【ビジネスアイコラム】G7分裂は中国に漁夫の利 膨張抑止で結束、ルール破りに厳格対応
8日から2日間、カナダ・ケベック州で先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)が開かれる。鉄鋼・アルミなどの輸入制限を発動した米国に対して欧州が強く反発し、トランプ米大統領が孤立しかねない情勢だが、G7が仲間割れする場合ではない。G7が対峙(たいじ)すべきは中国である。安倍晋三首相は結束に向け、仲立ちできるかが問われる。
正論をぶったのは麻生太郎財務相である。先週末カナダで開かれたG7財務相・中央銀行総裁会議後の会見で、中国を名指しに「ルールを無視していろいろやっている」と批判し、G7は協調して中国に対し国際ルールを守るよう促す必要があるとの認識を示した。その上で、世界貿易機関(WTO)に違反するような米輸入制限はG7の団結を損ない、ルールを軽視する中国に有利に働くと、米国にも注文をつけた。
実際に、中国は「自由貿易ルール違反のデパート」である。知的財産権侵害は商品や商標の海賊版、不法コピーからハイテクの盗用まで数えればきりがない。おまけに、中国に進出する外国企業には技術移転を強要し、ハイテク製品の機密をこじ開ける。共産党が支配する政府組織、金融機関総ぐるみでWTOで禁じている補助金を国有企業などに供与し、半導体、ITなどを開発する。習政権が2049年までに「世界の製造大国」としての地位を築くことを目標に掲げている「中国製造2025(メード・イン・チャイナ2025)」は半導体などへの巨額の補助金プログラムだらけだ。
WTOに頼れば、自由貿易体制が守られるというのは幻想に近い。WTOの貿易紛争処理パネルに提訴された国・地域別件数を見ると、圧倒的に多いのは米国で、中国は米国の3分の1以下に過ぎない。提訴がルール違反容疑の目安とすれば、米国こそが「保護主義」であり、中国は「自由貿易」だという、とんでもない結論に導かれる。事実、習近平・中国国家主席はスイスの国際経済フォーラム(ダボス会議)や20カ国・地域(G20)首脳会議などの国際会議で臆面もなく自由貿易の旗手のごとく振る舞っている。
中国のルール破りに対し、日米欧はとにかく甘い対応しかとらなかった。理由は、中国市場でのシェア欲しさによる。WTO提訴の件数が少ないのは、ビジネス取引で報復を恐れる企業が多いせいでもある。日米欧の産業界は「中国製造2025」の目玉である半導体の国産化プロジェクトは巨大な半導体製造設備需要が生じると評価し、歓迎してきた。
米国歴代の政権は民主、共和党を問わず、中国との「戦略対話」を行い、中国側が小出しに提示する市場開放を評価した。中国の対米貿易黒字が米国債購入に回ればニューヨーク金融市場の安定につながるとみて、米側は対中貿易赤字削減を強く要求しなかった。中国人民銀行は対米貿易黒字で稼いだドルに合わせて人民元発行量を爆発的に増加させてきた。そのカネを国有商業銀行に流し込んで、インフラ、生産設備や不動産開発に融資させ、経済規模を膨らませる。そして経済成長率の2倍の速度で軍事予算を増やす。この資金源をたどるとドルに行き着く。
トランプ政権の中国への対米貿易黒字の2000億ドル(約21兆9780億円)削減要求は、軍拡モデルに打撃を与えるはずだ。
さらに、知的財産権侵害や高度技術流出の抑止策は中国の脅威にさらされる日本やアジア諸国の安全保障上の利益になる。拡大する中国市場での権益に目がくらんで、中国の貿易ルール破りを見過ごしてきた日欧は対中政策でトランプ政権と擦り合わすべきだ。
G7が分裂し、保護主義・中国に漁夫の利を提供するのはばかげている。(産経新聞特別記者 田村秀男)
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