【ニュース解説】《膨張するアマゾン》AIやクラウドで市場席巻 リアルとも融合

 
トヨタ自動車が公開した新型セダン「アバロン」。アマゾンのAI「アレクサ」を搭載できる=15日、米デトロイト(共同)

 米アマゾン・コムが事業を急拡大させている。話題の人工知能(AI)やIT機器で矢継ぎ早に新製品やサービスを発表。注目されるクラウドサービスでも圧倒的なシェアを築いている。さらにコア事業の流通でもスーパーを巨額買収し、ネットとリアルの融合に乗り出した。膨張する巨大IT企業の横顔と狙いに迫る。

■車載システムの“頭脳”を供給

 1月8日、米ラスベガスは、翌日に開幕を控えた世界最大の家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」の熱気に包まれていた。CESは今では狭い家電に分野にとどまらず、企業が最新のITや電子製品を披露する場ととらえられ、今年も世界各国から4千社近い企業が一堂に会した。

 「アレクサ、温度を変えてくれないか」

 注目を集めたのが、CES開幕を前にパナソニックが発表した、アマゾンの会話型AI「アレクサ」を搭載した車載システムだ。

 車に内蔵されたアレクサに運転者が話しかけることで道案内などを行うだけでなく、音楽をかけたり、車内の温度を変更したりすることができる。

 インターネットに接続しなくても一定の機能が使えるのが特徴で、パナソニック米子会社のトーマス・ゲッパート総代表は「革命的だ」と胸を張った。さらにネットにつなげば、なんと自宅の空調をつけられるなど、一段と充実した機能を楽しめる。

 トヨタ自動車もCESで9日、北米向けの一部車種で2018年中に、アレクサを導入すると発表した。トヨタのIT事業会社とマイクロソフトの合弁会社、トヨタ・コネクティッドのヒックス最高経営責任者(CEO)は「音声サービスは急速に普及している。トヨタの顧客は車内でアレクサと簡単に話せる」と期待を寄せる。

 トヨタは直後に米デトロイトで開催された北米国際自動車ショーで、アレクサを搭載した高級セダン「アバロン」の新型車も公開。今春発売される予定だ。

 CESで存在感を見せつけたアマゾンとアレクサだが、同社としては今回CESに出展していない。米CNBCテレビは「CESで勝利したのはアマゾンだ」とまで持ち上げた。

 アレクサの車載システムへの組み込みが話題となるのは、自動車開発の鍵をITが握るからだ。情報通信、音声・映像、自動運転…どれも最新のテクノロジーが欠かせない。その“頭脳”と期待されるAIに自ずとメーカーも注力する。アマゾンもまたアレクサの性能を磨くことで、車載システムでの存在感を高める戦略なのだ。

■AIスピーカー人気の火付け役

 一方で、そもそもアレクサがエンジニアだけでなく一般の耳目を集めるようになったのは、AIスピーカーの存在が大きい。

 アマゾンが2014年に発売した「エコー」だ。アレクサを搭載したエコーには7つのマイクが取り付けられ、音声認識技術で騒がしい部屋でも正確に音声を聞き分ける。やはり音楽を再生したり、天気やニュースなども教えてくれる。

 エコーは昨年のクリスマス商戦ではあまりの人気に、生産が追いつかないほど売れまくった。

 エコーが火付け役となって、グーグルやマイクロソフトなども相次いでAIスピーカー市場に参入。「ポスト・スマートフォン」の本命ともいわれている。モバイル端末ではやや影が薄かったアマゾンだが、AIスピーカーで先行し、次世代のデバイス競争で一気に優位に立とうとしているようだ。

■クラウドで圧倒的優位に

 CESと同じくラスベガスで毎年、大勢の聴衆を呼び込むIT界の一大イベントがもう一つある。

 こちらは正真正銘、アマゾンが主役だ。アマゾンのクラウド・サービス「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」が開催している「リインベント(再発明)」は、16年はなんと3万人以上を集めた。

