【論風】高まる米中貿易摩擦への懸念 食料問題への影響は不可避

 
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 □ナチュラルアートCEO・鈴木誠

 米国のトランプ政権が台風の目となり、世界中に貿易摩擦が生じている。報道によると、米中間では特に激しい応酬が続いている。

 北京での初協議に続き5月17日にワシントンで行われた第2回の協議では、米国産輸入大豆への報復関税を検討していた中国側が一転、米国産農産品の輸入拡大を目指すことを約束。米国も中国からの高い輸入関税を保留して新たな交渉の枠組みに基づき協議を進めると表明するなど歩み寄りが行われるかとみられた。

 しかし、その後、米議会の強硬派などがトランプ政権の交渉姿勢を弱腰と批判したことを背景に政権が合意に慎重姿勢を示したと報じられるなど、再び先行きは不透明になった。お互いの報復合戦ではなく、節度ある話し合いによる解決を期待したい。

 日本の農業にも打撃

 米中関係は、両国だけではなく、世界中に大きな影響を与える。米国の同盟国である日本にとっても、貿易摩擦は対岸の火事ではない。直接的な貿易交渉だけでなく、地政学リスクを背景にした原油価格高騰なども貿易摩擦を一層複雑にしている。

 世界は、既に食料危機状態に突入している。各地でテロや暴動などさまざまな問題が生じているが、その多くの原因は貧困と食料不足。ひたすら増加する世界人口は、現在では70億人強となり、今後100億人にまで増加するといわれている。

 一方で、世界中の英知や資本を結集しても、農産物の増産ペースは微増にとどまる。

 天候異常、病害虫の発生、水不足、労働力不足、労働者の搾取、混乱する世界情勢の中で農業生産はますます複雑化し、特効薬は見当たらない。

 世界中で、食料や富の偏在が進み、食料難に苦しむ人の数は増える一方だ。このため、食料は安定した貿易ルールの中で、世界で共有していかなければならない。こうした中で、貿易摩擦が食料と富の偏在を一段と進めることは、時代への逆行も甚だしい。

 保護貿易は、とりわけ食料分野においては、原則はあってはならない。机上の空論でいえば、食料が供給不足なら、供給量を増やすことにはビジネスチャンスがあり、農業生産は拡大するはずだ。しかし農業生産は、そのように理屈通りにはいかない。

 農作物輸出に注力している日本の農業にとっても、貿易摩擦という新たな問題は、また悩みの種となる。長期的安定的販売が見込まれなければ、農業生産は継続できない。

 農業に対する否定的な印象がまた広がり、それは国内農業衰退に拍車をかける。日本は本来、世界の食料供給基地の一つとしての役割を果たさなければいけないのにもかかわらずだ。

 世界的食料不足の深刻化は、米国を中心とした、遺伝子組み換え農作物にさらに市民権を与え、世界に拡散し、生態系は危険水域に向かう。保護主義による貿易摩擦は、食料不足(偏在)を加速させ、遺伝子組み換え農作物栽培が、世界に拡散する引き金になるのではと危惧する。

 安全保障の再考を

 現段階では、杞憂(きゆう)といわれるであろうが、将来は決してそうではない。

 今のトランプ政権における貿易摩擦は、あまりにも乱暴で、恐らくは軌道修正されるであろう。それでも、未来にわたって貿易摩擦がくすぶり続ける可能性は高い。

 資金力や政治力の強い国だけが食料を確保し、一方で弱い国は、ますます食料危機や食料インフレの辛酸をなめ続けることになる。

 総論では、食料や農業の重要性は誰も疑いの余地がない。しかし実際には、さまざまな事情の下、日本も世界も、農業生産は伸び悩んでいる。

 日本は、今置かれている状況に対応し、自国の食料安全保障をどう確保し、世界の食料安全保障にどう貢献するかを、改めて再考する必要がある。

【プロフィル】鈴木誠

 すずき・まこと 慶大商卒、1988年東洋信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)入社。ベンチャー投融資担当などを経て98年退社、2001年日本ブランド農業事業協同組合事務局長、03年3月ナチュラルアート設立。農業経営・地域経済活性化・店舗運営・食育プロデューサー。八戸学院大学客員教授。52歳。青森県出身。