【飛び立つミャンマー】高橋昭雄東大教授の農村見聞録(51)
■農地接収問題とNGO
社会主義時代(1962~88年)からずっと問題になっている、権力による農民からの不法な農地取り上げに関し、テインセイン政権は、2012年8月、「農地等の土地を接収された国民が損害を被らないように調査する委員会」(以下、調査委)を立ち上げた。現政権でも同様の委員会が組織されているが、まだ問題の解決からは程遠いのが現状である。そのような状況の中、17年9月、この問題に草の根で取り組む非政府組織(NGO)を訪ねた。
◆5分の1が不法没取
テインセイン大統領がその任期を終えようとする16年3月17日、土地の接収と返還の現状が国営新聞に発表された。それによると、16年2月29日時点で、調査および告訴状などによって調査委が接収事案と認定して、「中央農地管理利用委員会」(以下、中農委)に付託した件数は1万7708、うち1万3596件が解決済みとなっている。また調査委を通さずに、政府機関経由または直接に中農委に持ち込まれた事案は3702件で、うち解決したのは1197件である。さらには、中農委への告訴状なしに、国軍、政府機関、企業などが直接元保有者に返した案件が979件ある。この三番目の事案には面積も入っており、25万6025エーカー(1エーカーは約0.4ヘクタール)が返却された。なかでも国軍によるものが899件、18万9154エーカーと群を抜く。前二者については、返還された件数と面積の合計値が記されており、2214件、49万5749エーカーが元の持ち主に返された。すなわち、計75万1774エーカーが、一部例外はあるものと思われるが、農民あるいは元農民に返戻された。
現政権下の16年5月に再編成された「農地等接収問題再調査委員会」が17年4月に出した報告書によると、16年3月から17年3月までに新たに1万6945エーカーが返付された。つまり、前政権期から合計すると、76万8719エーカーが元の持ち主に戻ったことになる。
それでは、国軍、政府、企業などが不法に横奪した土地が全部でどれくらいあるのだろうか。残念ながら、前政権下でも現政権下でも、政府発表の資料ではわからない。新聞報道によると、不法に収用された土地は600万エーカーで、うち国軍が行ったのが400万エーカーある(Irrawaddy 13年7月11日付)とか、農地没収面積は約500万エーカーで、年間500万トンのコメ生産量に相当する(Eleven Daily 16年2月22日付)といった説がある。全国の総農地面積3000万エーカーの5分の1から6分の1が不法に没取されていたことになるので、にわかには信じがたいが、今でもしばしばこの問題が議会やマスコミで取り上げられているのを見ると、77万エーカーの還付では済まないことも確かであろう。
◆農民の組織化に着手
こうした問題に取り組むNGOのひとつ、Institute for Peace and Social Justice(IPSJ)を17年9月に訪問した。設立者で現代表でもあるタウントゥン氏は、1988年の民主化運動に参加し、クーデターの後にタイに脱出して、全ビルマ学生民主戦線(ABSDF)の結成メンバーとなり、96年からはビルマ連邦国民連合政府(NCGUB)の国連常駐代表を務めた、民主化の闘士である。2012年、彼の名はブラックリストから外され、同年12月に帰国した。IPSJは、12年に彼がニューヨークで設立した。今も運営資金は主にニューヨークで調達されている。
彼らはまず農民の組織化に着手した。2012年農地法では、「村落経済の発展のために制定される法律に基づいて設立される農民の組織」について言及されている。だが、その後に公布された同法施行法や農民の権利保護・便益振興法には結成方法が書かれていないし、1992年協同組合法では土地取り戻し運動はできそうもない。そこで利用したのが、2012年制定の労働組合法施行法だった。同法30、31条には、労働組合の対抗組織として、保有面積10エーカーを超える農民は組合をつくることができる、との条項があり、これを逆手にとって、保有面積10エーカー以下の農民は労働組合を組織できる、と解釈したのである。こうしてエーヤーワディ管区域を中心に30郡で400の農民・農業労働者組合が結成された。他のNGOによって創設された同様の組合も合わせると全国で2000もあるという。
IPSJは、村や町で、あるいはリーダーをヤンゴンに呼んで、法律の使い方や当局との交渉の仕方など、農地を取り戻す方法を教えるとともに、議員を通じて政府に働きかけたりもする。またこうした土地奪回活動の他に、農業金融、潅漑(かんがい)用水の確保、農業技術などに関する教育活動も行う。農地を取り返した後の農業経営を考えてのことである。
民主化・自由化の大合唱の中で、まだまだ整備されていない諸制度を巧妙に利用し補完して、農民・農業労働者の発言権を強化し、福祉を向上させていこうとする、草の根からの民主化運動がここにはあった。(随時掲載)
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