日本のソフトパワー戦略を練り直すのは良いことである。

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【プロフィル】田部康喜

 たべ・こうき 東日本国際大学客員教授。東北大法卒。朝日新聞経済記者を20年近く務め、論説委員、ソフトバンク広報室長などを経て現職。63歳。福島県出身。