【視点】野球場の応援 もっと「自然の音」を楽しむ機会を
□産経新聞編集委員・工藤均
プロ野球が開幕して間もなく2カ月。野球場では応援団らによるトランペットや太鼓、笛などの「鳴り物入り応援」が熱を帯びてきた。日本では当たり前の光景だ。
少し古くなるが、開幕前の3月21日、東京ドームで巨人-ヤクルトの試合形式の合同練習があった。予定の神宮球場が雨で使用できず、巨人側の提案で実現した「無観客試合」だった。当然、応援はない。ヤクルト・青木宣親(のりちか)選手の試合後の「(選手らの)声が響いて気持ちよかった」のコメントに思わず、膝を打った。
1998年に東京ドームで行われた日米野球の「球音を楽しむ日」を観戦した。状況は違うが、共通点は応援がないこと。キャッチャーの捕球音、バッターの打球音、走るスパイクの音、選手のかけ声…。観客の拍手や声援もすがすがしく聞こえた。この「自然の音」のことを当時、産経新聞に書いたことがある。青木選手の言葉を知り、改めてそう思えたのだ。
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現在、応援団方式の応援は日本野球機構(NPB)の許可が必要だ。広報室では、「お客さまの人格権である『平穏観戦権』を守る範囲での応援をお願いしている」とする。ルールを守れば容認という立場だ。応援団は主に外野席で熱い応援を繰り返す。他の観客もメガホンをたたき、声をからす。そういう応援は好きな方だが、静かな環境で見たいと思うときもある。鳴り物入り応援を否定しているわけではない。応援団の協力を求め、鳴り物がない日を何度か実施してほしいということだ。屋外を本拠地とする球団にはとくに希望したい。
「球音を楽しみたい会」代表世話人の渡辺文学氏は、鳴り物入り応援に異議を唱える。「盛り上げる効果としてはいいのだろうが、ボールが動き続けるサッカーなどと違い、野球は間を楽しみ、推理する面白さがある。その楽しみを妨げている」とし、「イニングの合間でならどうか」と提案する。産経新聞の「正論」執筆メンバーで、慶応大名誉教授の池井優氏も同様意見。「長嶋対村山など、大打者と名投手の一騎打ちを息を凝らして見守ったものだ。そういうときは我慢してほしい」という。
これに対し、ある私設応援団の一人は「思いっきり応援し、勝ったときは『やり遂げた』気分になる。そういう楽しみを奪う権利はない」という。各種資料を調べると、「サッカーにとってのサポーターの大合唱、バレーボールなら『ニッポン、チャチャチャ』。なくてはならないものだ」「(やめたら)観客動員数やグッズの売り上げに影響するだろう」「米国と同じにする必要はない」…などもあった。
渡辺氏によると、米大リーグではパイプオルガンの演奏やジャズが流れることはあっても、投手が投げる瞬間は静まり返る。声援や拍手は自然発生的に起こるという。
これまでも同様のイベントはあった。2000年6月14日(東京ドーム、「球音を楽しむ日」)、15年3月17、18日のオープン戦(神宮、無観客試合)など。昨年5月23日には、オリックスが「球音を感じる日」を実施した。オリックス野球クラブ広報部によると、「うるさいと感じていたから、ない方がいい」「応援団の音頭がないと自発的に応援しない」など反応はさまざま。今年は実施しないという。
こうしたイベントがあっても、なかなか定期的には実現しない。そこには、応援あってのプロ野球という主催者側の意識、気遣いが背景にあると思う。だからこそ、「たまにはどうか」と思うのだ。
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統一した応援で有名な昨年の日本一チーム、ソフトバンクは鳴り物入りの自粛について、「お客さまやファンの意見をよく聞いて検討する」(広報企画部)とする。一方で、楽天は近隣住宅などへの配慮から鳴り物の使用を禁止している。楽天野球団広報部によると、今年から「音量の調節・指向性をコントロールすることが可能で、音楽による盛り上げができる」として、スピーカーによる応援を求めている。
今月10日、東京ドームで観戦した。熱い応援には鳴り物は欠かせないと思う。だが、重要な局面では、あれこれ考えながら見守った。球場が静まり返る。そんな状況なら、もっと集中できるとも思った。
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