 イベントの目玉であるアンディ・ジャシーCEOの基調講演にはエンジニアが詰めかけ、「どんな新技術を発表してくれるのだろう」と子供のように目を輝かせて聞き入る。

 クラウドサービスは、サーバーのデータやソフトを分析してネットワーク経由でサービスを提供するもの。従来のクライアント・サーバーシステムに代わる有力なプラットフォーム(情報基盤)として注目を集めている。

 そのクラウドを手がけるAWSは、アマゾンの子会社でありながら、今やグループの利益の大半を稼ぎ出す「孝行息子」に育っている。さらに世界での存在感も圧倒的だ。AWSを追いかけるのが、IBM、マイクロソフト、グーグル。AWSを含めて4強ともいわれるが、米調査会社シナジー・リサーチによると、17年第2・四半期の市場シェアは、AWSが34%を占め、他の3社が束になってもかなわない。

 クラウドへの対応が遅れているとされる日本市場だが、日本でもすでに十万を優に超える企業がAWSを利用しているとされる。

 AWSの強みは、クラウド上のアプリケーションがソフトで結ぶついて多様なビジネスを生み出すエコシステムをいち早く確立したことと、スケールメリットも活かして利用料の値下げを続けていることだ。

 IT業界とクラウドに詳しい野村総合研究所の楠真理事はその著書で「既存のIT業界を動かす台風の目。もはやAWS抜きにIT業界を語ることはできないといっても過言ではない」(『頑張れ、日本のデジタル革命』)と指摘している。

■リアルの流通市場でも進撃

 アマゾンは“本業”の流通でも拡大戦略を加速している。なかでも市場を驚かせたのが、地盤のネットからリアルへの本格進出だ。

 昨年6月に米市場で健康志向の食品などを多く取り扱うスーパーのホールフーズを137億ドルを投じて買収すると発表した。米メディアによると、アマゾンが手がけた買収では過去最大規模になる。

 アマゾンのベゾスCEOは「ホールフーズは何百万の人々に愛され、40年近く顧客を満足させてきた。それを続けてもらいたい」と話すが、ホールフーズは業績が伸び悩んでおり、徹底した在庫管理やコスト削減など「アマゾン流」経営でてこ入れを図るのではないか、との見方も出ている。

 ただでさえ、米市場ではウォルマート・ストアーズなど流通各社は、アマゾンのネット通販に押され、業績が圧迫されている。アマゾンがネットとリアルの融合を進めれば、競合各社の一層の脅威となるだろう。

■破竹の勢いに立ち向かうのはどこか

 快進撃を続けるアマゾンだが、死角や不安材料はあるのか。

 アマゾンを脅かすとすればやはりまず競合のIT大手だろう。マイクロソフトは、同社を長年支えたライセンス販売を軸としたウィンドウズ・ビジネスから、クラウドサービスへ重心を傾けるため、営業組織の見直しに踏み込んだ。グーグルは同社が得意とするAIとマシンラーニング(機械学習)を武器に、AWSを追撃する構えだ。

 さらにAWSを含めてクラウドには、まだ従来のプラットフォームに比べてシステムが脆弱なのではないかとの懸念もつきまとう。

 昨年3月には、AWSとアジュールでそれぞれ大規模なシステム障害が発生している。不測の事態への対応を含め、クラウドに熟知したエンジニアも「まだまだ不足している」(IT大手関係者)状況だ。

 流通でも、リアルの小売り業者がネット通販にも乗り出し、反撃に出ようとしている。ウォルマートは2017年8~10月期のネット経由の売上高が前年同期より5割も伸びた。

 これらライバルの巻き返しをアマゾンがどうしのぎ、さらなる成長を実現できるのか。IT業界と市場の関係者が見守っている。

 《編集長メモ》本文で紹介した以外にも、アマゾンは電子書籍閲覧端末「Kindle」でブランド力をもち、ファッション分野にも本格投資するなど、膨張の勢いはとどまるところを知らない。ややもすればグループの総帥でカリスマ、ベゾスCEOばかり注目されたが、密かに後継者選びに着手したとの報道もある。今や世界を覆わんとする巨大な「帝国」をいかに維持していくかも課題となりそうだ。(SankeBiz 柿内公輔)