【飛び立つミャンマー】高橋昭雄東大教授の農村見聞録(52)

 
周辺の村々で巻かれ、納入されてきた葉巻の品質をチェックし、束ねて、パッキングする労働者たち。彼女たちの多くも周辺の村から働きに来ている=2017年8月、ミンジャン郡ミンジャン町(筆者撮影)

 ■葉巻の町とタバコの村(上)

 仏教遺跡で有名な景勝地バガンからエーヤーワディ川を60キロメートルほど上ったところにミンジャンという町がある。ミャンマー各所でこの町に言及すると「あのセーボーレイッ(葉巻)とセーユェッジー(葉タバコ)の町だね」という返事が返ってくる。この町を中心とするミンジャン県ミンジャン郡も、バガンやマグエーと同様に乾燥した中央平原の中にある。2017年8月、町中にある葉巻製造所とその周りの村々の社会経済調査を行った。

 ◆木の葉で巻く

 このセーボーレイッ、実はわれわれの知っている葉巻でも紙巻きたばこでもない、ミャンマー特有のものである。セーはタバコ、ボー(ポー)は軽い、レイッは巻く、を意味する。直訳すると「軽い巻きたばこ」になる。セーには薬の意味もあるので、昔はそう考えられていたのだろう。セービンレイッ(重い巻きたばこ)と呼ばれるいわゆる葉巻は、タバコの葉を刻まずにそのまま巻くが、セーボーレイッは葉を刻んで巻く。だが刻んだタバコの葉を紙で巻く紙巻きたばことは異なり、タナペッと呼ばれる木の葉で巻く。その意味ではセーボーレイッもまた「葉巻」と言えるだろう。

 セーユェッジー(葉タバコ)はミンジャン郡の村々で栽培されるが、タナペッは遠く離れたシャン州南部の山間地で少数民族パオ人の手によって作られる。2000年にこの地をトレッキングして、パオの村に滞在したことがある。囲炉裏(いろり)のある板張りの居間の向こう側の土間には、大きな長いかまどがあって、その上には丸い鉄板が8枚ずつ2列に並べられていた。タナペッの木から摘み取った葉をこの鉄板に並べ、下から薪を燃やして加熱し、ペラペラになるまで乾燥する。このようにしてパオの村々で加工されたタナペッは、シャン州南部の中心都市であるタンウジーに集められ、竹籠に詰められて、300キロの道のりを経て、ミンジャンの町にやってくる。山地のタナペッと平原の葉タバコ、少数民族パオ人と基幹民族ビルマ(ミャンマー)人の会合によって、セーボーレイッは生まれるのである。

 葉巻製造所はセーレイッコウン(コウンは低い椅子や机を意味する)と呼ばれ、セッヨウン(工場)という単語が入らない。葉タバコの粉砕過程で小さな機械を用いる程度で、バナナ、パイナップル、タマリンドなどを発酵させた酢で、この粉砕された葉タバコに香付けする作業、その後のロースト加工、タバコ以外の植物との混合、そしてトウモロコシの包葉で作ったフィルターを付けてタナペッで巻く核心部の作業、さらにはこれらの品質チェックおよびパッキングと、ほとんどが手作業で行われるからであろう。

 ◆ブランドが重要

 ミンジャンの町では大規模な部類に入る、名の知れたブランド名を持つ、あるセーレイッコウンでは、1日当たり8万~10万本のセーボーレイッを生産する。1本当たりのコストは、タナペッ7チャット(1チャット≒0.1円)、葉タバコ4チャット、フィルター0.5チャット、商標紙0.15チャット、労賃4.5チャットで、製品歩留まり95%だという。つまり商品原価は17チャットで、これにたばこ特別税が1チャット付く。卸売価格は1本20~25チャットであるから、販売費や一般管理費(光熱費、通信費、減価償却費など)をさらに控除しても、生産本数を加味するとかなりの収入となる。大きな家を構え、高級車を何台か所有しているのもうなずける。

 ミンジャンには200を超える製造所があり、その数は増加傾向にあるという。各製造所は香付けや他の植物の混合などで差別化を図るが、最も重要なのはブランドである。有名ブランドは全国展開し日産数十万本を誇るが、小ブランドや無名ブランドは近隣で安く売るか他のブランドの委託生産をせざるをえない。セーボーレイッ業界は、競争的で格差の大きな世界である。

 さて、ここまで葉巻製造所の話をしてきたが、実はここではほとんど葉巻を「製造」していない。町周辺の村人に中核の巻き作業を委託しているからである。セーレイッコウンはタナペッ、トウモロコシの包葉で作ったフィルター、刻んだ葉タバコなどの原料供給と、出来上がった葉巻の品質チェックとパッキングと販売を主な業務としている。次回はミンジャン町周辺の村々で作られる葉巻と葉タバコの話をすることにしよう。