【マネー講座】《「もらう」相続》(3)〈相続の受け方〉手続のあらましと注意点

 

 前回までに、相続のあらましをみてきました。今回は、実際に相続を受ける手順と注意点について説明します。(りそな銀行 折原和仁)

預貯金などの金融資産は軽々に引き出さない!

 相続開始前後には何かとおカネが必要です。そのため、キャッシュカードなどを用いて被相続人の金融資産を引き出してしまう人も少なくありません。でも、その行為は本当に大丈夫でしょうか?

 前回説明したように、相続開始後に被相続人の金融資産を引き出すと単純承認の意思表示をしたと判断され、後で債務があることが判明しても放棄はできなくなります。また、他の相続人から「遺産を隠した」などの疑念を生じさせ、遺産分割協議を紛糾させるリスクもあります。

遺言の有無を確認する

 相続手続の流れは図のとおりです。

 まず、遺言の有無を確認します。

 公正証書遺言(公証人が作成する方式の遺言書)を作成している可能性がある時は、公証役場に照会すれば有無を教えてくれます。それ以外の方式による遺言書は、被相続人の自宅などを捜索することが必要です。

 公正証書遺言以外の遺言書が見つかったら、速やかに他の相続人に連絡するとともに、家庭裁判所に「検認」を申し立てます。検認とは、遺言書の内容を相続人全員で確認するとともに発見時の状況を記録する証拠保全の手続で、遺言書の有効・無効を判定するものではありません。封をされた遺言書を家庭裁判所以外で開封することや、検認を経ずに遺言を執行することは禁止(罰則規定あり)されているので注意してください。遺言の検認には1~2カ月程度を要するようです。

 遺産の分割方法を指定した遺言がある場合、指定された分割方法が確定します。配分に不満でも異議を唱えることはできません。しかし、遺言者の判断能力が不十分であったため遺言が無効の可能性がある、あるいは遺留分(兄弟姉妹以外の相続人が最低限相続を受けることができる財産の割合)を侵害される等の事情がある場合は、訴訟など法的手段に訴えることが可能です(ただ、残念ですがトラブルにはなります)。

相続人をきちんと調査する

 相続人は、被相続人の戸籍を調査して確認します。

 戸籍の調査は、弁護士や司法書士、行政書士などの専門家に依頼することができます。戸籍謄本等に基づき法定相続一覧図を作成して法務局に申し出れば記載内容を証明する文書を発行してくれます。この制度を利用すれば相続手続のつど戸籍謄本の束を持ち回る必要が無くなり、事務負担が軽減されます。

 被相続人に隠し子がいた、というドラマのような話ばかりでなく、実は養子縁組をしていたなど、知られていない相続人が明らかになる事例は少なくありません。新たな相続人が見つかると、相続手続はやり直しになってしまいます。煩雑かもしれませんが、手順を踏んで進めてゆきましょう。

遺産に関する情報を共有し譲り合いの精神で早期に分割協議を調える

 遺言の有無や遺産の内容など、相続に関する情報は相続人全員で共有しましょう。きちんと情報共有しないと遺産を隠しているなどと疑われ、トラブルにつながりかねません。円滑な相続には風通しの良い人間関係が不可欠です。

 遺産の分割方法を指定する遺言がない場合は、相続人と遺産を確認したのちに、誰がどの財産を取得するのかを具体的に定める「遺産分割協議」を行います。法令によれば、借入金などの債務は法定相続割合で当然に分割されて各相続人に承継されますが、実務上は金融機関など債権者との交渉により承継方法を定めるのが一般的です。

 私は、遺産分割協議に臨むときの心得は以下の3点だと思います。

 ・確たる理由なく、法定相続分を大きく上回る財産を得ようとは思わないこと。どんなに争っても、最後は法定相続分にしかなりません。

 ・どうしても欲しい財産、その財産を得られれば諦めてもよい財産など、財産に順位付けをして臨むこと。

 ・譲歩できることは譲歩し、早期の合意を目指すこと。

 速やかに遺産分割協議をまとめることが相続人全員の利益になります。譲り合いの気持ちを持って円滑に協議を調えたいものです。

遺産分割協議は全員参加が不可欠

 遺産分割協議は、顔を合わせずに電話や郵便、電子メール等を活用するなど形式は自由ですが、必ず相続人全員で行う必要があります。相続人が一人でも欠けた状態での協議は無効です。

 しかし、実際には「所在が分からない」、「認知症のため判断能力がない」など、全員参加が難しい場合も少なくありません。そのようなときは参加困難な人に代わって代理人が参加する必要があります。これらの人が相続を受ける財産は、法定相続割合を確保するよう求められるのが通例です。

 代理人になるのは、未成年者や被後見人などの「制限能力者」である相続人については親権者や成年後見人など、「所在不明」などの相続人については「不在者の財産管理人」です。これらの代理人が決まっていない場合は、家庭裁判所に選任を申し立てたうえで遺産分割協議をする必要があります。

 また、代理人が同時に相続人でもある場合など利益相反関係が生ずるときは、別途家庭裁判所に「特別代理人」の選任を申し立てることが必要です。

相続手続は速やかに実施する

 遺産分割協議が調ったら、協議内容を文書化して「遺産分割協議書」を作ります。書式は任意ですが、誰がどの財産を相続するのかを、遺産すべてについて明確に記載する必要があります。そして所有権移転登記など必要な相続手続を速やかに済ませましょう。

 話し合いは済ませたが相続手続をせずに放置してしまい、手続をするために再協議が必要になった人もたくさんいます。そうならないように、早期の手続きを心掛けてください。

 各種の特例等により納税は不要になる人をふくめ、相続税の申告が必要な人は、申告納付期限内(相続が開始されたことを知った日の翌日から10カ月)の申告もお忘れなく。

どうしても遺産分割協議がまとまらない時は

 遺産分割協議が調わない時は、家庭裁判所に調停を申し立てます。調停というのは、調停委員を交えて分割協議をする手続のことです。

 調停も成立しない時は審判に移行します。審判というのは、家庭裁判所の家事審判官が法定相続割合に則って遺産分割の方法を定める手続です。遺産を換金して均等に分割する、という結論になることも少なくないようですので、調停の段階で合意したほうが良いと思いますが、一旦争いになると感情的になって妥協できなくなる人も少なくないようです。

 泥沼の相続争いから逃げ出す方法に、相続分を他の相続人などに有償または無償で譲渡する方法もあります。

 次回最終回は、円満に相続を受けるための相続対策について考えたいと思います。

(※マネー講座は随時更新。次回も「『もらう』相続」をテーマに掲載します)

【プロフィル】折原和仁(おりはら・かずひと)

りそな銀行信託ビジネス部信託管理室
アドバイザー
1961年、東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。1983年、りそな銀行に入社。ロンドン、ニューヨーク勤務などを経て、2003年から遺言信託業務に就く。2007年から全店の遺言信託案件を審査する最終責任者として現在に至る。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(CFP)、日本証券アナリスト協会検定委員(CIIA)。著書に『円満相続への道』(主婦の友社)。

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