《アクセル踏むEV》開発競争加速、再編の呼び水に 各国も後押し

ニュース解説
「広州国際モーターショー」で披露されたトヨタ自動車のEVのコンセプトカー=17日、中国・広州(共同)

 電気自動車(EV)市場が「加速」している。先般開催された東京モーターショーでも、メーカーが最先端の技術をつぎ込んだ試作車を相次ぎ出展。世界的な環境規制の広がりが各社を追い立てるなか、開発競争が激しくなる一方で、業界大再編の導火線となる可能性もある。

 ホンダは新たに開発したEV専用の車台を使った試作車をモーターショーに出展。小型で取り回しがしやすく、19年に欧州で発売されるEVのベースとなる見通しだ。「2020年に日本でも発売する」。八郷隆弘社長は内覧会で、タイミングを計ったようにメディアに表明。EV市場に本格的に攻勢をかけると「宣言」した形だ。

 水素で走る燃料電池車(FCV)を次世代車の本命に位置づけるトヨタ自動車も、人工知能(AI)やコネクテッド技術で運転支援するEVの試作車「トヨタ コンセプト愛i」を発表した。トヨタは昨年12月に、豊田章男社長直轄でEV開発を担う組織も発足させた。

環境規制が背中押す

 EV市場がにわかに活気づいてきたのは、主要国の環境規制の高まりだ。

 米カリフォルニア州ではEVなどの一定割合の販売をメーカーに義務づける規制が18年モデルから始まり、中国でも同様の規制が早ければ18年に適用される。

 さらに市場に衝撃を与えたのが欧州の動向だ。フランスと英国が40年までにガソリン、ディーゼル車の販売を禁止し、EV普及に一気にかじを切る。

 独フォルクスワーゲン(VW)をはじめとする欧州勢はもちろん、日本メーカーや米ビッグ3も欧州戦略の抜本的見直しを迫られる。もはや、EVは「片手間でやる商売では済まない。本気で売らねば経営が傾く」(日系メーカー幹部)存在になったのだ。

 実際、EVをめぐって新型車投入の動きが世界で広がっている。米EV専業メーカーのテスラは現行車より価格を抑えた「モデル3」の納車を7月から開始。ホンダも8月に新型EVを米国で発売し、2018年には中国でも新型を販売する。欧州当局の動きに危機感を募らせるVWは、25年までに実に30車種以上のEVを投入する。

性能の格段の進化

 EV市場の拡大を後押しする要因は規制だけではない。技術革新でクルマそのものの進化も著しいためだ。

 早くから市場に登場した割にEVが普及が進まなかった最大の理由は、クルマにとって致命的ともいえる航続距離の短さだった。

 日産自動車が10月に発売した新型「リーフ」はフル充電で従来の1・4倍の400キロを走れることで話題をさらった。

 日産がモーターショーで発表した試作車はさらにリーフの1・5倍も航続距離が伸びた。リーフは自動運転や自動駐車といった最先端の技術をほぼ全て網羅する。日産は目下、無資格検査問題の逆風下にあるが、西川広人社長は「リーフは日産のコアになる」と自信をみせる。

 クルマ選びの前提となる性能で、ガソリン車と遜色ないレベルに近づいてきたEVは、より市場価値を増しているといえよう。

関連市場も沸き立つ

 EVに欠かせない部材を納入する周辺業界も活気づいている。車載用リチウムイオン電池で世界最大手のパナソニックは1月から、米EVメーカーのテスラと共同で米ネバダ州に世界最大のリチウムイオン電池「ギガファクトリー」を稼働させている。さらに1000億円規模を投資し、日米中で増産に乗り出す計画だ。

 市場ではさらに先を見据えた、リチウムイオン電池よりも高性能の次世代電池をめぐる開発競争も本格化している。

 トヨタはモーターショーで、EV用次世代電池の「全固体電池」を20年代前半に実用化する方針も明らかにした。全固体電池はリチウムイオン電池の液体電解質を固体電解質にした大容量電池だ。

 空気中の酸素を取り込んで大容量の発電を可能にする「リチウム空気電池」も注目されており、韓国サムスン電子などが開発を急いでいる。

新たな業界再編の導火線?

 SUBARU(スバル)の吉永泰之社長は先月、トヨタやマツダが設立したEVの技術開発を手掛ける新会社に、出資も含め参加を検討する意向を明らかにした。実現すれば、EVの基盤技術をトヨタやマツダと共同開発することになる。新会社への参加はスズキも検討している。

 トヨタとスズキは17日、インド市場向けのEVを20年ごろに投入するため協力することで合意したと発表した。両社は今年2月に環境や安全に関する技術やITなどで業務提携に向けた検討を始める覚書を締結したが、業務提携の初めての具体策となる。

 EV開発で国内メーカーが手を組む動きがどんどん広がってきている。EV競争の勝ち残りに向け、合従連衡の動き加速してもおかしくない状況だ。

「死角」はないか

 各社がアクセルを踏みこむEV市場だが、はたして不安や死角はないのか。

 EVとよく比較されるのが、トヨタなどが力を入れるFCVだが、実は今のEVの活況もFCVの普及の足踏みに助けられている側面はある。FCVは燃料に水素を使うが、全国での水素ステーション整備が、安全規制が厳しくコストが高くつくことで、遅々として進んでいないからだ。

 10分程度で充電が完了するFCVと比べ、EVは急速充電でも通常30分以上かかる。今後EVが普及すればするほど、高速道路のサービスエリアなどで充電待ちの車が列をなす心配がないとはいえない。

 リチウムイオン電池の性能は日進月歩で、異常発火などのリスクは以前よりは目立たない。だが、EVがより社会で普及すれば、想定外の事態も含め一層の安全強化が求められる。

 《編集長メモ》活気づくEV業界だが、気がかりなのは日本の出遅れ感が目立つこと。欧州などは、EV購入時に25%の付加価値税(消費税に相当)を免除する税制優遇が市場拡大に結びついている。お隣の中国もガソリン車では日米欧の後塵を拝してきたが、お得意の国家ぐるみでEV普及に乗り出せば侮れない。政府もEV時代の本格到来に備え、安全規制を含めてしっかりと目配りしていくことが求められるだろう。(SankeBiz 柿内公輔)