【論風】米国はどこに行くのか 拡大する格差と深まる分裂

 
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 □青山学院大学特別招聘教授・榊原英資

 久しぶりにニューヨークを訪れたが、ニューヨークは数年前とあまり変わっていないように思われた。多様でダイナミックなのだが、東京のように日々変化しているという印象はない。ホテルに泊まって驚くのは、テレビのチャンネルが100以上もあることだ。スペイン語の番組はもとより、日本語のチャンネルもある。まさに人種のるつぼであるニューヨークという街の反映なのだろう。

 多様なコミュニティー

 空港からホテルに送り届けてくれた自動車の運転手はインド系米国人。流暢(りゅうちょう)な英語をしゃべっていたが、友人と少し話させてくれというので聞いていたら、インドの地方の言語。ちなみにインドには、21の公用語があり、原則的に州ごとに言語が異なる。運転手がどの州の言語を話しているのかは分からなかったが、米国に来てもインド人のコミュニティーがそのまま維持されているということなのだ。

 インド人だけではない。ニューヨークには中国系の人たちの中華街、イタリア人たちのイタリアン・クオーターがある。そして日本人のプレゼンスも決して低くない。筆者が宿泊したホテルは日本系のキタノホテル。有名な日本料理店やすし店も少なくない。前述したようにテレビのチャンネルが多いのも、こうした多様性を反映してのことなのだろう。

 上位1割に集中

 多様性はプラスに働けば、ダイナミズムを生み出し、町を活性化する。そして、これがニューヨークの強みだといえるのだろう。同質性の高い東京とは大きく異なったニューヨークの特色といえるのだろう。しかし、多様性がマイナスに働けば、社会の分裂ということが起こりかねない。そして、ニューヨークは次第にそうした方向に動いてきているような気がする。米国の1人当たり国内総生産(GDP)は主要先進国の中で最も高い。2016年の米国の1人当たり名目GDPは5万7607ドル。ドイツの4万2177ドル、英国の4万50ドル、日本の3万8823ドルを大きく上回っている。

 しかし、成長の果実はトップ1割前後に集中し、格差は拡大してきているのだ。上位1%の資産は1962年には中央値の125倍だったが、2010年には288倍になっている。上位1%の資産は全米の34%、下位50%の資産は2.5%にすぎない。

 かつてマーティン・ルーサー・キング牧師が黒人に対する差別を撤回しようと、“We shall overcome”と歌いながら行進したが、まだまだ米国がovercome(克服)しなければならない課題は山積している。ニューヨークに久しぶりに来て感じるのは、この町が東京と違って貧しさと豊かさが混在する町だということなのだ。それが米国のダイナミズムということもできるのだろうが、貧困から抜け出して成功するという、かつての「アメリカン・ドリーム」は色あせたものになってしまっている。

 日欧上回る不平等

 数年前には格差に抗議する「99%」のデモがあったが、格差は次第に定着し、下層から上昇していくのは極めて難しくなってきているのだ。格差を数量的に指標化したジニ係数(1.00に近いほど不平等)は米国が0.39と、英国(0.36)、日本(0.33)、フランス(0.30)、ドイツ(0.29)を大きく上回っている。

 しかも、1985年前後に比べると、かなり増加してきている(85年は0.32)。格差は次第に拡大してきているのだ。

 格差の拡大は社会の分裂を生みかねない。90年代、米国人歴史家、アーサー・シュレジンガーや米国人ジャーナリスト、スタッズ・ターケルが「米国の分裂」についての著作を出しているが、それから30年近くたった現在、分裂はさらに深まっているのではないだろうか。

【プロフィル】榊原英資

 さかきばら・えいすけ 東大経卒、1965年大蔵省(現財務省)入省。ミシガン大学に留学し経済学博士号取得。財政金融研究所所長、国際金融局長を経て97年に財務官就任。99年に退官、慶大教授に転じ、2006年早大教授、10年4月から現職。75歳。神奈川県出身。