訪日客増、地方に効果波及の兆し LCCやクルーズ船好調 消費単価向上が課題
2017年の訪日外国人旅行者数と年間消費額がともに過去最高を更新した。格安航空会社(LCC)やクルーズ船を利用して地方を訪れる外国人も増え、東京や大阪以外に経済効果が波及する兆しも出てきた。ただ、1人当たりの消費額は減少が続いており、客単価を向上させるため観光資源の開発が課題となりそうだ。
LCC就航追い風
多くの土産物を積んだカートを押す中国や韓国などアジアの旅行者であふれる関西空港の出発ロビー。チェックインカウンターや保安検査場は連日、長蛇の列ができる。
17年の外国人の入国者数は約716万人で、6年連続で過去最高を更新。韓国や東南アジアなどを結ぶLCCの新規就航や増便が追い風となり、外国人は国際線利用者の約7割を占める。
運営会社の関西エアポートの山谷佳之社長は「関空からの入国者はまだまだ増えていく。訪日客需要を着実に取り込みたい」と語った。
国土交通省によると、日本に発着するLCCの国際線は昨年10月時点で韓国や中国など国内外の21社が運航し、旅客便数の約26%に伸びた。国交省は「訪日客需要は衰える気配がなく、増加は当面続くだろう」とみる。
クルーズ船も好調
訪日客が東京、京都、大阪などの「ゴールデンルート」に集中する傾向は続くが、地方空港での国際線の増便やクルーズ船の寄港増に伴い、地方に足を延ばす動きも広まる。
17年1~10月の外国人宿泊者数が約21万人と、東北6県でトップの青森県。誘客に力を入れた中国や台湾などの定期便やチャーター便が増えたためで、リンゴ狩りや伝統工芸品の津軽塗体験にも訪日客の姿が見られる。
五所川原市で雪原を歩く地吹雪体験ツアーを主催している角田周さん(64)は「ツアーを始めた30年前には外国人はほとんどいなかったが、今は7割ほどを占めている。旅行者の口コミで人気が広まった」と話した。
長崎市の長崎港は17年のクルーズ船の寄港数が267回で全国2位に。今月12日にも中国人ツアー客らを乗せた全長約300メートルの大型船が入港するなど好調が続く。
しかし、客の大半は入場料がかからない平和公園や免税店をバスで巡るため「地元の商店や有料施設への経済波及効果は期待ほどではない」(市の関係者)という。
長崎県の担当者は「消費拡大のため地元産品をPRして満足度を高め、リピーターを増やしたい」と意気込む。
富裕層向け体験を
20年の政府目標である訪日客4000万人、消費額8兆円を達成するには、1人当たり消費額を20万円に引き上げる必要がある。だが、17年は2年連続で前年比マイナスの15万3921円にとどまった。訪日客数が2位だった韓国(約7万円)など中国を除くアジア諸国の客単価の低さが要因だ。
政府は19年1月から出国者1人につき1000円を徴収する新税「国際観光旅客税」を導入する。訪日消費の拡大に向け、仮想現実(VR)技術を利用した遺跡の再現といった新たな観光資源を開発するための財源としたい考え。「客単価が高い欧米やオーストラリアからの誘客につなげたい」(観光庁の担当者)
訪日観光のコンサルティングを手掛ける「ランドリーム」(東京)の原田静織社長は「訪日客のニーズは多様化しており、寺社や茶道など既存の日本のイメージにとらわれず、富裕層を取り込む体験を用意する必要がある」と指摘している。
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