【論風】私大を悩ます2018年問題 選ばれる大学になるには…求められる「質の保証」

 
※写真はイメージです(Getty Images)

 □國學院大學学長・赤井益久

 大学進学世代(18歳人口)の人口減少傾向が再び強まる2018年を迎えた。現状の120万人から30年には100万人程度まで減少するとみられている。全国的にみると、この問題に大学は直面しているわけだが、首都圏の人口は増加している。にもかかわらず地方創生の観点から東京23区内の私大は定員増を認められておらず、選ばれる大学になるには量から質への転換が求められる。質の保証、つまり内容を高めていく必要がある。

 大学の質の保証は以前、入試(入り口)が機能していた。厳しい入学者選抜が質を保証していたが、大学進学率が高まり全入時代を迎えると書類や面接で選考するアドミッション・オフィス(AO)入試や指定校推薦など入り口が増え質も多様化。こうした中で質を高めていくという難しい注文に応えていかなければならなくなった。個性、指向性、特技などを含めて受験生を評価することになる。

 企業不正問題増加の背景

 一方で質の保証は大学の個性につながる。文部科学省は普遍を求めるが学力の3要素(知識・技能の習得、思考力・判断力・表現力、主体的に学習に取り組む態度)や外国語の4技能(聞く、読む、書く、話す)で、大学が個性を発揮できるわけではない。外国語も何のために学ぶのか。仕事で海外に行くためか、外国人とコミュニケーションを取るためか考える必要がある。

 言葉はアイデンティティーであり、日本文化のDNAは言葉だ。國學院大學は日本語を大事にする教育に注力してきた。この建学の精神を旗幟(きし)鮮明にしており、学生には母国語をしっかり学ばないと第2言語は身につかないと教えている。これが國學院の質の保証になり、この視点で質を高めていく。昨年4月に「21世紀研究教育計画」(第4次)を策定した。「人文・社会科学系の標となる」ことを将来像に掲げ、「主体性を持ち、自立した『大人』の育成」を教育目標に据えた。大人とは具体的にいうと「酸いも甘いもわきまえて、他人の失敗に寛容で、謙虚に学ぶ」こと。身につければどこにいっても役に立てる人材になれる。

 一方、産業界に目を移すと不祥事が多い。日産自動車やSUBARU(スバル)の不正検査、神戸製鋼所などのデータ改竄(かいざん)といった不祥事は、コンプライアンス(法令順守)というより当たり前のことができていないから起こった。規則やルールの厳格化や小さなミスも許さない風潮がはびこり、遊びや余裕がなくなったからだ。

 合理的、功利的、即効的な質が重んじられるが、遊びや余裕があってこそ長期的、将来的に強固な質が保証される。改めて質を考え直す必要があり、企業はゆとりがなくなったとはいえ、即戦力ではなく長期的に役立つ人材を求めるべきだ。それはタフで多様な視点でとらえることができる人材だ。

 失敗から学ぶ

 その意味でも失敗から学ぶことは多い。学問には寄り道が必要で、ぶつかり合い、迷いながら未来に向かっていくもので、成功体験は必要だが、失敗や挫折と向き合ってこそ豊かな知をもたらす。大学は本来、失敗やつまずきを許容し、やり直しを認める文化を持っている。悩んで向き合えばタフになる。その仕掛けを大学はつくり、産業界で伸びていける人材、役立つ人材を育てていかなければならない。

 そのためには教育が大事で、授業は常に新鮮でなければならない。それが大学の質の保証につながる。優れた研究の上により良い教育が花開くのであり、タイムラグはあっても真の哲理だ。その先進教育を任されているのが大学。高校までは指導要領に沿って授業を行うが、大学は質、内容に縛りがない。教員に免許が必要なわけでもない。だからこそ質が問われるわけで、目標に向かって全力で努力する人材を育てていかなければならない。それこそが大学に求められる質の保証につながる。

【プロフィル】赤井益久

 あかい・ますひさ 1983年國學院大大学院文学研究科博士課程後期満期退学、85年同大文学部専任講師、助教授、教授、総務部長、副学長を経て2011年から現職。67歳。神奈川県出身。専門は中国古典文学。