自らのシナリオ通りに進める金正恩氏 経済向上へ制裁解除狙う
【ソウル=名村隆寛】北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が20日の党中央委員会総会で、核や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実験中止を表明した。核弾頭とミサイルの「大量生産と実戦配備に拍車をかけていくべきだ」(1月の新年の辞)とした核優先路線からの転換にも一見映るが、あくまでも実験の「中止」である。
総会で採択された決定書では、北朝鮮への核の威嚇がない限り核兵器の使用や技術移転はないことが強調された。ただ、この主張は金委員長が新年の辞で「責任ある核強国として、敵対勢力がわが国の自主権と利益を侵害しない限り、核兵器を使用せず、核で威嚇しないであろう」と言及したことの繰り返しだ。
さらに、金委員長は、昨年11月末に宣言した「国家核戦力完成」を踏まえた上で、実験中止や核実験場廃棄を表明している。北朝鮮は自ら主張するように、すでに「核戦力を持つ核強国」であり、これまでの金委員長の主張に沿って現在に至っている。
今回、金委員長は「達成すべき闘争目標」として、3年目に入った国家経済発展5カ年戦略の遂行期間に「人民経済全般を活性化し上昇軌道に確固として乗せる」ことを挙げた。これも新年の辞で言及している。
経済の向上、確立が引き続き課題なのだが、その障害となるのが米国を中心とする国際社会からの経済制裁だ。北朝鮮が年初から韓国や米国との対話攻勢に出たのは、制裁解除への道筋を作る狙いとみられる。
そのタイミングがうまく合った。韓国の政権が対北対話を志向する文在寅政権であることだ。金委員長は新年の辞で対米非難の一方、韓国には「緊張緩和のためのわが方の誠意ある努力に応えていくべきだ」と呼びかけた。文政権は北朝鮮の期待通り「誠意ある努力」に応じ続けている。
北朝鮮を取り巻く情勢は、現時点で金委員長の描いたシナリオ通りに進んでいるようだ。核実験中止なども金委員長が表明したように実行されるのだろう。ただし、それも“金正恩式の工程表”に沿ってということになる。
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