【高論卓説】経済拡大の実感ない低所得者、生きる目的見失う高学歴エリート 政治家は声なき声に耳をすませ

 
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 第48回衆院選が終わった。選挙期間中、野党幹部は、消費税率引き上げとその使途の見直し、財政再建の先送りに異議を唱えるとともに、国内総生産(GDP)を増やし株価を上昇させ、年金資産も増えたとする安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」の実績を否定し、むしろ格差を拡大させた誤った政策だと批判した。

 多くの有権者が日々の生活にかかわる問題に関心を寄せていた以上、それは自然な流れだったと思う。投開票の結果、全議席が確定し、いよいよ国会での論戦ということになるが、争点になった経済・財政政策については、これまで以上にじっくりと、そして活発に審議してもらいたい。

 足元の経済をみるならば、6四半期連続のプラス成長や雇用情勢の改善など、アベノミクスの成果が出ていることは確かである。しかし、それはいくぶん、割り引いて考えなければならないものだと思う。特に求人数の増加は、2020年の東京五輪・パラリンピックの開催や団塊世代の引退、後期高齢者の増加などによって、特定の産業分野で人手不足が深刻となる中で生じたものだと考えるべきだ。

 GDPといったマクロベースでの経済拡大に実感が持てないとする国民は依然多いが、日々の生活が苦しいと感じるのは、人手不足の職場で就労しているケースが多いのではないか。直近で就業者数が増えている卸売業・小売業やサービス業などは、もともと労働生産性が低い小規模事業者が多く、そこで働く人々は所得が低い上に、日々、多忙を極めている。働き方改革といっても限度のある世界だ。

 また世間的には、素晴らしい待遇だといわれるグローバル企業に勤める高学歴の人々も、高い成果を求められ続けるプレッシャーから、何のために生きているのか分からなくなるという思いもある。

 それらを口にできない、不満のはけ口がない人々は、時間にも追われて投票所に出向く気持ちが持てない。政治家に現状打開を託すことに意味がないとさえ考える人々も多いことだろう。そうした声なき声に耳をすますのはとても難しいことだが、政治家を志す以上、その努力を怠ってはならない。特に今回、初当選した議員は、選挙後も声なき声をくみ上げながら、議員として優先して取り組むべきことが何かを考えるべきだ。

 安倍総理が、国難の理由として挙げた北朝鮮の挑発については、どのような内閣であっても同盟関係にある米国に頼る以外、策はない。挑発がエスカレートする事態に対応するため、現行憲法の制約を取り除くのが改憲の本旨だというのは分かりやすいが、国会がいち早く改正の発議をし、国民に承認を求めるのは危険である。

 衆院選に棄権しても、憲法改正の国民投票には行くという有権者は多いことだろう。そのとき、国民の今の政治に対する真の態度が明らかになる。国会において熟議がなされぬままに、改憲勢力が国民投票まで突き進めば、軽率のそしりを免れない。第9条にかかわる部分の改憲を国民投票にかけて否決されたら、他の条項の地方分権など国の基本を変える改正にも国民は乗ってこないだろう。

 日本の真の改革は改憲によって成し遂げられるものだ。それができない状況に陥れば、日本はそれこそ国難ともいえる事態に直面してしまう。慎重の上にも慎重を期してほしいというのが、切なる願いである。

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【プロフィル】井上洋

 いのうえ・ひろし ダイバーシティ研究所参与。早大卒。1980年経団連事務局入局。産業政策、都市・地域政策などを専門とし、2002年の「奥田ビジョン」の取りまとめを担当。産業第一本部長、社会広報本部長、教育・スポーツ推進本部長などを歴任。17年9月に退職。同年10月より現職。60歳。東京都出身。