小池氏の「6分間の挨拶」はこうすべきだった 逆風の原因は「本当に謝罪するべき相手」をスルーしたから
【ニッポンの謝罪道】
選挙といえば敗北陣営の責任者からの謝罪の弁が定番ですが、果たして希望の党・小池百合子代表の謝罪はいかなるものだったのでしょうか。10月25日に行なわれた同党の両院議員懇談会の冒頭の小池氏の挨拶を「謝罪道」の観点から振り返ってみます。
◆小池氏の謝罪は、要するに…
希望の党は惨敗したものの、とはいっても、「小池さんの下ならば勝てる!」という下心をもって出馬した民進党出身の方々が「代表の発言が全国的に厳しい風を起こした」「230人の候補者のうち180人が死んだ選挙だった」「『希望には全員行けるとの前提』『排除』『上納金』の3点が流れを希望から絶望に変えた」「連日裏切り者と言われ非国民ともいわれる選挙だった」「19年やっていますけど初めて嘘つきと言われてしまいました」(10月26日のテレビ朝日系『羽鳥慎一モーニングショー』より)と不満タラタラなのはどうなんですかね。
「絶対儲かる株です!」なんて言われてそれをホイホイ買って下がったら文句を言う人もいますが、とにかく他人のせいにしたがっている。それでいて小池氏に辞任要求をする人もいるってワケですから、相変わらずの仲間割れ体質は変わっていないですね。この懇談会以後、26日現在において、メディアの論調とネットの「風」はまるで好意的ではありません。さて、それでは小池氏の挨拶の一部は以下の通り。
【1】〈今回の総選挙、非常に時間が短い中での党の立ち上げとなり、皆さま方も現場も、ポスター作りからなにからなにまでこれまで経験のないような選挙に突入したかと存じます。こと、これにつきましては、心ならずも多くの方々を傷つけてしまったことについても、改めて謝りたいと思っております〉
【2】〈そしてまた、政党たるものは、理念、そして政策が一致しなければいけないという点を強調したところだが、言葉がこうも歩いてしまったということが結果なので、改めてこの責任についても私はしっかりと心に刻んでおきたいと思っています〉
【3】〈1000万人に近い方々が比例代表で希望の党とお書きいただいた事実。これを私たちは忘れてはいけないと思っています〉
【4】〈私は党を立ち上げた責任を感じながら、一方で都知事という事実もございます。ぜひ私が都知事として都政に邁進(まいしん)をしてまいりたいと考えておりますので、国政は国会議員の皆さま方にしっかりと委ねていきたいと、このように考えています〉
これをまとめると、こうなります。
「私の失言もあり、ここにいる当選者の皆さん(そして後で報道等により見るであろう党員の皆さん)、にはご迷惑をかけ、職を失った人がいたのは申し訳ない。私は都知事なんでそちらに注力します。後はあなたたち主導でよろしくお願いします。1000万人の支持者がいるので少しは心強く思い、この方々の期待に応えてください」
懇談会であり、謝罪会見でも何でもないのですが、結果的に謝罪をしていますので、謝罪会見の一種ともいえましょう。毎度謝罪の度に問題視されるのが「誰に対して謝るか」を間違えることについてです。これを間違えると、謝罪道として未熟と扱われ、謝罪をしたくせに許してもらえないというヤブヘビ状態になります。不倫したベッキーが会見で不倫相手の川谷絵音の妻に謝るのではなく、まずはCM広告主等の仕事関係者に謝ってバッシングをくらった例が一番分かりやすいでしょう。
◆小池氏が見誤った「本当に謝罪すべき相手」
今回の懇談会は冒頭の6分だけ記者に公開しました。その後は非公開になったわけですから、記者に公開した部分の「後」で、仲間の皆さんに【1】【2】という謝罪をしたうえで、【3】の「安心してください、これだけ支援者がいます」とやって【4】の「私はもう関係ない」と宣言すれば良かった。
小池氏は挨拶の冒頭に記者を入れた目的を見誤りました。この6分という公開の場でやるべきは「本当に謝罪すべき相手への謝罪」だったのです。それは誰かといえば、東京都民です。小池氏は都知事としての仕事はしていたでしょうが、9月末からは選挙でどうしようもなく忙しかったはずです。しかも選挙戦が始まってからは、希望の党の候補者の応援演説で北は北海道から南は九州まで全国各地を回っていました。これだけの移動距離と演説の連続では体力も消耗するし、睡眠不足にもなるでしょう。
都民が選んだ首長が、都政に精を出すのではなく、総理大臣の野望をギンギンにみなぎらせ9月25日に結党。以後テレビ情報番組を席巻し、「すわ、政権交代なるか!」といった予感ももたらし一気に解散総選挙の主役に躍り出たわけです。その後の民進党との合体に伴うゴタゴタと失速についてはこれ以上言及しませんが、“国政選挙に熱心過ぎる都知事”というものは正直都民からすれば「お前、他にやることあるだろ……」と言いたくなります。
◆こう謝罪すれば逆風は吹かなかった?
