小池氏が首相を目指したくない理由に挙げた過剰な「国会ファースト」とは…
衆院選は10日公示され、希望の党代表の小池百合子東京都知事(65)は公言していた通り出馬しなかった。これで22日投開票の結果、政権交代という目標をかなえても自身は首相になることができない。なぜ小池氏は今回、日本のトップを目指さなかったのか。色々な打算があろうが、小池氏が理由として挙げたのは、首相が長時間にわたり答弁に縛り付けられる日本特有の国会慣習だった。
「出馬はしないと言っている理由は、日本の国政があまりにも遅いから。その中の1人に入っても意味はない」
「国会開会中のうちの半分くらい一国の首相が午前9時から午後5時まで国会にじっと座っている。喜ぶのは日本をライバル視している国で、『どうぞ熟議の国会を続けてください』と言うでしょうね」
小池氏は10月2日の産経新聞のインタビューで、首相が国会審議に出席する時間が長いことに疑問を投げかけた。「ユリノミクス」と称する経済政策の具体策や財源など小池氏の主張は判然としないことだらけだが、国会をめぐる問題提起はとても重要だ。
安倍晋三首相(63)は今年の通常国会(1~6月の150日間)に衆参両院で延べ55日も出席した。加計学園問題などをめぐり野党が執拗に出席を求めたという要因が大きい。閉会後も、衆参両院の予算委員会の閉会中審査に1日ずつ出席した。
昨年の秋の臨時国会(9~12月の83日間)は延べ40日。首相はこの1年で延べ100日も国会にいたことになる。
衆参両院によると、諸外国の首脳については正式な統計を取っていないそうだ。ただ、政策提言機関「日本アカデメイア」が平成24年にまとめた提言書によると、旧民主党政権下の平成23年の首相の国会出席は127日に及んだのに対し、フランスの首相の議会での発言日数は12日、英首相は36日、ドイツ首相は11日にすぎなかった。
日本は閣僚の出席も非常に多い。平成23年の外相は165日だったが、仏、英、独はそれぞれ17日、22日、16日だった。
なぜ、日本が突出して多いのか。背景には、存在感を示したい野党が国会で首相を追及するため、頻繁に出席を求める-という日本独自の議会運営の慣習がある。
これは旧民主党政権下でも同じ。野党だった自民党は当時の首相だった鳩山由紀夫氏(70)や菅直人氏(70)をたびたび予算委員会などに出席させ、攻撃した。
かつて「55年体制」の下で盛んだった「国対政治」では、野党第一党の旧社会党が時の首相を厳しく批判し、乱闘などの派手なパフォーマンスを見せることもあった。与党の自民党は旧社会党の顔を立て、あえて「見せ場」を提供した。野党が法案審議に応じる取引材料として首相の出席を要求する手法は、こうした55年体制を引きずっている面もある。
このため、歴代の首相は年間7カ月前後におよぶ通常国会や臨時国会の会期中、常に外交日程を組む上で制約を受けてきた。
最近では昨年の臨時国会で、こんな出来事があった。
安倍首相が地元・山口県でプーチン大統領との日露首脳会談を控えた12月14日。民進、共産両党などの野党は衆院に内閣不信任決議案を、参院に首相問責決議案をそれぞれ提出した。野党による日程闘争の一環だが、自身への不信任案が出ている首相は、それが否決されるまで国会に縛り付けられる。結局、離京が9時間後に迫った15日午前1時まで出席を強いられた。こんな光景は他国ではなかなか見られないだろう。
首相の負担を軽減させる試みは、これまで行われなかったわけではない。平成11年に成立した「国会審議活性化法」で党首討論を導入し、その後、与野党は月1回の開催を申し合わせた。定期的に党首討論を開催することで、それ以外の首相の国会出席を原則としてなくす狙いだ。
しかし、約束は守られていない。党首討論は会期内に1、2回行われるのが実態だ。先の通常国会に至っては初の0回だった。野党側が加計学園問題などに絞って長時間追及できる衆院予算委員会の集中審議の開催要求を優先したからだ。
先の通常国会で自民党の国対委員長を務めた竹下亘総務会長(70)は、首相の出席を減らすべきだというのが持論だ。今年の通常国会の事実上の最終日、民進党側に「予算委員会への出席を半分以下に減らすべきだ。与野党で紛糾するたびに『首相の出席を』というのは国会のあるべき姿ではない」と見直しの議論を呼びかけた。だが、国会全体では改善の機運はなかなか高まっていない。
11月初旬に予定される日米首脳会談や、その後のアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議などを経て、北朝鮮情勢はさらに緊迫化していく可能性がある。そんな中、首相が年内の臨時国会や年明けの通常国会への過剰な出席を強いられるようでは、国益が損なわれる。
憲法で「国権の最高機関」と位置づけられる国会を軽視してはならないことは論をまたない。国民生活に関わる予算案や重要法案に関し、首相に直接ただすことにも大きな意義がある。ただ、小池氏が忌避した過剰な「国会ファースト」の悪習は、改めて考え直すべき時機に来ている。(産経新聞政治部 田中一世)
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