【マネー講座】《債券入門》(1)〈債券とは〉資金を借りた証拠として発行
株式や外国為替とくらべて、債券はニュースなどであまり報道されないため、親近感がわきにくい金融商品かもしれません。ではなぜ債券について知る必要があるのでしょうか。
一般的に資産形成は、将来仕事を引退した時に備えるために行います。貯蓄や投資は、あたかも「現在の自分から未来の自分への送金」のようなものです。その「送金手段」としては、預金や株式、外貨資産など、様々な特性を持つ金融商品があります。債券は、預金や株式とは異なる特性を持っているため、債券について知ることで、未来の自分への「送金手段」の選択の幅を増やすことに役立つはずです。これから債券の基礎知識を説明して参りますので、よろしくお付き合いください。(三井住友信託銀行 瀬良礼子)
債券は借り入れの証拠となる証券
そもそも「債券」とは、国や企業が、投資家から資金を借り入れた証拠の「借用証書」として発行された証券です。かつては紙の証券が発行されていましたが、現在では大半の債券は電子化されています。債券は、主に国や地方自治体など(公)と企業(社)が発行するので、「公社債」とも呼ばれます。
債券は、企業などが長期の資金を調達するときに発行されます。例えば、製造業の企業は、資金を調達して生産設備を作り、製品の製造を開始して販売して、利益を上げます。調達した資金を返済するのに必要な利益を上げるには、それなりの長い時間がかかります。
そのため、長期資金を円滑に調達できる市場があると、企業などが経済活動を行うのに役立ちます。
企業が長期の資金を調達する手段としては、「株式」もあります。株式は、企業が株主に出資をしてもらった証として発行する証券で、株主は出資者として企業の一部を所有するため、企業は調達資金を返済する必要がありません。
一方、債券はいわば借金ですので、返済期日が定められています。また、利息の支払いなど、さまざまな約束ごとが決められています。詳しくは次回に説明します。
債券の種類
債券には細かく分類すると非常に多くの種類があり、全体を網羅しようとするとかえってわかりにくくなるため、基本的な条件に着目して、どのような種類があるかをみていきましょう。
まず、返済期日までの期間によって、「短期債」=1年以下、「中期債」=1年超~5年以下、「長期債」=5年超~10年以下、「超長期債」=10年超、と分けられます。なお、1年超~10年未満を長期債として分類する場合もあります。
次に、利息の支払われ方による分類には、主に4つあります。①「確定利付債」は発行時に利息や額面が確定している債券です。「固定利付債」ともいいます。最も一般的な債券です。②「割引債」は、保有期間中に利息が支払われない代わりに額面以下で発行される債券です。③「変動利付債」は、通常は固定されている利子率が市場の実勢に応じて変動する債券です。④「物価連動債」は、額面金額が物価の上下に連動して変化する債券です。
最後に、債券を発行し資金を調達する主体、つまり、発行体による分類については、主なものを図に示しました。
まず、政府・地方自治体等が発行する「公共債」と企業などが発行する「民間債」に分けられます。さらに、公共債は「国債」「地方債」「政府関係機関債」に分類されます。政府関係機関債は、政府保証の有無で分けられることもあります。
「民間債」は大きく「社債」と「金融債」に分けられますが、企業が発行する債券には、一般的な社債(普通社債)のほかに、債券の裏付けとしてローンなどの担保資産がある債券(資産担保証券)や、株式としての性質を併せ持つ債券(転換社債型新株予約権付社債)など、多くの種類があります。なお、転換社債型新株予約権付社債とは、一定の価格で株式と交換できる権利が付いた債券のことです。
発行市場と流通市場
ところで、債券はどのような市場で取引されているのでしょうか。少し複雑ですが、債券市場は、新たに債券を売り出す市場(=発行市場)と、すでに発行済みの債券を売買する市場(=流通市場)に分れています。
「発行市場」は「プライマリー市場」とも呼ばれ、政府や企業が資金調達をするために、投資家を募集して新たに債券(=新発債)を売り出す市場です。図にあるように、発行市場では、政府や企業などが債券を発行するのを証券会社や銀行などが手助けします。
新発債を購入した投資家が償還までそのまま持ち続けるとは限らず、途中で売ることも考えられます。そのような、発行市場ですでに発行された債券(既発債)を売買する市場が「流通市場」です。「セカンダリー市場」とも呼ばれます。
流通市場には「取引所取引」と「店頭取引」の二通りの取引方法があります。
「取引所取引」は、上場されている銘柄について、投資家からの売買注文を取引所に集中して取引を成立させようというものです。一方、「店頭取引」は、投資家が証券会社などの債券ディーラーと1対1で交渉して価格・数量・受け渡し方法などの条件を決め、取引を成立させます。「相対(あいたい)取引」ともいいます。
債券の売買はそのほとんどが店頭取引で占められています。債券には数万以上の銘柄があるうえに、個々の取引ごとに条件が異なり、複雑な取引も多くみられます。そのため、証券会社などが売買の相手方となって細かいニーズに応える店頭取引が多いのです。
今回は以上です。債券の輪郭をご理解いただけたのではないでしょうか。次回は、債券をより明確に理解するために、基本的な約束ごとなどについてご説明します。
(※マネー講座は随時更新。次回も「債券入門」をテーマに掲載します)
【プロフィル】瀬良礼子(せら・あやこ)
マーケット・ストラテジスト
1996年より自己勘定の運用企画を担当。以後、現在にいたるまで、為替・金利を中心にマーケット分析に従事。マーケット企画部で手掛けた「投資家のためのマーケット予測ハンドブック(NHK出版)」、「60歳までに知っておきたい金融マーケットのしくみ(NHK出版)」の執筆スタッフの一人でもある。
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