【道標】新薬承認「ランダム化比較試験」不要通知 安全性の軽視、あってはならない
薬の効き目と安全性を確かめるには最終的に人での実験が必要だ。効果が非常にはっきりしていたエイズの抗ウイルス剤でさえ、人での実験で確認がなされた。効き目があっても害が利益を上回ることがあるからだ。
実験では対象者を、「薬の候補」を使う人と、その成分を含まないプラセボ(偽薬)を使う人に公平に分け、効き目と害を確かめる。これを「ランダム化比較試験(RCT)」という。最少の人数で正確な結果を出すことができる方法だ。
ところが昨年10月、薬剤によってはRCTを経なくとも製造販売を承認することが決まった。しかも法律によってではなく、厚生労働省の課長通知で、だ。薬の効き目と安全性を確かめる科学的な手続きに「赤信号」がともったといえる。
効果と害の確認にRCTによる証明が必須だとする法律は、サリドマイド薬害を経て1962年に米国で定められ、世界中に広がった。
半世紀を経て、サリドマイドやスモンなど薬害事件を忘れたかのような「規制緩和」に危機感を覚える。
今回、手続きが緩和されたのは、技術革新により多数の新物質が開発される中で、厳しい規制が「高すぎるハードル」となったためだ。もっとも、緩和の動きは以前から強まっていた。
例えば降圧剤や血糖降下剤は血圧や血糖値を下げるだけでは本当に値打ちのある薬とはいえないため、60年代に寿命を伸ばす効果があるかどうか確かめる大規模なRCTが実施された。しかし証明はほとんどできず、70年代には、脳卒中や心臓病を減らせばよい、となった。米国の62年の法律では2つのRCTを要求していたのに、90年代に1つに緩和された。
現在使われている医薬品の大半はこの手法で承認され、さまざまな問題を生み出している。心臓病死を増やすとして欧州では健康保険の対象から外された降圧剤が、日本ではまだ売られている。
米国では「偽薬に劣っていなければ良い」との強引な解釈もなされるようになり、日本を含む各国で、心臓病を減らすことのできない糖尿病用の薬剤が高い薬価で売られている。だが、この手法をどの薬剤にも適用するわけにはいかない。
そこで考えられたのが、未承認の物質を患者が「試用する権利」だ。米国でこれを認める法律が昨年上院を通過したものの、このほど下院で否決された。試用で被害が生じても企業は責任を取らない。「患者の権利」を前面に出した企業の責任回避策である。
日本ではそれが昨年10月20日付の厚労省の課長通知「条件付き早期承認制度」により、可能とされてしまった。薬剤を使った患者を追跡する「観察研究」を承認後に実施することを条件に、少人数で試しただけで承認するという。
証拠の確かさを保証する上で観察研究がRCTの代用にならないことは科学的な常識だ。RCTでもデータが都合よく操作される可能性はあるが、観察研究では操作が一層たやすいからだ。
にもかかわらず観察研究を「リアルワールドデータ」と称し、「RCTは多数の対象者が必要だがリアルワールドデータは少数で済む」とする言説が勢いを増している。
当初は限られた薬剤にしかこの手法が用いられないとしても、今後、多くの薬剤に拡大することが懸念される。
これはいわば暴挙であり、決して許されない。いま一度、過去に学ぶ必要がある。
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【プロフィル】浜六郎
はま・ろくろう 医薬ビジランス研究所所長。1945年徳島県生まれ。大阪大医学部卒。阪南中央病院(大阪府松原市)勤務を経て、2000年からNPO法人医薬ビジランスセンター理事長を兼務。大阪大医学部非常勤講師。
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