【マネー講座】《債券入門》(4)〈長期金利の変動要因〉景気・物価がカギに
前回は、債券価格と利回りの関係を説明し、市場で取引されて変動する10年物国債利回り、つまり、長期金利が私たちの生活にも関係していることを説明しました。それらを踏まえて、今回は長期金利がどのような要因で変動するのか、そして、長期金利の先行きの見通しについてポイントを説明し、債券入門を締めくくります。(三井住友信託銀行 瀬良礼子)
景気と物価の動きで金利も影響を受ける
金利は「資金を借りたい」という需要と「貸したい」という供給とのバランスから決まります。資金を借りたい人が多いと金利が上がり、貸したい人が多いと金利は低下します。
債券の場合、「資金を借りる」=「債券を発行する(債券の売り手)」、「資金を貸す」=「債券を購入する(債券の買い手)」と読み替えます。なお、債券の売り手には、債券の発行者だけでなく、保有している債券を償還前に流通市場で売却する投資家もいます。
最初の図にあるように、景気が活発なときは、企業は設備投資を行って生産能力を拡大するために長期資金の調達を増やすので、金利に上昇圧力が高まります。逆に、景気が悪いときは、企業は設備投資に慎重になり資金調達を急ぎませんので、金利は低下しやすくなります。
また、物価上昇率が高くなると、企業は仕入れ価格が上がる前に原材料を購入しようとして資金調達が増え、金利に上昇圧力がかかります。
また、資金を運用する投資家の立場からは、今後の物価上昇率が現在の債券利回りよりも高くなると考えた場合、資金を債券で運用するとモノの価格上昇に割り負けてしまうので、債券保有を嫌がります。債券の買い手が少なくなるので、債券価格が下落、つまり、債券利回り(金利)が上昇します。
逆に、物価上昇率が低くなると、企業や家計はモノの購入を急がず、資金調達が増えないので、金利には低下圧力がかかります。
投資家の立場では、債券での資金運用がモノの価格に割り勝つと考え、債券保有を増やしたくなるので、債券価格が上昇、つまり、債券利回り(金利)が低下します。物価が持続的に下落するデフレ期を思い起こすとわかりやすいでしょう。たとえ長期金利が0%でも、物価が長期的に下落するとの予想の下では、資金運用の魅力が勝ることになります。
なお、「好景気と物価上昇率加速」、あるいは、「不況と物価上昇率減速・物価下落」は、必ずしも同じ組み合わせとなるわけではありません。経済環境によっては、「不況と物価上昇率加速」が同時に発生する場合もあります(スタグフレーションともいいます)。
中央銀行の金融政策の影響と人々の予想・期待
中央銀行は、景気過熱や物価高騰を抑制したいときに政策金利を引き上げ(金融引き締め)、逆に、景気を上向け物価を押し上げたいときには政策金利を引き下げます(金融緩和)。
しかし、中央銀行が設定する政策金利は通常、「翌日物金利」と呼ばれる1日物の金利を対象としています。そのため、短期金利には強く影響しますが、金利の期間が長くなればなるほど影響度は小さくなります。
例えば、景気拡大期が終盤に入り、中央銀行の利上げ局面終了が視野に入ってくると、利上げで短期金利は上昇しても、長期金利は将来の利下げの可能性を織り込んで低下する、といった事態も起こります。
なお、2018年4月現在、日本銀行は「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という金融緩和の枠組みを採用しています。この枠組みの下で日銀は、長期金利(10年物国債金利)を0%程度にするよう長期国債を買い入れています。そのため、金融政策の影響が通常よりもより長期の金利に及んでいます。
ここで、10年物金利などの長期金利は、現在の翌日物金利を出発点として、10年分の翌日物金利の「予想」が積み重なったものと考えてみましょう。中央銀行の金融政策は短期金利に強く影響しますが、5年・10年・20年と、予想の期間が長くなると、景気・物価の状況が変わり、金融政策も変化します。長期間の翌日物金利予想には、短期と比べて不確かさが増します。
そのため、その不確かさを市場参加者の「予想や期待」が補うことで、長期金利が形成されます。したがって、長期金利は現在の政策金利から受ける影響は低下し、「予想・期待」の影響度が大きくなります。