懇談会の冒頭の6分間というのは、都民に対する謝罪をする場、とだけ考えれば10月25日夕方以降の逆風は若干変わったかもしれないんですよね。都政において小池氏の「決断」「問題解決」を待っている人は多岐にわたりますが、象徴的存在として具体的に名前を挙げて謝罪をする候補となったのは築地の市場関係者と五輪関係者でしょう。結局小池氏と都政に関しマスコミの取り上げる話題が圧倒的に「市場移転」「東京五輪」の2つに偏っているわけですから、この2つについては言及せざるを得ない。あとは希望の党に票を投じた支持者にも詫びる必要はある。
となれば、謝罪道的には以下のようになるのではないでしょうか。いや、「市場」「五輪」は名指ししない方がいいかもしれない……。そこは判断に悩むところではありますが、とりあえず言及する形で書いてみます。
〈記者の皆さん、本日は希望の党の両院議員懇談会にお越しいただきありがとうございます。この両院議員懇談会の場をお借りし、多くの方に私の考えをお話しします。ここにいらっしゃる議員の皆さんとは、党運営について一致団結すべく本日きっちりと議論を重ねたいと思います。
この度は希望の党に票を投じてくださった方々、比例の場合は1000万人もの方に票を投じていただきましたが、期待に応えられなかったことにお詫び申し上げます。そして都民の皆様には選挙期間中に『都政はこれで動いているのだろうか……』といった不安をもたらしてしまったことでしょう。それに対してもお詫び申し上げます。今回の結果は正面から受け止め、私は昨年291万2628人の方々から頂いた期待の声を裏切らぬよう、これから東京都知事としての職責をまっとうすべく全力を尽くしていきます。
希望の党の運営については、まだ選挙が終わったばかりですので、ここにいる仲間の皆さんとともにこれから決めていきます。「都民ファースト」を謳った私がその宣言をこの1カ月守らなかったように見えたことでしょう。これからの私の仕事で挽回させてください。皆様と共に素晴らしい東京を作っていきたいという気持ちは変わっておりません。
また、築地市場の移転問題については結論が先送りになっていること、関係者の皆様に大変申し訳なく思っております。より良い着地点を見つけていきます。また、五輪関係におきましては、着々と準備は進んでおります。しかしながら、新国立競技場の工事において、現場で働く男性が過労を原因に命を失うという痛ましい事態も発生しております。心よりご冥福をお祈りします。10月10日に新宿労働基準監督署が労災と認定しました。今後、五輪関連の現場での「働き方」についても改善できる方策を提示していく所存です。
この度の選挙については結果を真摯に受け止め、より良い東京・そしてその先にある日本を作るために働く決意を新たにしました。私にも至らぬ点が多々あり、本当に申し訳ありませんでした(深々と頭を下げる)〉
第4段落については慎重な文面が必要であるでしょうが、「謝罪する相手を見誤らない」といった観点からすればこうした挨拶も一つの案として検討しても良かったでしょう。また、案外重要なのが最後の「深々と頭を下げる」です。これがあることによって、記者団がフラッシュをパチパチパチと焚き、「謝罪している感」が増すのです。
この1年4カ月、小池氏は自民党のヒヒオヤジや利権まみれ風ガハハオヤジから虐げられている様を一般に見せ、その支持を高めてきたところがあります。「弱く見えれば見えるほど強くなる」という珍しい方ですので、フラッシュパチパチにしても「記者からいじめられている」といったイメージを若干作っても良かったのでは、と思います。
【プロフィル】中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
PRプランナー
1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』など多数。
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【ニッポンの謝罪道】はネットニュース編集者の中川淳一郎さんが、話題を呼んだ謝罪会見や企業の謝罪文などを「日本の謝罪道」に基づき評論するコラムです。更新は隔週水曜日。
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