【社説で経済を読む】貿易戦争、その「根っこ」とは何かを考えたい

 
中国製品への制裁措置を指示する大統領令に署名するトランプ米大統領(AP)

 □産経新聞客員論説委員・五十嵐徹

 トランプ米大統領が知的財産権の侵害を理由に、中国に制裁関税を課す大統領令に署名した。鉄鋼とアルミニウムへの新たな関税導入では、中国に加え、日本も対象になった。中国は対米報復措置をほのめかしている。

 一連の措置は議会の同意がなくとも大統領の判断で制裁措置をとれる米通商法301条などに基づくが、世界最大の経済大国による一方的措置の応酬は世界経済を暗転させかねない。

 主要ターゲットは中国だとはいえ、制裁対象には日本も含まれた。外交、安全保障で命運を共有する同盟国であっても、通商問題ではいささかも容赦しないトランプ政権の特異な姿勢を改めて浮き彫りにした格好だ。

 当然ながら各紙社説は3月24日付で、一致してトランプ政権の強硬な保護主義政策を批判した。

 産経は「大国が貿易相手国を恫喝(どうかつ)する手法は、自由貿易の秩序を崩すもの」だと不満をあらわにし、日経は、「強硬姿勢を取ることで、相手国から何らかの譲歩を引き出そうとする『取引至上主義』の考え方だ」と“トランプ流”に警告を発した。

 秋に中間選挙を控えたトランプ氏には、国内産業の庇護(ひご)者をアピールする狙いがあるのだろう。だが、大国の衝突がエスカレートするようなら、世界貿易は停滞・縮小が避けられない。米国の制裁発動を懸念した金融市場は大荒れとなり、平均株価は一時1000円超も暴落した。

 反省なき中国の責任

 知的財産権の侵害をめぐっては、米通商代表部(USTR)が今後、制裁関税を課す具体的対象のリストづくりに入る。情報通信関連を中心に最大600億ドル(約6.3兆円)相当が見込まれるという。

 トランプ氏は、「対米黒字が大きいほど市場は閉鎖的」だと断じるが、日経は「2国間収支と市場開放度は基本的に関係ない」と反論する。

 世界貿易の縮小は、ブーメランとなって米国経済に跳ね返る。読売は、「関税が輸入物価を引き上げ、消費者にとっても事実上の増税となる。消費が冷え込めば製造業者にも益はない」と指摘する。

 中国国営企業による鉄鋼ダンピング(不当廉売)はすでに下火傾向にあり、対中輸入量は大幅に減っている。高品質の日本製品が値上げされて困るのは米国企業の方だ。

 トランプ政権とて気付かぬわけではなかろうが、強硬措置の背景には、目に余る中国の知的財産権侵害がある。

 中国が世界貿易機関(WTO)に加盟したのは2001年だが、当時も最大の問題は中国による偽ブランド品の大量生産・販売であった。欧米社会が加盟を後押ししたのも、中国をWTOルールに組み込めば、公正な貿易取引が期待できると踏んだからだ。

 ところが、その期待はことごとく裏切られてきた。朝日も、「中国による知的財産侵害は長年の懸案だ。企業が中国に進出する際、合弁会社の設立などを通じて技術供与を強要されるといった批判は、米国のほか欧州や日本でも聞かれる」と指摘する。

 にもかかわらず、中国への投資が引きも切らないのは、13億人という巨大な消費市場への期待があるからだ。

 しかし、その巨大市場すら、独善的な手法で最後は外国資本を排除し、自らの胃袋にのみ込もうとしている。中国市場の将来性についても、冷静に判断すべき時期に来ている。

 米国の弱体化を象徴

 鉄鋼などに高関税を課す対象として日本が名指しされたのは、米通商拡大法232条(国防条項)に基づく措置だ。米国の安全保障を脅かす恐れがある場合に限定された条項で、同盟国への発動はそもそも立法趣旨に反する。

 欧州連合(EU)やカナダ、メキシコ、韓国などが対象から外れたことと考えあわせ、日本では、安倍晋三首相とトランプ氏の“親密な関係”が生かされていないではないかとする的外れな批判も多く聞かれる。

 しかし、同盟関係と通商問題を同一次元で考えること自体にもともと無理がある。

 トランプ氏には、とりわけ両者を峻別する傾向が強いように見える。読売は「現実を見据え、日本は通商戦略の立て直しが求められる」と書いているが、なにをいまさらの印象を拭えない。

 日本としては、まずは米国を除く11カ国による環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の発効を急ぎ、再び米国を多国間貿易協定の枠組みに引き戻すことだ。

 米国が日本を制裁対象にした理由は明らかだ。USTRのライトハイザー代表は、日本との2国間自由貿易協定(FTA)交渉に強い期待をみせているが、制裁解除をその条件にしてくる可能性は十分ある。日本はTPP11を軸に粛々と対応すべきだ。

 トランプ政権のなりふり構わぬ一方的措置は、実は「弱くなった米国」を示すものかもしれない。一連の制裁発動は、中国への警告にはなっても、世界経済の縮小という副作用が強く出るようなら、日米欧の離反要因にもなりかねない。そして、それこそが独裁体制を強める中国やロシアが待ち望む事態だ。