前述したように、長期資金の借り手と貸し手が将来の経済成長(景気)や物価上昇率を予想あるいは期待して行動することが、長期金利に大きく影響するのです。
なお、資金の貸し手が長期間にわたって資金を自由に使えなくなることへの「見返り」が、長期金利のほうが短期金利よりも大きく反映されることも考慮する必要があります。ただし、「予想」と「見返り」の部分を明確に分離することはできませんので、長期金利の決定要因の一つとして理解しておけば十分でしょう。
為替レートや海外金利も長期金利に影響
次の図は日本の長期金利と、景気を表す実質GDP成長率と、物価上昇分を考慮した名目GDP成長率の推移を示したものです。長期金利は、景気と物価を合わせた名目GDP成長率と近い動きをしていることがわかります。
しかし、この図からも分かるように、長期金利は景気・物価とぴったり同じに動くわけではなく、ほかにも為替レートや海外金利など、さまざまな要因の影響を受けます。
まず、為替レートが日本の長期金利に及ぼす影響を考えてみましょう。
円安になると、日本が海外から輸入している商品の価格が値上がりします。なぜなら、例えば1ドルで輸入している商品は、円安が進むと100円から110円へと円建ての価格が上昇するからです。それが国内の他の物価へも波及すると、金利上昇へとつながります。
また、円安になると、海外投資家が日本の債券を外貨に換算するときに価値が目減りします。円安は海外投資家の債券売りを促し、金利上昇圧力となります。
円高はこの逆の動きとなります。
次に、海外金利が日本の長期金利に及ぼす影響を考えてみましょう。
例えば米国金利が上昇し日本の金利よりも魅力的になると、日本の投資家が米国の債券を買います。すると、日本の債券の買い手が減少し、金利上昇につながります。また、米国債券を購入するために円を売ってドルを買うので、円安となり、さきほどの為替レートの影響の経路をたどって、金利上昇へとつながります。
米国金利の低下の場合は、この逆の動きとなります。
そのほかにも変動要因はありますが、入門編としては、「景気」「物価」「金融政策」「為替レート」「海外金利」を押さえておけばよいでしょう。
良い金利上昇、悪い金利上昇
景気が良くなることに伴い、資金需要が高まって金利が上昇するのは「良い金利上昇」であり、問題はありませんが、景気が悪くても金利が上昇する場合があります。例えば、2010年にギリシャの国債利回りが急上昇しました。ギリシャ政府の財政赤字が過少に公表されていたことが発覚し、不信感から国債が売られたのです。これは「悪い金利上昇」の典型例といえるでしょう。
ところで、日本でも国債発行額が大幅に増えていますが、国債利回りは非常に低い水準で推移しています。日本はギリシャと異なり、1990年のバブル崩壊以降、企業の資金調達需要が大幅に後退したことで、銀行が家計部門から預かっている資金が国債へ流入したため、国債の大量発行を受け止めることができたのです。
最後に、日本の長期金利の今後を見通す上での注目点を述べたいと思います。
最も重要なのは、日銀の金融政策です。前述したように、日銀の長短金利操作により、長期金利は0%近くに止まったままですが、物価上昇率が目標の2%を達成できると確信すれば、長期金利の目標を引き上げるでしょう。2019年10月の消費増税の影響が薄れ、日本経済の真の実力が見える2020年10月以降がタイミングとして注目されます。
以上で「債券入門」は終了です。投資対象としての債券の基礎知識だけでなく、住宅ローンなどの借り入れ金利に影響する長期金利の変動についてもあらましをご理解いただけたのではないでしょうか。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
(※マネー講座は随時更新。次回から「もらう相続」をテーマに掲載します)
【プロフィル】瀬良礼子(せら・あやこ)
マーケット・ストラテジスト
1996年より自己勘定の運用企画を担当。以後、現在にいたるまで、為替・金利を中心にマーケット分析に従事。マーケット企画部で手掛けた「投資家のためのマーケット予測ハンドブック(NHK出版)」、「60歳までに知っておきたい金融マーケットのしくみ(NHK出版)」の執筆スタッフの一人でもある。
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