【論風】一部の高所得者を利するのみ 政府・日銀の政策は逆効果、株高で拡大する所得格差
□早稲田大学名誉教授・田村正勝
円安が進めば、日本企業が海外で稼いだ利益のドル円換算額は増大する。トヨタ自動車は1ドル=1円の円安で400億円、大手企業全体では3000億円の営業利益の増加だという。
2014年のみずほ銀行の試算でも、10円の円安で上場企業は1.7兆円の営業利益増、非上場企業は8000億円の減少。大手の増益は海外子会社からの配当金や債券の利子が、円安で水膨れするからだ。
中小企業の苦境
これに対して非製造業や中小企業は、海外進出の割合も小さく、内需型企業や輸入型サービス業が多いから、円安は輸入原材料価格上昇で減益要因だ。円安の13~16年度に資本金10億円以上の企業の経常利益は大きく伸び、16年度は12年度の1.63倍。他方で中小企業は09年~14年に約40万社、13~14年だけでも4.5万社の倒産もしくは廃業である。
さらに17年度上半期の中小企業倒産は4220件で、9年ぶりに前年同期比増だ。日本の企業は99%以上が中小零細企業で、ここに被雇用者の75%が雇われ、全被雇用者所得の80%以上が支払われる。しかし円安では、中小零細企業の経営が厳しく賃上げも難しい。
他方で大企業は13~16年度に続き、17年度も過去最高益を更新する見通しだが、この大手でも17年の春闘におけるベースアップは、全体の51%にとどまった。こうして日本の賃金指数(15年=100)は13年99.6、16年100.6、17年前半期平均が100.5で、過去最高益を更新している13~17年でも1%弱の賃上げ率だ。
アベノミクス前の12年~17年では、賃金は0.7%上昇、消費者物価は3.9%の上昇で、実質賃金は3.2%下がっている。
円安による大企業の利益増に伴い、株価も上昇し続けた。16年だけは4~9月期の円高から株価が低下したが、日経平均株価は12年度が9000円台、13年度には1万3577円へ、17年1~6月平均が1万9382円へ、さらに17年11月時点で2万2000円台へと、12年度の2.4倍に跳ね上がっている。
実感なき株価上昇
他方で国民の大多数が実質賃金の減少で消費も伸びず、株価の上昇とは対称的だ。それゆえ大企業利益と株価の上昇の点では景気回復のように見えるが、ほとんどの国民にとっては、回復の実感はなく、同時に大企業の利益と株価の上昇が、所得格差を大きくしている。
しかもこの株価の上昇は、日銀および「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」による公的買いが大きく寄与してきた。この公的マネーが、東証1部上場企業の4社に1社の実質的な筆頭株主となった(16年8月)という。さらに17年3月時点では、この公的買いが50兆円を超えて、東証1部約2000社のうち、618社で筆頭株主となったという。
所得1億円超の役員が増加
こうした「官製株価」が、国民の所得格差を助長している。
なぜなら国民の株式保有者は全体の20%弱で、株式は「全家計の金融資産」の10%強にすぎず、株価の上昇は、一握りの高所得者を潤すだけである。
他方で大企業では、利益のかなりを自社株買いに回して株価を吊り上げているが、自社の株価が上昇した場合、これに並行させて役員手当を引き上げる経営方式を導入している。
これによって、日本では今や、年収1億円超の上場企業役員が530人となった。
このように日銀がアベノミクスを忖度(そんたく)して行っている「金融緩和・円安策と株式買い」は、大手企業の経営方式と相まって、一部の高所得者を利するのみだ。
ちなみに円安でも輸出数量は、輸出大手の海外進出ゆえ10年度よりなお10%近く減少している。
◇
【プロフィル】田村正勝
たむら・まさかつ 早大大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。同大教授を経て現職。一般社団法人「日本経済協会」理事長。72歳。
関連記事