【専欄】「中国債務のわな」の連鎖 一帯一路戦略に見直しの必要性
「一帯一路」関連の巨大プロジェクトが展開されていく中で、アジア各国に「中国債務のわな」が連鎖的に発生している。巨額の債務にあえぐアジア各国、一方の中国は不良債権の拡大による金融不安の懸念もささやかれ始めている。
「中国債務のわな」に陥っている代表的な国はスリランカだ。同国では親中国だった前政権時代に、ハンバントタ港の建設に中国から巨額の融資を受けた。ところが現政権になると、中国から受けた融資の金利が高かったことから不満が爆発した。しかし追い詰められて結局、昨年7月に中国の国有企業に同港の株式の70%を売り渡さざるを得なくなった。99年間の租借権も与えてしまった。
このほか、ラオスやパキスタンにも「中国債務のわな」に陥る危険性が生じている。ラオスでは、中国とラオスを結ぶ高速鉄道の建設が進められているが、その事業費はラオスの国家予算の2倍にも及ぶという。
さらにマレーシアも連鎖の輪の中に入ってしまった。マハティール新政権の発表によると、同国の債務額が従来の公表値を大幅に上回るという。
マハティール氏は選挙期間中から、ナジブ前政権がインフラ建設がらみの汚職に染まっていると激しく非難していた。そこには、中国との関係が強かったナジブ前政権が、巨額のプロジェクト融資を中国から受け入れていたという背景がある。
2016年10月に訪中したナジブ首相(当時)は、「一帯一路」戦略に関連する14件の大型プロジェクトについて中国側と合意した。その中には東海岸鉄道建設やバンダル・マレーシアの土地開発と融資計画、マラッカ・ゲートウェイ計画、グリーン・テクノロジー工業団地造成などのインフラ開発、さらには電子商取引などIT分野でのプロジェクトも含まれていた。
マハティール新政権は発足するとすぐに、プロジェクトの見直しを進めると公言。年内に入札が予定されていたクアラルンプール・シンガポール間の高速鉄道についても、電撃的に中止すると発表した。
中国にとって同路線は、雲南省・昆明からシンガポールまでの中国・ASEANを結ぶ「一帯一路」戦略の起点となる重要路線なだけに、ショックは大きい。
巨額の資金を投入して、一見すると順調に推移しているかに見えた「一帯一路」戦略に、早くも根本からの見直しの必要性が出ている。(拓殖大学名誉教授・藤村幸義)
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