【視点】大阪の地下鉄民営化、まずは「親方日の丸」から脱皮せよ

 
大阪市営地下鉄の路線図※写真はイメージです(Getty Images)

 □産経新聞論説委員・鹿間孝一

 大阪市営地下鉄が4月1日に民営化される。新会社は「大阪市高速電気軌道株式会社」だが、愛称の「Osaka Metro(大阪メトロ)」で呼ばれることになるだろう。

 1日平均245万人が利用し、輸送人員では関西の大手私鉄5社を上回る。2016年度の営業収益は1585億円に上り、トップの近鉄の1566億円とほぼ同規模である。

 橋下徹前市長は「これほど優良で巨大な民間会社が誕生するのは、これまでの大阪の歴史のなかではない」と民営化を積極推進したが、好調なインバウンド(訪日外国人客)でようやく浮上した大阪経済の、さらなる起爆剤になると期待は大きい。

 それには「官から民へ」の意識改革、すなわち「親方日の丸」を脱することだ。

 大阪の市営交通はスタート時から「モンロー主義」と呼ばれてきた。

 明治36(1903)年に市中心部から大阪港へのアクセスとして路面電車が走り、新しいもの好きの大阪人に大好評だった。将来性に目をつけて民間資本が参入をはかったが、当時の鶴原定吉市長は「市街鉄道のような市民生活に必要な交通機関は、利害を標準に査定されるものではなく、私人や営利会社に運営を委ねるべきではない」と、あくまで市営を主張した。

 昭和8(1933)年には日本初の公営地下鉄として御堂筋線が開業する。以降、網の目のように路線が敷かれたが、私鉄の乗り入れは頑として拒んだ。線路や車両の規格が異なるため、私鉄は主要ターミナルから郊外へ、市内は市営地下鉄とおおむねすみ分けてきた。

 「モンロー主義」は言い換えれば独占体質である。競争相手がいないから、業務の効率化やサービス向上に目が向かない。東京に比べて高い運賃や、終電が早いことなど、利用者の不満は大きかった。

 橋下前市長は2度にわたって民営化の議案を市議会に提出したが、いずれも否決された。公益性が高いという理由だが、累積赤字794億円を抱えるバス事業が切り捨てられるのではという不安もあった。

 吉村洋文現市長は、自民党が主張した新会社の株式を100%市が保有するという条件を受け入れて、ようやく可決にこぎつけた。

 民営化を歓迎する。

 橋下前市長の時代からすでに、市交通局の意識改革は始まっていた。一例はトイレである。「くさい」「汚い」と苦情が多かった駅のトイレは順次改装され、格段にきれいになった。

 初乗り運賃は4年前に200円から180円に値下げされた。駅構内の売店もコンビニに変わった。

 では、民営化でこれ以上、何が、どう変わるのか。お手本になるのは「東京メトロ」である。特殊法人だった帝都高速度交通営団が2004年に民営化され、東京地下鉄株式会社(愛称・東京メトロ)になった。

 株式は国が53.4%、東京都が46.6%を保有しているが、近い将来、完全民営化ですべて売却されることになっており、上場すれば時価総額は1兆円と予想される超優良企業である。

 路線は飽和状態だが、「駅ナカ」の商業施設としての活用や、沿線での不動産事業、フリーペーパー発行などさまざまな事業を展開して、業績を伸ばしてきた。人が集まり、動くところにはビジネスチャンスがある。可能性は無限である。

 大阪メトロも民営化を機に発想を変えるべきだ。社長にはパナソニック元専務の河井英明氏が就任する。「利用者目線の会社」を目指す吉村市長の「意中の人」と、白羽の矢が立ったという。

 課題は少なくない。まず赤字のバス事業をどうするか。私鉄との相互乗り入れは。インバウンド需要を取り込むため、外国人客の利便性も向上させたい。

 一つだけくぎをさしておきたい。公共交通機関の最大のサービスは安全であることを忘れてはいけない。