【専欄】北京の空、灰色から青へ戻るも… 中国の「脱石炭」政策に凍える庶民 ノンフィクション作家・青樹明子

 
※写真はイメージです(Getty Images)

 私の記憶に残る北京の冬は、空も陸も一面灰色である。微小粒子状物質「PM2.5」の濃度が1立方メートル当たり500~600マイクログラムもあった時代に住んでいたので、冬とは常に暗く、どんよりとくすんでいた。

 しかし最近、北京の空が青い。昨年12月半ば、出張時に見上げた空は、20数年前、初めて住んだ頃の北京の空と同じように青く澄んでいた。

 この青空はどうやって獲得できたのか。理由は簡単である。PM2.5の元凶である石炭の使用を禁じたからだった。「煤改気(石炭を天然ガスに換える)」である。

 もちろん悪いことではない。しかし問題は、中国が「煤多气少(石炭は多いがガスは少ない)」という国であることだ。天然ガスが供給不足に陥り、厳寒の時期、暖房が使えない。中国の北方で、暖房は食料と同等のライフラインである。氷点下20~30度という所もある中、暖房がなければ凍え死ぬ。

 中国のメディアは厳しく管理されているため、国の政策を真っ向から批判することは少ない。しかし、凍える庶民に関してはさすがに黙ってはいられないのか、多くのメディアで報道されている。

 河北省保定市の某小学校では、子供たちが、校庭に並べられた椅子の上にノートを置き、レンガを敷き詰めた地面に座って授業を受けている。別の小学校では室外授業を増やし、子供たちに日光を浴びさせ、また校庭を走り回らせて暖を取らせているという。しかし子供の中には手足が霜焼けになり、患部が腫れてかゆくなった者も少なくない。

 さすがに行政側も、対策に乗り出した。まずは、気温が比較的温暖な中国西部の大型化学工場を少なくとも4カ月間、操業停止とした。そこで使用する予定だった天然ガスを、北方の家庭と学校の暖房用に回すことにしたという。犠牲になっているのは子供たちだけではない。石炭を売る者、燃やした者は、どんな状況かにかかわらず、即刻罰せられていく。

 山西省の某工場労働者は、あまりの寒さに禁じられた石炭を使ったのが発覚し、直ちに逮捕、勾留された。山東省の貧しい農民は、石炭からガスに変える費用がなく、生活の糧であるたった一頭しかいない羊を代金として持っていかれた。

 そして政策は迷走する。変更に次ぐ変更で「あまりに場当たり的」と、庶民から怨嗟(えんさ)の声が上がる。暖房のない冬は、降雪に霜を加えたようなものだといわれる。北京の青空の下、今日も誰かが凍えている。